古都の再会と、刻まれた名
6月8日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
関西国際空港から特急に揺られ、私が降り立ったのは、千年の歴史が今なお静かに息づく古都・京都だった。
かつての「自分」が不慮の死を遂げてから、早くも十六年という歳月が流れている。
モダンに変わったところもあれば、驚くほど昔のままの風情を残している路地もある。
現在の賀茂本邸へと接触を図る前に、私にはどうしても立ち寄っておきたい場所があった。
市内の喧騒から外れた場所にある、古びた寺の境内。そこには、前世の私の家族が静かに眠る墓がある。
「……親父、お袋。戻ったよ。別の体だけどね」
墓前に立つと、そこには前世で他界した両親の名に加え、新しく一本の卒塔婆が立てられていた。
そこには十六年前にあっけなく命を落とした、かつての自分の名が刻まれている。
当時、独り身だった自分をこうして手厚く弔ってくれたのは、歳の離れていた妹の桜だろう。
「あいつも、もういい歳か」
記憶の中の妹は、時行(兄)が結婚をしないと宣言したことで賀茂の家系を守るために入り婿を取り、二人の子供を育てているはずだった。
元気いっぱいの長女と、少し引っ込み思案な長男。
計算が正しければ、長女は十八歳、長男は十七歳。ちょうど今のリーファスと同じ年頃だ。
◇◇◇◇
線香に静かに火を灯し、墓前にそっと手を合わせていると、背後から複数の足音が近づいてきた。
「あら……。先にお参りしてくださっている方がいるわ」
落ち着いた、だが確かに聞き覚えのある女性の声。振り返ると、そこには一人の大人の女性と、二人の若者が立っていた。
女性――賀茂桜の面影には、かつての私の妹の面影が色濃く残っている。
そしてその傍らには、勝ち気そうな瞳をした美しい少女、永遠と、どこか自信なさげに俯く少年、陸翔。
「すみません、お邪魔でしたか? ……こちらのお墓が、父方の祖父母のお墓と聞きまして…」
私は咄嗟に微笑みを浮かべ、あらかじめ用意していた「設定」を滑らかに口にした。
「父」の名を出した瞬間、桜の表情が驚愕で強張る。
私は彼女たちに促されるまま、かつての私の実家であり、現在は桜たちが守っている賀茂家の離れへと招かれることになった。
◇◇◇◇◇
静かな茶の間で向き合うと、私は持参した戸籍謄本と、ジョーに裏から手を回して用意させた完璧な証明書類をテーブルの上へと静かに置いた。
「私の父は、賀茂時行。十六年前に消息を絶ち、先日アメリカの地でその死を確認しました。私はその忘れ形見……リーファス・カモです」
「兄さんの……忘れ形見……っ」
桜は震える手で書類を手に取った。時行が行方不明になって以来、彼女は必死の思いでこの賀茂の家名を繋いできたのだ。
目の前の少年が、行方不明だった兄の息子――つまり自分にとっての「甥」であるという衝撃的な事実に、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出た。
だが、子供たちの反応は全く違った。
特に十八歳の長女、永遠は、まるで不審者を射貫くような厳しい視線で私を見つめている。
「……にわかには信じられないわ。そんな都合よく、本物の『賀茂の後継者』が今更現れるなんて」
「永遠、失礼よ!」
桜の制止も聞かず、永遠は私へと一歩詰め寄ってきた。
証明として、私は自身の魂に眠る霊力を指先に集め、軽く空を振った。すると、茶飲み茶碗から立ち上る真っ白な湯気が鮮やかな龍の形を成し、茶の間を優雅に舞った後、パッと光を放って綺麗に消えた。
「――っ! 本物の『霊力』……」
驚愕して固まる陸翔を余所に、永遠の瞳には激しい対抗心がパッと燃え上がった。
「いいわ。賀茂の直系だって言うなら、口先だけじゃないところを見せてもらうわよ!」
永遠は私の腕を強引に掴み、そのまま勢いよく立ち上がった。
「今、私の通う高校の裏山に、性質の悪い怨霊が出没して本当に困ってるの。私も術は仕込まれてるけど、あいつだけは手強くて……。あなた、同行しなさい! そこで実力を見せなさいよ!」
「姉ちゃん、無茶だよ……」と困り顔で宥めようとする陸翔を完全に無視して、永遠は鼻息荒く私を睨みつける。
私は小さく苦笑した。
かつての妹の娘――表向きは私の「従姉」にあたる少女が、これほど勝気な性格だとは。
だが、現在の日本、そして賀茂家の現状を手っ取り早く知るにはちょうどいい機会だ。
「いいよ。案内してくれ、永遠さん」
こうして、私は日本帰国早々、仮の戸籍上の「従姉」である永遠と共に、京都の闇に潜む怨霊退治へと繰り出すことになったのだった。
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