番外編:最終話『二界の絆、蒼き鳳凰の飛翔』
京都の夜空を、禍々しい紫色の雷が引き裂いていました。かつての都の中心、京都御所。
その上空には異世界と繋がる「巨大な眼」のような次元の亀裂が開きかけていました。
「遅かったな、加茂の小娘。……いや、時行の残り香と言うべきか」
御所の中心に築かれた祭壇の上で、陰陽寮長・**土門 観山**が嘲笑しました。
彼の周囲には、異世界の魔神の欠片から漏れ出した瘴気が渦巻き、無数の異形の怪異が這いずり回っています。
「土門……ッ! お母さんを……この世界を犠牲にして、神にでもなるつもり!?」
息を切らして駆けつけた永遠は、肩に乗る黒猫のジルと共に彼を睨みつけました。
「神ではない、真の『統治者』になるのだ。小僧が偶然残していったこの次元の歪み……これこそが、停滞した現代呪術を次の次元へ引き上げる鍵!」
土門が扇子を振り下ろすと、瘴気から生まれた巨大な魔獣たちが一斉にトワへと襲いかかりました。
◇◇◇◇◇
「トワ、出し惜しみはなしだ! ボクの霊核を全開にする。……叔父様が預けた『英霊の座』にアクセスするんだ!」
ジルの体が蒼い光の粒子となり、トワの全身を包み込む霊気の衣へと溶け込みました。
トワの脳裏に、叔父・時行が異世界で見てきた数多の英雄たちの姿が過ぎ去ります。
その中から、トワの魂——「愛する者を護り抜く女武者」の波長に最も強く共鳴した一つの概念が、現実世界へと引きずり出されました。
「——我が身に宿れ、平安を駆け抜けた鬼神! 英霊降臨:巴御前!」
トワの背後に、具足に身を包んだ美しい女武者の幻影が浮かび上がり、彼女の身体に重なりました。
トワの両手には、霊力で編み上げられた身の丈ほどの**『強弓』**が握られています。
「吹き飛べッ!」
弦を引き絞り、放たれた蒼い矢は空中で無数に分裂。
空を覆う魔獣たちの眉間を正確に射抜き、光の雨となって雨霰と降り注ぎました。
「な、なんだその術は……! 現代の陰陽術に、そのような召喚術は存在しない!」
驚愕する土門。しかし、巴御前の武の概念をインストールしたトワの攻撃は止まりません。
◇◇◇◇◇
「ジル、霊力変換! 次ッ!」
弓が光の粒子となって消えると同時に、トワは腰に現れた**『太刀』**を抜き放ちました。
神速の踏み込み。かつて義仲と共に戦場を舞った巴御前の剣技が、トワの身体を完璧に統制します。
迫り来る地上型の怪異たちを、舞うような太刀筋で次々と両断し、祭壇へと一直線に道を切り開きました。
「おのれ……! ならばこれでどうだ!」
土門が祭壇の力を解放し、強固な五芒星の絶対結界を展開します。
「そんな殻、叩き割ってあげる! ——薙ぎ払え!」
トワが太刀を放り投げると、空間から長大な**『薙刀』**が現れ、その手に収まりました。
助走をつけ、渾身の力を込めた薙刀の一撃が結界に直撃します。
巴御前の剛力と加茂の蒼炎が融合した一撃は、土門の絶対結界にビキビキと亀裂を走らせ、ついに粉々に打ち砕きました。
「馬鹿な……陰陽寮長である私の結界が、ただの小娘に……!」
◇◇◇◇◇
結界を破られた土門は、絶望的な表情で上空の「亀裂」へと手を伸ばしました。
「こうなれば、魔神の腕だけでも引きずり出して……!」
亀裂の奥から、異世界の空を覆うほどの巨大な魔神の瞳がこちらを覗き込みました。
現代の霊力では到底太刀打ちできない、圧倒的な絶望の気配。
その時、トワの胸元の「お守り袋」が、太陽のように眩く輝きを放ちました。
『——させないさ。こちらの「掃除」は、ちょうど終わったところだ』
通信越しに響く、叔父・時行の声。亀裂の向こう側、異世界の空で、妖精王オベロンの光を纏ったリーファスが、魔神の欠片を取り込んだ悪魔の本体へ向けて究極の魔法陣を展開しているのが見えました。
『トワ、ジル! 俺が向こう側から敵の核を砕く! お前はそっちから、次元の歪みの中心……土門の術式を撃ち抜け!』
「うんっ! 行くよ、叔父さん!」
トワは薙刀を手放し、両手で最後の印を結びました。
ジルの霊力、巴御前の闘気、そして加茂の血が一つに融け合います。
『妖精王の星穿!』
「急々如律令! 蒼炎鳳凰撃!」
異世界からは星を砕く極光が。
現代日本からは、夜空を焦がす蒼き鳳凰が。
二つの世界から放たれた一撃が、次元の亀裂の中心で完全に激突しました。
魔神の断末魔の叫びと共に、次元の歪みは完全に浄化され、土門の野望は光の中に消え去りました。
◇◇◇◇◇
夜が明け、京都の街に穏やかな朝日が差し込み始めました。
気を失って倒れる土門を残し、トワは御所の芝生に大の字で寝転がっていました。
肩のあたりで、霊力を使い果たしたジルが丸くなって寝息を立てています。
『……トワ。聞こえるか?』
お守りから、静かな声が響きました。
「……うん。お疲れ様、叔父さん。そっちはどう?」
『ああ、魔神の欠片は回収した。こちらも朝日が昇っているよ。……よくやったな、トワ。俺がたまたま残した借りを、見事に返してくれた』
「ふふっ。お母さんが言ってたよ。お兄ちゃんは昔から、何かやらかしても最後は必ずビシッと決める人だったって」
通信の向こうで、リーファスが苦笑する気配が伝わってきました。
『……俺が死んだ時、お前はまだ2歳で、鼻水を垂らして泣いていたのにな。いつの間にか、立派な陰陽師になったものだ』
「ちょっと! 私はもう18歳だよ! 叔父さんこそ、いつまでもその若いイケメンの姿でいるつもり?」
軽口を叩き合いながら、トワは朝日を見上げました。
空は繋がっていないけれど、心は確かに繋がっている。16年の時を越えて再会した、二つの世界に生きる加茂の血族。
「叔父さん。向こうの世界を平和にしたら……また、プリン食べに帰ってきてね。お母さんと、お父さんと、リクトと一緒に待ってるから」
『……ああ。約束する』
少女と黒猫の戦いは、ひとまずの幕を下ろしました。
異世界の英雄と、現代の女子高生陰陽師。二人の絆はこれからも、蒼い炎のように温かく燃え続けていくことでしょう。
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