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閑話:白き翼に誓う再会

6月10日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

それは、リーファスが魔王ミネルヴァを撃破し、世界中に飛び散った魔神の欠片を追って遙かなる旅路へと出発した直後のこと。

ブリタニア王国の第三王女エリザベスは、王城のバルコニーから、あの方が消えた遠い空をただじっと眺めていた。


「わたくしは……また、あの背中を見送るだけなのですわね」


彼女の胸を焦がしていたのは、あまりにも痛烈な無力感だった。

ロンドンでの凄まじい騒乱の際、リーファスが魅せた神域の圧倒的な力。それに引き換え、自分はただ安全な場所で守られるだけの、無力な象徴に過ぎない。

その痛切な焦燥を見透かしたように、ブリタニアを拠点とする聖女カタリナが、足音もなく静かに背後に現れた。


「殿下。その瞳には、守られるだけの器には収まりきらない強い輝きが視えます」


エリザベスは振り返ると、その場でカタリナの気高い手を強く握り締め、必死に懇願した。


「カタリナ様、お願いです。わたくしに、あの方の隣に並び立つための術を……大切な命を護り抜く、真の力を教えてくださいまし!」


◇◇◇◇◇


王女の壮絶な修行は、王城の裏手にどこまでも広がる精霊の森で幕を開けた。

リーファスがトルコ、中国、そしてヤマトへと世界各地を転戦し、命がけの死闘を繰り広げている間、エリザベスはカタリナの厳格な指導の下、過酷を極める聖魔法の特訓に身を投じ、泥に塗れながら明けても暮れても魔力を練り続けた。


ある日の修行の最中、森の奥深くから不気味に歪んだ魔力の咆哮が轟いた。

木々をなぎ倒して現れたのは、深い傷を負い、禍々しい魔素によって狂乱状態に陥った巨大な白フクロウの魔獣だった。


「危ないですわ!」


エリザベスが咄嗟に身構えるが、カタリナは微塵も動じず一歩前へ出ると、静かにその指先を突き付けた。


「――浄化の光よ、迷える魂に安らぎを!」


カタリナの指先から放たれた、どこまでも清冽な絶対の光が魔獣を優しく包み込む。狂乱は一瞬にして霧散し、魔獣は柔らかな光の粒子となって、穏やかに森の土へと還っていった。

圧倒的な聖なる力。エリザベスがその神々しい背中に深く見惚れていると、魔獣が倒れていた木の根元に、完全に冷えかかった一つの小さな卵がぽつりと残されていることに気づいた。


「……親の魔獣は魔素に当てられ、すでに限界だったのでしょう。この卵も、もうすぐ息絶えて消え去る運命です」


カタリナが淡々と冷酷な現実を告げる中、エリザベスは突き動かされるように、その場に跪いて卵をそっと抱き上げていた。


「いいえ、決して消えさせはいたしませんわ。わたくしが、この小さな命を現世につなぎ止めてみせます!」


◇◇◇◇◇


それからの日々、エリザベスは己の膨大な魔力を、惜しむことなく狂おしいほどに卵へと注ぎ込み続けた。

聖女カタリナの教えである「慈愛による共鳴」。それは単なる一方的な魔力供給などではなく、自らの魂の片割れを、命の灯火として分け与える過酷な儀式そのものだった。


それから数週間後。リーファスがロシアの地で冥界神ヘルを完全に見事に退けたという報せが、遥か風の噂にブリタニアへと届いた頃――エリザベスの腕の中で、卵が太陽のような眩い光を放ち、雪のように真っ白で美しいフクロウが力強く産声を上げた。


「シロ……今日からあなた名前は『シロ』ですわ!わたくしの目となり、大空を駆ける気高き翼となるのですわ!!」


カタリナはこの奇跡の成就を心から喜び、エリザベスの才能を認めて独自の最高位術式を授けた。

白フクロウ・シロと意識・視界を完全に共有し、遥か上空を舞うシロを起点として聖魔法を自在に発動する『遠隔聖法』。

これにより、エリザベスは後方に身を置きながらにして、シロの舞う戦場のあらゆる場所に絶対の反射結界を瞬時に展開できる、極めて特殊で強力な支援術師へと凄まじい成長を遂げたのである。


◇◇◇◇◇


修行がいよいよ佳境に入ったある日のこと。エリザベスの手元にある、最高級の王家魔導通信機が激しく明滅を始めた。

聖女カタリナは、アメリカでのディアボロ討伐の絶対的な増援としてすでに現地へと渡っており、ニューヨークの探索者ギルド支部から、ブリタニアにいるエリザベス王女に向けて極秘の緊急通信を入れてきたのだ。


『殿下、聞こえますか? カタリナです。……ええ、アメリカ大陸での任務はすべて完了しました。あの悍ましいディアボロは、帰還を果たしたリーファス様の手によって完璧に討たれました』


「リーファス様が! それで、あの方は……!」


『ええ、ご無事です。ですが、あの方はニューヨークで僅かな休息を取った後……世界に残る最後の魔神の欠片の気配を察知し、ニューヨークからカリブ海を抜け、南米大陸を目指して出発するとおっしゃっていました』


エリザベスの美しい瞳に、もはや迷いのない、決然とした強固な光が宿った。


「カリブ海……そして、南米ですわね。カタリナ様、重大な情報に感謝いたしますわ!」


通信を鋭く切るや否や、エリザベスは背後に控えていた近衛騎士たちを堂々と見据え、凛とした声で命じた。


「だれか!直ちに旅の用意をなさい! 王家直属の魔導高速船を出港させるのです。……わたくしも、シロと共に今すぐカリブへ向かいますわ!」


肩に止まったシロが、主の揺るぎない決意に呼応するように、鋭く高く鳴き声を響かせた。

豪奢なドレスを躊躇なく脱ぎ捨て、聖女譲りの動きやすい魔導装束を身に纏った彼女の姿は、もはや城の奥で「ただ待つだけの王女」では断じてなかった。


「待っていてくだしまし!リーファス様――今度はこのわたくしが、貴方の命を、その背中を必ず守って差し上げますわ!!」


ブリタニアの港から、一筋の美しい白い航跡が、あの方のいる遥かなる南の空へと真っ直ぐに伸びていった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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