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番外編3:陰術師の刺客、暗躍する影

旧校舎での事件から数日。平穏が戻ったかに見えた加茂家でしたが、黒幕の手はついに本丸へと伸びようとしていました。


「トワ姉、最近ずっと庭で猫と喋ってるよね……大丈夫?」


居間で宿題を広げていた弟の**陸翔リクト**が、怪訝そうな顔で窓の外を指差しました。

縁側では、永遠トワが黒猫のジルと向き合い、何やら真剣な表情で印を組む練習をしています。


「放っておきなさい、陸翔。永遠は今、加茂の跡取りとして一番大事な時期なんだから」


父の**春樹ハルキ**が苦笑しながらフォローを入れますが、その表情にはどこか陰りがありました。

陰陽寮内部で不穏な動きがあることを、事務官である彼は察知していたのです。


(トワ、集中して。リーファスの術は『形』じゃない、『意志』で霊力を編み込むんだ)

「わかってるわよ、ジル! でもこれ、結構疲れるんだから……」


ジルを通じた特訓の最中、不意に空気が凍りつきました。


◇◇◇◇◇


「——加茂の家も、ずいぶんと賑やかになったものだ」


不気味な声と共に、庭の木々が枯れ落ち、黒い霧が立ち込めました。

霧の中から現れたのは、顔の半分を包帯で隠した異形の男。

陰陽寮の黒幕が放った直属の刺客、**『影縫いの九条』**でした。


「お前は……! 父さんに何の用よ!」

「事務官殿には少し、異世界の知識について詳しく吐いてもらわねばならん。邪魔だ、小娘」


九条が袖から放ったのは、怨念を物理的な質量に変えた**『特級呪霊』**。

それは巨大な蜘蛛のような姿に変じ、凄まじい速度で春樹と陸翔のいる居間へと突っ込みました。


「お父さん、陸翔! 下がって!」


◇◇◇◇◇


トワが割って入るよりも早く、特級呪霊の爪が彼女を襲います。

反射的に結界を張りますが、これまでの雑魚とは次元が違う重圧に、結界に亀裂が入ります。


「くっ、重い……!」

(トワ、ボクの核に触れて! 主の霊力を完全にシンクロさせるんだ。今の君なら、あの『鳳凰』をさらに昇華できるはずだよ!)


ジルがトワの肩に駆け上がり、その蒼い瞳とトワの瞳が重なりました。

その瞬間、トワの脳内にリーファスの戦いの記憶が奔流となって流れ込みます。


「……見えた。叔父さんなら、こうする!」


トワの全身から、これまでの蒼炎を凌駕するほど純度の高い、透き通るような青い輝きが溢れ出しました。


「——急々如律令。加茂流奥義・蒼炎鳳凰撃そうえんほうおうげき!」


放たれたのは、もはやただの炎ではありませんでした。

美しくも猛々しい青い鳥が、特級呪霊を正面から飲み込み、その存在を因果ごと焼き尽くすように消滅させました。


「な……馬鹿な、子供がこれほどの術を……ぐわああああ!」


影に潜んでいた九条もその余波を受け、腕を焼き焦がしながら闇の中へと逃げ去っていきました。


◇◇◇◇◇


嵐が去り、気を失っていた家族を確認したトワは、その場にへたり込みました。

しばらくして、胸元のお守りがいつもより少しだけ強く熱を帯びました。


『……トワ。……見ていたぞ。今のは、俺が教えていた時よりもずっと洗練されていたな』


通信越しのリーファスの声は、どこか鼻声でした。


「叔父さん……もしかして、泣いてる?」

『……バカを言うな。砂漠の砂が目に入っただけだ。……それより、春樹さんと陸翔を助けてくれてありがとうな』


その言葉に、トワは思わず胸が熱くなりました。

正体が叔父だとわかってから、どこか気恥ずかしかった「ありがとう」という言葉が、今は何よりも誇らしく感じられます。


「……ねえ、叔父さん。私、もっと強くなるよ。叔父さんがこっちの心配をしなくていいくらいに。だから……」

『ああ。約束する。俺も必ず、全ての欠片を集めたら……会いに行くよ』


ジルが満足げに喉を鳴らし、トワの膝の上で丸くなりました。

刺客の襲来は、さらなる激闘の序章に過ぎません。

しかし、少女の心には、異世界にいる英雄と同じ「加茂の誇り」が、青い炎となって静かに燃え始めていました。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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