番外編2:神隠しの旧校舎、少女と猫の放課後
放課後のチャイムが鳴り響く教室で、**加茂 永遠**は机に突っ伏していました。
「トワ、大丈夫? また寝不足?」
クラスメイトの声に顔を上げると、そこには心配そうにこちらを見る友人の姿がありました。
しかし、その隣にいつもいるはずの、明るい笑顔の親友——アオイの姿がありません。
「……うん、ちょっとね。それよりアオイ、今日も休み?」
「そうなの。昨日から連絡もつかなくて……。ねえ、トワ。最近の噂、知ってる? 旧校舎の三階、鏡のある教室に行くと『神隠し』に遭うって……」
トワの鞄の中で、ひっそりと黒い尻尾が揺れました。
(トワ、聞き流しちゃダメだ。この校舎全体に、嫌な『次元の歪み』の匂いが充満し始めているよ)
脳内に直接響くジルの生意気な少年ボイス。トワは生唾を飲み込み、親友が最後に目撃されたという場所へ向かう決意を固めました。
◇◇◇◇◇
夜の帳が下りた頃。
トワはジルを肩に乗せ、立ち入り禁止の旧校舎へと足を踏み入れました。
「ジルの言った通りね。……昼間よりずっと空気が重い」
「当たり前さ。誰かが意図的に、この世界の霊脈を捻じ曲げて『門』の実験をしている。主が帰還した時の穴を、悪用してる奴がいるんだ」
ジルが蒼い瞳を光らせ、壁一面の大きな姿見を指しました。
そこには、映るはずのない「無人の教室」が広がっています。
「そこが入り口だ。——行くよ、トワ!」
鏡を通り抜けた先は、歪んだ空間でした。
天井と床が反転し、教室の壁からは異世界の粘液のようなものが滴り落ちています。
教室の奥では、アオイを含む数名の生徒が、繭のような半透明の膜に包まれ、霊力を吸い取られていました。
「……見つけたわ。これ以上、好き勝手はさせないんだから!」
◇◇◇◇◇
「おや、加茂の生き残りが迷い込んできたか。実験体が増えるのは歓迎だ」
影の中から現れたのは、黒い法衣を纏った痩身の男——陰陽寮の末端に籍を置く、下級術師でした。彼は黒幕から与えられたという、異世界の魔核を埋め込まれた式神**『鏡魔』**を召喚します。
「蒼炎術・千鳥!」
トワが放った鋭い火炎の弾。
しかし、鏡魔がその身をガラスのように変質させると、火炎はそのままの威力でトワへと跳ね返ってきました。
「きゃああっ!?」
「無駄だよ。この式神は受けた霊力をそのまま『反射』する。あのリーファスならともかく、君程度の出力じゃ、自分で自分を焼くだけさ」
「トワ、落ち着いて!」
ジルの声が響きます。
「力押しは主のスタイルじゃない。構造を視るんだ。鏡が反射するのは『光』だけじゃない。……なら、こっちも『鏡』をぶつけてやればいいのさ」
◇◇◇◇◇
トワは深く呼吸を整えました。
叔父が異世界で見せた、
あらゆる汚れを飲み込む『魔法の杯』。
その概念を、自分なりに解釈し、呪符に込めます。
「……鏡には鏡を。反射の連鎖を、私が止める! 蒼炎術・水鏡!」
トワが放ったのは、攻撃のための炎ではなく、静かな水面のような霊力の膜でした。
鏡魔がトワを映そうとした瞬間、その鏡面はトワの放った「水鏡」に逆に映し出され、反射の無限ループに陥って自壊を始めました。
「な……式神が、自分自身を反射して崩壊していく……!?」
「今だ、トワ! 主直伝の、一番きついやつを叩き込め!」
ジルの合図と共に、トワは全霊力を右拳に集中させました。
「——叔父さんの名に恥じない戦いを見せるんだから! 蒼炎術・鳳凰破!」
咆哮と共に放たれた蒼い鳳凰が、鏡の迷宮を粉砕し、術師ごと異界を焼き払いました。
◇◇◇◇◇
朝日が昇る前、無事に救出されたアオイたちを救急車へ引き継ぎ、トワは自宅の書庫で力尽きていました。
その時、胸元のお守りが優しく光ります。
『……トワ、よくやったな。ジルから聞いたぞ。お前の機転で鏡の迷宮を破ったそうじゃないか』
「……叔父さん。もう、本当に無茶苦茶だよ……」
疲れ果てたトワの答えに、リーファスはクスクスと笑うような気配を見せました。
『ああ。だが、お前が人を助けたいと思ったその心が、術に力を与えたんだ。……自分へのご褒美に、冷蔵庫のプリンでも食べて、今日はゆっくり休め。あれは前世から変わらない、最高の回復薬だ』
「……もう。本当に、叔父さんなんだから」
トワは照れくさそうに笑い、ジルを抱き寄せました。
異世界で魔神の欠片を追う英雄と、現代日本で家族と友人を守る少女。
二つの世界を繋ぐ絆は、少しずつ、けれど確実に強まっていくのでした。
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