番外編4:黒幕の正体と、決戦の予感
6月10日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
九条の襲撃が去った後、不穏な静寂が漂う賀茂家の書庫。
父・春樹と母・桜を前にして、永遠は懐に忍ばせた「真実」を明かす時が来たと静かに悟っていた。
「……お父さん、お母さん。あのリーファスさんの正体、本当は――」
永遠が震える声で切り出したその瞬間、胸元の守り袋が眩いばかりの蒼い光を放った。
書庫の空気がびりびりと震え、通信のノイズ混じりに、あまりにも聞き馴染みのある、けれどこの現世で届くはずのない懐かしい声が響き渡る。
『……桜。久しぶりだな。ずいぶん……老けたか? 歳をとったお前を見るのは、不思議な気分だ』
「え……っ、お兄ちゃん……なの……?」
桜が、弾かれたように立ち上がった。2026年の現在から遡ること16年前――55歳でこの世を去った、賀茂家の前当主であり、彼女の15歳年上の最愛の兄――賀茂 時行。
『時行……義兄さん、本当に義兄さんなのか!?』
義弟である春樹もまた、驚愕のあまり絶句していた。
『ああ。死後、俺の魂は異世界へ流れ、リーファスという名の赤子として転生した。……先日、お前たちの前に現れたのは、あちらの世界のトラブルで偶然転移してしまったからだ。……賀茂の家を守るためなんて殊勝な理由じゃない。ただの、事故のような再会だったんだ』
時行――リーファスは通信の向こうで自嘲気味に静かに笑った。けれど、その声には隠しきれない家族への慈しみが深く滲んでいる。
◇◇◇◇◇
「事故でも……何でもいいわ。お兄ちゃん、また会えた……!」
涙を流す桜に、リーファスの声はすぐに厳しさを帯びて次の事実を告げた。
『感傷に浸る時間はなさそうだ。俺がそっちの世界へ偶然戻ったことで、次元の壁に傷がついた。陰陽寮長・土門 観山がそれを見逃さず、異世界の魔神をそっちの世界へ招き入れようとしている。……俺がそっちの世界へ戻らなければ、起きなかったはずの災厄だ』
土門は、賀茂直系の強い血を引く桜、あるいは永遠のどちらかを、魔神降臨の生贄に捧げようと画策していた。
かつて時行が命をかけて愛し、守ろうとした妹。その存在が、今度は自分の「帰還」のせいで最大の危機に晒されているのだ。
『永遠さん、ジル。……私の至らなさのせいで心苦しいけれど、力を貸してほしい。ジル、永遠さんに『英霊の座』の概念とチャネリングを伝授するんだ。今の彼女の霊力制御なら魂の階位も十分なはず、賀茂家の『英霊降臨』の術を完璧に再現できるはずだ』
◇◇◇◇◇
「了解だよ、主。……さあ、トワ、ボクの核に触れて!」
ジルの身体が美しい青い粒子となって、トワの全身を優しく包み込んでいった。
トワの意識の中に、叔父が異世界で文字通り「英雄」として戦ってきた凄まじい記憶、鮮烈な数多の英霊たちの誇り高き武勲がダイレクトに流れ込んでくる。
「これが……叔父さんが向こうの世界で生きてきた、確かな証……」
トワの制服の上に鮮烈な霊気の衣が纏われ、その瞳にはリーファスと全く同じ、揺るぎない蒼炎の輝きが宿った。
16年前に逝った叔父から、現代を生きる若い姪へと、魂のバトンが美しく渡された瞬間だった。
「……トワ。私のお兄ちゃんが繋いでくれた大切な縁よ。この世界を……私たちの温かい日常を、守って」
桜が、自身の美しい髪を実直に束ねていた賀茂家伝来の組み紐を、トワの細い手首へと優しく結びつけた。
「――行ってくるわ。お父さん、お母さん、リクト! 叔父さんが『たまたま』戻ってきたこの場所を、私が最高の場所に変えてみせるんだから!」
◇◇◇◇◇
夜の古都・京都。不気味な黒雲が禍々しく渦巻く京都御所へと向かって、少女と黒猫が迷いなく夜風を切り裂いて飛び出した。
「トワ、主があっちの世界で悪魔を退治している間に、こっちはボクたちが土門を叩き潰すよ!」
「ええ、ジル! 叔父さんに『私に任せて大正解だったでしょ』って、思いっきり胸を張って言ってやるんだから!」
学生服の裾を大きくなびかせ、鮮やかな蒼い光の尾を引いて夜空を駆ける永遠。
異世界の英雄となった大好きな叔父の背中を追い越し、少女は今、現代最強の陰陽師としての偉大なる第一歩を踏み出したのだった。
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