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番外編2:神隠しの旧校舎、少女と猫の放課後

6月9日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

放課後のチャイムが静かに鳴り響く教室で、賀茂かも 永遠とわは机に突っ伏していた。


「トワ、大丈夫? また寝不足?」


クラスメイトの声に顔を上げると、そこには心配そうにこちらを覗き込む友人の姿があった。

しかし、その隣にいつもいるはずの、明るい笑顔が印象的な親友――アオイの姿がない。


「……うん、ちょっとね。それよりアオイ、今日も休み?」


「そうなの。昨日から連絡も全くつかなくて……。ねえ、トワ。最近の噂、知ってる? 旧校舎の三階にある、鏡のある教室に行くと『神隠し』に遭うって……」


トワのスクールバッグの中で、ひっそりと黒い尻尾が小さく揺れた。


(トワ、聞き流しちゃダメだ。この校舎全体に、嫌な『次元の歪み』の匂いが充満し始めているよ)


脳内に直接響くジルの生意気な少年ボイス。トワは生唾を静かに飲み込み、親友が最後に目撃されたという場所へ向かう決意を固めた。


◇◇◇◇◇


夜の帳がすっかり下りた頃。

トワは黒猫のジルを肩に乗せ、立ち入り禁止となっている旧校舎へとそっと足を踏み入れた。


「ジルの言った通りね。……昼間よりずっと空気が重い」


「当たり前だよ。誰かが意図的に、この世界の霊脈を捻じ曲げて『門』の実験をしている。リーファスが帰還した時の穴を、悪用している奴がいるんだ」


ジルが蒼い瞳を妖しく光らせ、壁一面にはめ込まれた大きな姿見を指し示した。

そこには、本来映るはずのない「誰もいない無人の教室」が奇妙に広がっている。


「そこが入り口だ。――行くよ、トワ!」


鏡をすり抜けた先は、完全に歪んだ異界の空間だった。

天井と床が上下反転し、教室の壁からは異世界のねっとりとした粘液のようなものが滴り落ちている。教室の奥では、アオイを含む数名の生徒たちが、繭のような半透明の膜に包まれ、霊力をじわじわと吸い取られていた。


「……見つけたわ。これ以上、好き勝手はさせないんだから!」


◇◇◇◇◇


「おや、賀茂の生き残りが迷い込んできたか。実験体が増えるのは歓迎だ」


暗い影の中から現れたのは、黒い法衣を纏った痩身の男――陰陽寮の末端に籍を置く、下級術師だった。彼は黒幕から与えられたという、異世界の魔核を無理やり埋め込まれた不気味な式神『鏡魔きょうま』を召喚する。


「蒼炎術・千鳥!」


トワが放った鋭い火炎の弾。

しかし、鏡魔がその身体をガラスのように一瞬で変質させると、火炎はそのままの威力でトワへと真っ直ぐ跳ね返ってきた。


「きゃああっ!?」


「無駄だよ。この式神は受けた霊力をそのまま『反射』する。あのリーファスならともかく、君程度の出力じゃ、自分で自分を焼くだけだよ」


「トワ、落ち着いて!」


ジルの鋭い声が響く。


「力押しはあるじのスタイルじゃない。構造を視るんだ。鏡が反射するのは光だけじゃない。……なら、こっちも『鏡』をぶつけてやればいいんだよ」


◇◇◇◇◇


トワは深く、呼吸を整えた。

叔父リーファスが異世界で見せた、あらゆる汚れを飲み込んで消し去る『魔法の杯』。

その絶対的な概念を、自分なりの解釈で呪符へと込めていく。


「……鏡には鏡を。反射の連鎖を、私が止める! 蒼炎術・水鏡みかがみ!」


トワが放ったのは、攻撃のための激しい炎ではなく、静かな水面のような霊力の膜だった。

鏡魔がトワの攻撃を映し出そうとした瞬間、その鏡面はトワの放った「水鏡」に逆に鮮明に映し出され、反射の無限ループに陥って自壊を始めた。


「な……式神が、自分自身を反射して崩壊していく……!?」


「今だ、トワ! 主直伝の、一番きついやつを叩き込め!」


ジルの合図と共に、トワは全ての霊力を右拳へと一気に集中させた。


「――叔父さんの名に恥じない戦いを見せるんだから! 蒼炎術・鳳凰破!」


咆哮と共に放たれた蒼い鳳凰の炎が、鏡の迷宮を木っ端微塵に粉砕し、術師ごと醜い異界を綺麗に焼き払った。


◇◇◇◇◇


朝日が昇る前、無事に救出されたアオイたちを救急車へと引き継ぎ、トワは自宅の書庫で完全に力尽きていた。

その時、胸元のお守りが優しく蒼く光る。


『……永遠とわさん、よくやったね。ジルから聞いたよ。君の機転で鏡の迷宮を破ったそうだね』


「……叔父さん。もう、本当に無茶苦茶だよ……」


疲れ果てたトワの答えに、リーファスはクスクスと静かに笑うような気配を見せた。


『ああ。だけど、君が人を助けたいと思ったその心が、術に本物の力を与えたんだ。……自分へのご褒美に、冷蔵庫のプリンでも食べて今日はゆっくり休むといい。生前、君の母親である桜さんとよく奪い合って食べた、私にとっても思い出の味なんだ』


「……もう。本当に、叔父さんなんだから」


トワは照れくさそうに小さく笑い、隣にいたジルをそっと抱き寄せた。

異世界で魔神の欠片を追う英雄と、現代日本で家族と友人を守る少女。

二つの世界を繋ぐ魂の絆は、少しずつ、だけど確実に強まっていた。


挿絵(By みてみん)

本日もお読みいただきありがとうございます!

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