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禁書の電子図書館と、闇に潜む刺客

6月9日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

ぬえを討った報酬として、リーファスに約束されたのは「陰陽寮本部・特一級禁書庫」への入室許可だった。

重厚な霊的防壁を通り抜けた先にあったのは、古めかしい書棚が並ぶ光景……ではなく、整然と並ぶ最新鋭のPC端末と、青白い光を放つ大型サーバーラックの山だった。


「……これが今の書庫か。以前は埃を被った巻物を手作業で捲っていたというのに」


リーファスは驚きを隠せなかった。十六年前には存在しなかった技術――すべての古文書は電子化され、高度な検索システムによって管理・要約が可能になっていた。


リーファスはさっそく端末に向かい、検索窓に「異世界」「次元転移」「高次召喚」といったキーワードを打ち込む。

瞬時にシステムが関連する膨大な古文書をリストアップし、要約を表示していく。


「凄まじい効率だ。これなら数ヶ月かかる調査も数日で終わる……」


しかし、すぐに壁に突き当たった。

核心に迫る秘術の内容は「最高管理者権限」が必要で、現在のリーファスのIDでは閲覧制限がかかっていたのだ。

リーファスは潔く画面を閉じると、棚に保管された現物の未データ化古文書を直接手に取ることにした。


「すべてを機械に頼り切るのも面白くない。……だが、これは助かるな」


リーファスはスマートフォンを取り出す。

解読困難な神代文字や難解な古文をカメラでスキャンし、リアルタイムで現代語訳するアプリを起動した。

かつては数日かけて読み解いていた一節が、数秒で意味を成していく。

現代の精密機器は、異世界の魔導師にとっても無類の武器だった。


◇◇◇◇◇


自身の持つ知識と現代の技術を総動員して資料を読み解いたリーファスは、一つの確かな結論に辿り着いた。


「次元を穿つには、個人の魔力では到底足りない。地球の血管……『レイライン』の霊力そのものを引き込む必要がある」


資料によれば、日本で最も巨大な霊力の奔流が噴き出す「龍穴りゅうけつ」は、富士山の頂上。

そこが、この世界における唯一の転移ポイントだった。


だが、最大の問題はその先だ。


「……双方向のアクセスが必要か。こちらが扉を開けても、向こう側(異世界)に座標を固定する『目印』がなければ、次元の狭間で迷子になる」


異世界の誰かが、向こう側から自分を呼ぶか、強力な魔力で門を支えなければならない。


(クリスやディードリットなら、必ず私を探しているはずだ。だが、どうやってこの世界からあちらへ連絡を取る……?)


帰還の糸口は見えたものの、次元を超えた通信という難題に眉をひそめながら、リーファスは陰陽寮を後にした。


◇◇◇◇◇


時刻はすでに深夜。

静まり返った陰陽寮の出入り口に向かうと、待合所のベンチに、見覚えのある制服姿の少女が座っていた。


「……永遠さん? こんな時間にどうしたんだ?」


リーファスが怪訝そうに声をかけると、居眠りしかけていた永遠が弾かれたように顔を上げた。


「あ、あなた! やっと出てきたわね!」


彼女はぱっと表情を明るくして駆け寄ってくる。


「べ、別に待ってたわけじゃないわよ! 用事があって寮に来たついでによったんだから。あなたみたいな世間知らずが夜の京都で迷子になったら、賀茂の恥だと思っただけ! ……ほら、一緒に帰るわよ」


(用事にしては、カバンを抱えて三時間以上も待っていたようだけど……。勝気なところは昔の桜にそっくりだが、こういうところは随分と可愛いな)


仮の戸籍上は「従姉」である永遠のぎこちない嘘をあえて追及せず、リーファスは小さく苦笑して歩き出した。

二人並んで歩く静かな夜道。街灯がまばらな住宅街に差し掛かったその時――。


「――伏せろ!」


リーファスの鋭い直感が跳ねた。

彼は即座に永遠の肩を抱き寄せ、歩道から引き剥がすようにして後方へ飛び退く。

直後、彼らが先ほどまでいた場所を、影のように鋭い『霊力の手裏剣』が数発、石畳を派手に削りながら通り過ぎた。


「なっ、何なのよ今の!?」

「怪異だ。それも、明確な意志を持った使い魔だな」


暗闇の中から、人間の形を歪めたような悪鬼が数体、音もなく這い出してくる。

リーファスは永遠を背中に庇いながら、懐から呪符を抜き放った。


「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう――蒼破!」


一閃。

放たれた蒼い霊気が扇状に鋭く広がり、襲い来る怪異たちを塵一つ残さず完全に消滅させる。

戦闘はまさに一瞬だった。

だが、リーファスは消えゆく霊気の霧の向こう側に、冷酷な人間の視線を感じ取っていた。


「チッ……しくじったか」


小さな舌打ちの音。

闇に紛れて不気味な気配が遠ざかっていく。

それは明らかに、先日の賀茂の分家に関係する、あるいは陰陽寮内部の何者かが放った刺客だった。


「リーファス、あなた狙われてるんじゃ……」


微かに震える永遠の手を、リーファスは静かに、だが力強く握った。


「構わない。私の邪魔をするなら、誰であれ焼き尽くすだけだ」


その冷徹で圧倒的な力強さを秘めた横顔に、永遠は再び胸の鼓動が激しく高鳴るのを感じていた。

異世界への帰還。そして、現代日本の陰陽師たちの陰謀。

二つの問題が、リーファスの周囲で激しく渦巻き始めていたのだった。



本日もお読みいただきありがとうございます!

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