カリブの亡霊と光の盾
6月10日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
アメリカ大陸に巣食うディアボロを討伐した私たちは、無事に東海岸のニューヨークへと辿り着いた。
「皆、助かった。礼を言うよ」
私が静かに頭を下げると、急遽アメリカ大陸まで駆けつけてくれた各国のSランク探索者たちは、それぞれ頼もしい笑顔を返してくれた。
「気にするな、坊主。また暴れる時があったら呼んでくれや」
「次はもっと骨のある相手を頼むよ。じゃあな、リーファス」
彼らは私と固い握手を交わし、ヨーロッパの各拠点へと帰っていく。世界最高峰の戦力たちの背中を見送りながら、私は彼らとの再会を胸に誓った。
さて、残る魔神の欠片はあと二つ。
私たちはニューヨークで物資の補給を済ませ、2週間ほどの僅かな休息を取った。
十分に英気を養った後、私は自身の霊力を研ぎ澄まし、世界に蠢く魔の気配を探った。微かではあるが、確かな反応が遙か南の方角から感じられる。
「南米……アマゾンの方角か」
「南ですね! リーファス様、急ぎましょう!」
「ええ、だけど油断は禁物よ」
「ボクの雷神脚がうずいてるよ!」
クリス、ディードリット、西施の三人娘も気合十分だ。私たちは『ミス・ビードル号』に乗り込み、一気に空へと飛び立った。カリブ海を抜けて南米を目指すルートをとる。
だが、カリブ海上空に差し掛かったその時、突如として異変が起きた。
空が不気味に淀んだ紫色に染まり、強力な魔の磁気嵐が吹き荒れ始めたのだ。計器が狂い、ミス・ビードル号の霊力制御も著しく乱される。
「ちっ、人為的な……いや、魔の者が起こした嵐か」
このまま飛び続けるのは危険と判断した私は、荒れ狂う波間に見えた小さな孤島へ、ミス・ビードル号を緊急着水させた。
「やれやれ、手荒な歓迎だね」
機体から降りて周囲を警戒していると、嵐の向こうから、凄まじいスピードでこちらに接近してくる巨大な影があった。
「敵ですか!?」
クリスが影の刃を展開し、ディードリットが剣の柄に静かに手をかける。
だが、近づいてきたのは魔物ではなかった。分厚い風の結界を船体全体に纏った、ブリタニア王家の最新鋭魔導高速船だ。
船が浅瀬に滑り込むようにして乗り上げると、タラップが勢いよく下ろされ、そこから見覚えのある豪奢な金髪が揺れた。
「リーファス様の窮地と聞いて、駆けつけましたわ!」
腰に手を当て、豊満な胸を張り、動きやすい魔導装束姿で見事なまでのドヤ顔で現れたのは、ブリタニア王国の第三王女、エリザベスだった。彼女の肩には、見慣れない純白のフクロウが凛と止まっている。
「……エリザベス王女? なぜこんな所に」
「ふふっ、ニューヨークにいる聖女カタリナ様から通信をいただきまして、貴方様がアメリカ大陸での戦いを終え、南米へ向かうと聞き及びましたの! いてもたってもいられず参りましたわ! わたくし、リーファス様にお会いできない間、聖女カタリナ様の下で過酷な修行を積んでいましたのよ!」
どうやら私たちが不在の間、聖魔法の大家であるカタリナに弟子入りしていたらしい。クリスが「また厄介な羽虫が……」とボソリと呟くのが聞こえた。
だが、感動の再会をのんびりと喜んでいる余裕はなかった。
『ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!』
海面が黒く濁り、巨大な渦が巻き起こる。渦の中心から姿を現したのは、朽ち果てた巨大なガレオン船。いや、船そのものが巨大なクラーケンと融合した、悍ましい怪物だった。船首に立つボロボロの海賊旗と、禍々しい亡霊の気配。
「……なるほど、悪名高き海賊『黒髭』ティーチの亡霊か。クラーケンと融合してまで現世にしがみつくとはね」
『ギルルルルルォォォォ!!』
ティーチの幽霊船は雄叫びを上げると、無数に蠢く巨大な触手の先端から、全方位に向けて強烈な魔力弾を一斉に乱れ撃ってきた。
「危ないっ!」
「ふふん、わたくしの修行の成果、とくとご覧あそばせ! いきなさいっ、シロ!」
エリザベスが肩のフクロウを放つと、純白のフクロウ・シロは眩い光を放ちながら宙を舞い、私たちの前面に巨大な光の壁を瞬時に構築した。
「――聖光反射結界!」
ドォォォォンッ!!
降り注ぐ無数の魔力弾が光の壁に激突する。だが、結界は微塵も揺るがない。それどころか、聖なる光は魔力弾の軌道を鮮やかに反転させ、倍以上の威力となって幽霊船へと容赦なく跳ね返したのだ。
『ギャァァァァッ!?』
自分自身の魔弾を浴び、幽霊船の触手が次々と吹き飛んでいく。
「ほう……見事な結界術だ。私の陰陽術の反射術にも似た理だね」
「ええっ! リーファス様にお褒めいただけるなんて!」
頬を林檎のように染めて喜ぶエリザベス。
だが、幽霊船はまだ沈まない。怒り狂った亡霊ティーチが、船体を直接こちらへ突撃させようと急速に加速する。
「なら、こちらも海の作法で応えようか」
私は静かに霊力を練り上げ、両手を広げて海面へと向けた。
「英霊降臨――ホレーショ・ネルソン」
鮮烈な霊力の光がカリブの海を真っ青に照らし出す。海中からゴゴゴと浮上したのは、イギリス海軍の誇りたる伝説の第一級戦列艦。
「――戦艦ヴィクトリー」
私の背後に、木造戦艦の巨大な舷側と、三層に連なる無数の大砲が部分召喚として実体化した。エリザベスの聖光反射結界が敵の足を止め、完全に絶好の的となった幽霊船へ向けて、私は腕を鋭く振り下ろした。
「トラファルガーの砲雷、受けてもらうよ。――一斉射撃」
凄まじい轟音。
数十門の大砲から一斉に放たれた霊力の砲弾が、エリザベスの結界の脇を正確にすり抜け、幽霊船の土手っ腹に情け容赦なく全弾命中した。
『バカナーーーーッ!?』
ティーチの絶望的な断末魔と共に、クラーケンと融合した幽霊船は木端微塵に粉砕され、浄化の光を帯びた美しい海へと静かに沈んでいった。
「……ふぅ。少し手間を取らせてくれたね」
「す、すごいですわリーファス様! わたくしたち、最高のコンビネーションでしたわね!」
エリザベスが目を輝かせて私の腕にきゅっと抱き着いてくる。
「ちょっと! 王女だからって馴れ馴れしいです! 離れてください!」
「なによそこのダメイド! わたくしは今、リーファス様の役に立ちましたのよ!」
「ボ、ボクだって雷神脚で海ごと割れたんだからね!」
「……また騒がしくなるわね」
クリスとエリザベスがバチバチと激しく火花を散らし、西施が負けじと張り合い、ディードリットが呆れ顔で静かにため息をつく。
かくして、強引に合流を果たした光の王女を新たに加え、私たち一行は魔神の欠片が眠る南米アマゾンへと、再び力強く舵を切るのだった。
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