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辺境の港町ニューヨークと、招集される「真銀星(ミスリル・スターズ)」

6月8日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

 広大な北米大陸をひたすら東へ突き進み、ディードリットたちがようやく辿り着いたのは、大西洋を遥かに望む入植の最前線――ニューヨークだった。


後世の歴史に名を残すあの大摩天楼の影など、今のこの地にはどこにもない。そこにあるのは、入植が始まったばかりの泥臭く荒削りな田舎町だ。未舗装の粗末な道路は馬車の轍によって酷く泥濘み、立ち並んでいるのは急造された不揃いな木造の家々ばかり。港にはヨーロッパからの開拓民を大量に乗せた巨大な帆船がいくつも停泊し、独自の活気と焦燥が複雑に混ざり合った、特有の荒々しい熱気が漂っていた。


「……着いたわ。思っていたよりも、ずっと『若い』街ね」


ディードリットは馬の足元から跳ね上がる泥を顔に受けながらも、町で唯一の立派な石造りの建物――『世界探索者ギルド・ニューヨーク支部』へと真っ直ぐに足を向けた。


◇◇◇◇◇


「Sランクの特権を行使する。バチカンのギルド本部へ、緊急の魔導通信を即座に繋ぎなさい!」


埃っぽい支部の受付に対して、ディードリットが鈍く輝く銀の紋章を鋭く突きつけると、その場の空気は一変した。このような最果ての辺境支部にとって、Sランク探索者とはお伽噺の伝説上の存在に等しい。慌てふためく支部長に直々に案内され、一行は地下深くにある厳重な通信室へと滑り込んだ。


巨大な魔晶石が不気味に青く脈動し、空間にノイズ混じりの立体ホログラムが投影される。そこに現れたのは、遥か海の向こう側、聖地バチカンに座す探索者ギルドの総長だった。


「……ディードリットか。北米大陸の奥地で一体何があった」


「総長、緊急事態よ。魔神の欠片を取り込んだ強大な悪魔、ディアボロが出現。そして……我が最高戦力、SSランクのリーファス・カモが行方不明になったわ」


通信の向こう側で、総長の眼光が鋭く圧を増した。SSランク探索者の消失。それは、人類を守る絶対的な盾が一枚、完全に失われたことを意味していた。


「……信じがたい。あのリーファスが、か。分かった。現存する7人のSランク全員に即刻、緊急招集をかける。亡くなった『大賢者』を除く、この世界の最高戦力をそちらへ派遣しよう」


世界最強の7人――『真銀星ミスリル・スターズ』。彼らがこの開拓地へと一斉に集結するという確約を取り付け、魔導通信は静かに途絶えた。


◇◇◇◇◇


本国からの強力な増援が到着するまでの数日間、一行はギルドの施設に身を寄せることとなった。

リーファスを失った直後は完全に憔悴しきっていた西施せいしだったが、今はその底知れない悔しさを、すべて前へと進むための力に変えようとしていた。


「ボクも、探索者ギルドに登録するよ。リーファスを助けるには、名実ともに戦力にならないとだしね!」


ディードリットの特例の推薦を受け、西施せいしは支部の広大な訓練場でランク判定テストに臨むこととなった。辺境の荒くれ探索者たちが「小娘が舐めるなよ」と冷やかしの視線で見守る中、西施せいしは静かに、しかし深く構えを取る。彼女の真骨頂は、リーファスのもとで重ねたあの過酷な修行によって極限まで鍛え上げられた、その凄まじい「足技」にある。


「……ふっ!」


鋭い呼気と共に、西施の華奢な体が独楽のように激しく回転した。

体内の霊力を一本の線へと纏い、ありったけの力を込めた渾身の回し蹴りが、魔導強化された標的用の巨大な鉄塊を正確に捉える。


ドォォォォン!!


鼓膜を破壊せんばかりの凄まじい爆鳴と共に、数トンの重量を誇る頑強な鉄塊が、まるで脆い飴細工のように無惨にひしゃげ、後方の石壁まで一瞬で吹き飛んだ。訓練場にいた全員の顎が外れ、言葉を失うほどの圧倒的な破壊力。


「な、なんだあの脚力は……!? 物理法則を完全に無視してやがる!」


あまりの恐怖に試験官は震える手で、前代未聞の判定を下した。特例のBランク。実績皆無の新人としては異例中の異例である大飛び級だが、その圧倒的な実力を前に、異論を挟む者など一人もいなかった。


◇◇◇◇◇


一方、元よりAランクの実力者であるクリスは、騒がしい訓練場の隅で一人、リーファスから贈られた『守りの呪符』を大切に、静かに握りしめていた。


彼女は実年齢としてはリーファスよりも3歳年上だが、歴史上『史上最年少Sランク』の栄誉ある称号を持つのは、自分ではなく行方不明となったあの少年だ。クリスはその事実に焦りなど微塵も抱かず、むしろ深い誇りと愛おしさを感じていた。


「クリス。総長からは、Sランクたちが揃った段階で貴女の再評価を正式に行うと連絡が来ているわ」

ディードリットが背後から静かに声をかける。


「評価など、どうでもいいのです。……ただ、集結した方々に『足手まとい』だと侮られるのは、リーファス様の名誉に傷がつきますから」


クリスの細い身体の周囲には、凡俗な探索者なら近づくことすら躊躇われるほどの、極めて高密度な魔力の奔流が美しく渦巻いている。

もし今後、招集された7人のSランクたちの承認が得られれば、彼女はリーファスの異次元の記録にこそ及ばないものの、彼に次ぐ若さでのSランク昇格を果たすことになるのだ。それは、行方不明となった大好きな主を追いかけ、再びその隣に立つための、彼女にとっての最低限の資格だった。


◇◇◇◇◇


泥濘の港町、ニューヨーク。

海を越え、空を裂き、世界中から「最強」を冠する者たちが、この荒削りな田舎町を目指して一斉に動き出していた。


一方その頃。彼らが想いを馳せるリーファスを乗せた旅客機は、既に日本の領空を静かに切り裂き、古都・京都へと繋がる最終進入ラインを開始していた。


二つの世界。一時的に離れ離れになった強い絆。

しかし、彼らの運命の糸は、再び一本の強固な鎖として縒り合わされようとしていたのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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