鏡の中の預言者と、次元を超えた呼び声
6月9日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
陰陽寮の特大書庫で帰還のための絶対条件――「双方向の座標固定」を知ったリーファスは、静かに思考を巡らせていた。
現代の精密な通信機器であっても、世界を隔てる次元の壁を越えることは叶わない。だが、かつて史実と魔術の境界に生きた英霊たちの異次元の知恵ならば、その絶壁に強固な橋を架けられるかもしれない。
「……彼を降ろすか。エリザベス一世の顧問にして、天使と対話した稀代の知術師」
リーファスは賀茂家の離れに戻ると、自室に術式による厳重な結界を張り、密かに溜め込んでいた魔力の結晶を空間に展開した。
「我が身を一時、依り代として貸し与える。黒曜石の鏡を覗き、世界の果てを見通す者――『英霊降臨』:ジョン・ディー、ここに来たれ」
召喚の呼び声に応じ、リーファスの華奢な身体を霊的な純白の光が包み込む。リーファス自身の意識は冷徹に保たれたまま、ジョン・ディーの持つ膨大な知識と高位の術式が脳内を激しく駆け巡っていく。
リーファスの碧眼が妖しく輝き、その口から、かつての彼のものではない老練な響きを帯びた声が漏れ出た。
「やれやれ、東洋の陰陽師に呼ばれるとは。……ふむ、異世界への通信か。難題だが、この黒曜石の鏡の術式を用いれば、不可能ではないよ」
リーファス(ジョン・ディー)は薄く不敵に微笑むと、提示した『魔神の欠片』の残滓から発せられる絶大な魔力を、霊的に構築した鏡の術式へと一気に流し込んだ。
◇◇◇◇◇
その頃、世界を隔てた異世界のアメリカ大陸。
新Sランクとして『真銀星』との合流を無事に済ませたクリスは、宿舎の静かな自室で、リーファスからかつて贈られた大切な『守りの呪符』をきつく握りしめていた。
「……っ!?」
突如、その呪符が激しく発熱し、美しい蒼い光を放ち始めた。
「な、何事ですか!? 呪符が……まるで意志を持っているかのような……」
異変に気づいて駆けつけたディードリットと西施が見守る中、光り輝く呪符から、聞き慣れた、しかしどこかノイズの混ざった懐かしい声が響き渡った。
『……聞こえるか、クリス。リーファスだ。今、英霊:ジョン・ディーの術を借りて繋いでいる』
「リーファス様……! ああ、本当にリーファス様なのですか……っ!?」
クリスは床に膝をつき、祈るようにしてその呪符を細い両手で大切に包み込んだ。
西施は「リーファス! リーファスなの!?」と可愛くぴょんぴょんはしゃぎ回り、ディードリットは驚愕にその切れ長の目を見開いている。
『時間がないから、簡潔に伝えるよ。私はこちら側で門を開く準備を整えた。だが、帰還を果たすにはそちら側での座標固定……つまり、対なる門の設定が絶対に必要だ』
◇◇◇◇◇
リーファスの下した指示は、極めて明快だった。
リーファス側が陣取る富士山頂に匹敵する、巨大なレイラインの結節点をアメリカ大陸で見つけ出し、そこを帰還のゲートとして構築する。
「私の精霊術で、大陸の脈動を探るわ!」
ディードリットが即座に剣を高く掲げ、空間に大陸全土の広大な霊図を展開した。
精霊たちが一斉に囁きを交わし、眩い光の筋が地図の上を縦横無尽に走る。幾千もの霊脈が一点に収束し、激しく脈打っている場所がそこにあった。
「……ここよ。間違いないわ」
ディードリットの細い指が力強く指ししめしたのは、かつて彼らが命がけの決戦を繰り広げた場所――グランド・キャニオンの、あの『ディアボロ』が潜んでいた場所だった。
「やはり、あそこだったのですね。魔神の欠片が落ちた場所こそが、世界で最も壁が薄い場所……」
クリスは力強くその場に立ち上がった。その瞳には、先ほどまでの不安はもう微塵もない。
「リーファス様、仰せの通りに。私たちが必ず、貴方の降り立つ門を完璧に完成させてみせます。ですから……」
『ああ、分かっている。すぐに会おう、皆』
愛おしい通信が静かに途絶え、リーファスの意識からジョン・ディーの気配が去っていく。
クリス、ディードリット、西施。そして新たに加わった『真銀星』の圧倒的な戦力。
一行は、愛する主をこちらの世界へと再び迎え入れるための最終決戦の地、グランド・キャニオンへと再び力強く足を踏み出す決意を固めるのだった。
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