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番外編1:魂の再会、黒猫の使者ジル

6月9日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

「……あいつ、本当に帰っちゃったんだ」


賀茂かも 永遠とわは、制服のまま書庫の長椅子に力なく身を投げ出し、胸元の「お守り袋」をじっと見つめていた。

突然現れた、圧倒的な強さを誇る従弟のリーファス・カモ。自分たちの窮地を救い、風のように異世界へと去っていった彼。永遠とわの心には、まだ名前の付けられない複雑な感情が激しく渦巻いていた。


その時、手元のお守りが脈動するように蒼く優しく発光した。


『――永遠とわさん、聞こえるか。……無事にこちらへ戻れたよ。心配をかけた』


「リーファス!?」


ガタッと跳ね起きた永遠の耳に直接届く声。それは以前よりずっと柔らかく、どこか愛おしむような響きを湛えていた。


『……永遠とわさん、一つだけ謝らなければならないことがある。私は時行の息子ではないんだ。……私の魂は、君の母親である桜さんの兄。2010年に事故で亡くなった、君の本当の「叔父」にあたる人間だ』


「え……? 叔父さん……って、あのお母さんの古いアルバムに載ってた……?」


『ああ。死後、異世界の赤子として転生し、強大な霊力を得て一時的にこちらへ戻ってきていた。……初めに真実を話せば混乱させると思い、黙っていた。すまない』


永遠とわは完全に絶句した。

初恋にも似た淡い憧れを抱いていた相手が、まさか自分が幼い頃に亡くなった本物の叔父だったなんて。


『唐突に真実をぶつけてすまない。だけど、私が異世界へ帰還したことで、転移の邪魔をした陰陽寮の黒幕が、私のいなくなった賀茂家を再び狙うはずだ。……永遠さん、私の霊力で作った使い魔をそちらへ送る。私の代わりに、君と家族を護る盾だ』


お守りから溢れ出した高密度の蒼い霊光が、書庫の中で大きな渦を巻き、一匹のしなやかな動物の形を成していった。


◇◇◇◇◇


眩い光の中から現れたのは、夜の闇をそのまま溶かしたような艶やかな毛並みの、一匹の美しい黒猫だった。その瞳は、リーファスと全く同じ、透き通るような深い碧眼の輝きを放っている。


「……猫? これが、叔父さんの……」


「猫とは失礼だね。ボクの名前はジル。リーファス様……いや、君の『叔父様』から君の護衛を任された特級使い魔だよ」


その小さな口から漏れたのは、生意気でハキハキとした少年の声。直接脳内に心地よく響く『念話』だった。


「喋った……! 本当に、叔父さんが送ってくれたのね」


「ああ。あるじは向こうの世界で『妖精王オベロン』とかいう強力な英霊を使って、今も大暴れしているよ。だから安心して。こっちの雑魚は、ボクと君で片付けよう」


◇◇◇◇◇


通信が静かに途絶えた直後、賀茂家の周囲に張り巡らされた結界を、鋭い衝撃が襲った。


「来たよ。あるじの気配がこちらから消えた途端、これだ。……あれは陰陽寮の黒幕が放った『虚無の式神』だね」


ジルが素早く窓枠に飛び乗り、不気味に揺れる庭を鋭く睨みつける。

そこには、人の形を模しながらも顔がなく、真っ黒な霧を纏った不気味な式神たちが数体、影から這い出してきていた。さらに、かつてリーファスに倒された悪魔の残滓を吸い込んだ怪異かいぎゃくたちが、奇声を上げて書庫の窓ガラスを激しく叩く。


賀茂分家の者たちは、既にリーファスが刻んだ呪印の激痛に伏しており、現在動ける者は誰もいない。


「トワ、怯まないで! ボクがリーファス様の霊力をパスする。君の体で、あるじの技を再現するんだ!」


ジルが永遠の肩へと軽やかに飛び乗り、黒い毛を逆立てる。


「――分かってるわよ! 叔父さんが守ってくれたこの家、私が絶対に守り抜いてみせる!」


永遠はリーファスが戦っていたあの圧倒的な背中を強く思い出し、指先で複雑な印を鋭く結んだ。


「急々如律令――蒼炎術・千鳥!」


ジルの強固なバックアップを受けた永遠の霊力は、鮮烈な蒼い雷火となって一気に放たれた。

凄まじい轟音と共に、虚無の式神たちは一瞬にして白く浄化され、怪異たちは蒼い炎に包まれて跡形もなく霧散していった。


◇◇◇◇◇


静まり返った美しい庭を見つめ、永遠は驚きで自分の両手を見つめた。


「すごい……。私、本当にやっちゃった……」


「まぁ、ボクの適切なサポートがあってこそだけどね。でも、今の筋の良さはあるじも喜ぶと思うよ、トワ」


ジルはトタッと着地すると、優雅に尻尾を揺らし、永遠を頼もしそうに見上げた。


「……ねぇ、ジル。叔父さんは、向こうで元気にやってるの?」


「ああ、悪魔をボコボコにして『魔神の欠片』とやらを回収していたよ。英雄様は忙しいんだ」


永遠は少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに、窓の向こうの夜空を見上げた。


「そう。……なら、私も負けてられないわね。いつかまた会った時に、思いっきり説教してやるんだから! 正体をずっと隠してたこと!」


古都・京都の夜に、少女の新たな決意と、それを少しからかうような黒猫の念話が優しく響く。

異世界と現代日本。魂で深く繋がった二人と一匹の、新しい物語が今、静かに動き始めた。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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