次元の奔流と、少女の願い
6月9日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
富士山頂、剣ヶ峰。
陰陽寮の黒幕による卑劣な呪力の介入は、完全に開きかけていた次元の門に致命的な揺らぎをもたらした。
(……まずいな。このままでは門が閉じるどころか、周囲の時空ごと消滅する)
脳内でジョン・ディーの冷徹な警告が響く。
リーファスの伸ばした指先が、次元の裂け目に不気味に飲み込まれそうになっていた永遠の細い手首を危ういところで掴んだ。だけど、その瞬間、二人の足元から富士山の莫大な霊力が逆流を始める。
「リーファス! 離して、このままじゃあなたまで……!」
「静かに。……賀茂の血を引く者を、見捨てたりはしない」
リーファスは背後の『黒曜石の鏡』を強引に反転させ、暴走するエネルギーを無理やり一点に収束させた。その鋭い視線の先、次元の窓の向こう側には、アメリカ大陸の広大な大地と、必死にこちらへ手を伸ばすクリスの姿がはっきりと見えていた。
◇◇◇◇◇
一方、世界を隔てたアメリカ大陸、グランド・キャニオン。
空にパキパキと開いた巨大な穴から、漆黒の雷鳴が容赦なく降り注いでいた。
「クリス、門が不安定よ! このままではリーファスが次元の狭間に弾き飛ばされるわ!」
ディードリットが叫び、剣を必死に両手で支える。
「……させません。絶対に、そんなことはさせません!」
クリスは自らの生命力を魔力に直接変換し、影の柱をさらに太く、高く伸ばした。彼女の白い足元からは、血の混じった汗がポタポタと滴り落ちる。
「リーファス様……!! 来てください!! 私の、私たちの居るべき場所へ!!」
その一途な叫びに応えるように、グランド・キャニオンの底から眩いばかりの蒼い光が溢れ出した。
◇◇◇◇◇
次元の激しい激流の中で、永遠は視ていた。
鏡のように向かい合う二つの世界。自分と同じように、命懸けでリーファスを求めている異国の少女の瞳を。
(ああ……あの子も、私と同じ。ううん、私以上に彼を……)
永遠の心に、激しい葛藤と、それ以上の確かな覚悟が芽生えた。
自分たちがこのまま繋がっていれば、あちらの門は安定しない。日本側の「重し」となっている自分がここで身を引かなければ、彼はあちら側へ帰れないのだ。
「……リーファス、ありがとう。……あなたに会えて、退屈だった毎日が少しだけ楽しくなったわ」
「……何をする気だ、永遠さん」
永遠は悲しげに、だけどどこか清々しく微笑むと、リーファスの手を自ら力強く振りほどいた。
◇◇◇◇◇
「……行って!! あなたの居場所は、そっちでしょ!!」
永遠の身体が次元の強力な斥力によって、日本側へと一気に押し戻される。
それと同時に、リーファスをこの世界に縛り付けていた現世の鎖が、完全に解き放たれた。
「永遠……っ!」
リーファスは瞬時に冷徹な判断を下した。ここで躊躇えば、永遠の覚悟を無駄にするばかりか、二つの世界を繋ぐ門は完全に崩壊する。
彼はジョン・ディーの魔力を全開放し、全身に超高純度の蒼い焔を纏った。
「――次元跳躍」
蒼い火の玉と化したリーファスは、閉じる寸前の次元の裂け目へと真っ直ぐに突っ込んだ。
背後で富士山頂の空間が完全に閉塞し、凄まじい衝撃波が剣ヶ峰を激しく駆け抜けていく。
◇◇◇◇◇
グランド・キャニオンの深い谷底。
激しかった光の柱が静かに収束し、元の静寂が戻った荒野に、一人の少年が静かに降り立った。
煤けた衣服。だけど、その碧眼には変わらぬ理知的で力強い光が宿っている。
「……ただいま、クリス。……ディードリット、西施」
一瞬の、息を呑むような沈黙。
そして、クリスが弾かれたように走り出し、リーファスの胸へと勢いよく飛び込んだ。
「リーファス様……リーファス様……!!」
胸の中で激しくむせび泣くクリスを、リーファスは静かに、優しく抱きしめる。
アメリカ大陸の乾いた風が、彼らの確かな再会を祝福するように優しく吹き抜けていった。
一方、日本側――富士山頂。
ひとり取り残された永遠は、ゆっくりと明けていく夜明けの空を見上げながら、頬を伝う涙をそっと拭った。
その華奢な手首には、リーファスが強く掴んでくれた時の熱い感触が、いつまでも消えずに残っていたのだった。
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