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紅き大渓谷の邪霊と誇り高き導き手

6月8日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

ランドローバーが激しい砂塵を巻き上げ、急停止した先には、世界の終わりを思わせる果てしない断崖が広がっていた。

グランド・キャニオン――神がその巨大な手で大地を縦に切り裂いたかのような、圧倒的なスケールの赤茶けた大渓谷に、私たち一行はしばし言葉を失う。


「……これが、アメリカの聖地。あまりに広大すぎて、距離感が狂ってしまいそうです」


クリスが驚きに瞳を揺らしながら呟く傍らで、私は鋭い碧眼を静かに細めた。

視界の先、幾重にも重なる赤い地層の奥底からは、ねっとりとしたどす黒い瘴気が、夏の陽炎のように不気味に立ち上っている。


「ただの渓谷じゃない。空間そのものが歪められ、巨大な迷宮ダンジョンと化している。……精霊たちの悲鳴が聞こえる」


魔神の欠片が放つ邪悪な影響だろう。かつてこの美しく雄大な地を護っていた純浄な精霊たちは完全に狂わされ、禍々しい『邪霊』へと堕ちていた。

周囲に生い茂る巨大なサボテンは生き物の触手のように蠢き、赤黒い岩場からは魔物化した猛禽類が、鋭い爪をギラつかせて上空から襲い来る。

混沌とした霊気の乱れにより、通常の探索術では、最深部に潜むというディアボロの正確な居所を掴むことすら困難を極めていた。


◇◇◇◇◇


「地の利がある者に頼るのが最善だ。……力を貸してくれ、アパッチの誇り高き戦士よ」


私は衣服に触れる風を感じながら、呼吸を整えて指先で印を結ぶ。

大渓谷を流れる大地の霊気に波長を合わせるようにして、その深淵に眠る英霊の魂のチャンネルへと深く意識を繋げた。


「――英霊降臨。『ジェロニモ』」


清らかな霊光の中から姿を現したのは、鋭い眼光を宿し、伝統的な装束を身に纏った屈強な体躯の男だった。その手には、使い込まれたウィンチェスターM1873と、鈍い冷たい光を放つ大きなボウイナイフが握られている。


ジェロニモの誇り高き霊気が私の身体と深く共鳴した瞬間、周囲で狂乱していた大地の精霊たちが、彼を『大地の息子』と認めるかのように、しんと静まり返った。

「――そこだ。『精霊の導き』、道を示してくれ」


私はジェロニモの研ぎ澄まされた野生の感覚を借り、複雑に迷宮化した渓谷の『正解のルート』を瞬時に読み取る。

ウィンチェスターが激しく火を吹き、進路を阻む邪霊や魔物たちを正確に排除しながら、私たち一行は怪奇に歪んだ断崖の深層へと、迷うことなく突き進んでいった。


◇◇◇◇◇


ダンジョンの最深部がいよいよ近づいたその時、尋常ならざる異様な殺気を放つ一団が私たちの行く手を阻むように立ち塞がった。

それは、ディアボロ(悪魔)を『侵略者から大地を守ってくれる神』と無惨にも履き違え、狂信的に崇めるようになってしまった現地の先住民の部族たちだった。


「立ち去れ、穢れた余所者め! 神の眠りを妨げる者は、この大地の糧となるがいい!」


彼らの肉体は既にディアボロから注がれた闇の力によって醜く変質しており、魔族と融合した皮膚からは禍々しい骨の鎧が鋭く突き出している。人としての理性を完全に失ったその姿は、大地の守護者というよりは、魔神の哀れな操り人形そのものだった。


「……悲しいことですが、今の彼らには、どんな言葉も届きません」


クリスが影の大鎌を気丈に構え、悲痛な表情で前を見据える。

「ボクがサクッと楽にしてあげるからね。リーファス、合図ちょうだい!」


西施が私の隣で小気味よくステップを踏みながら、軽やかに笑ってみせた。


「……手短に済ませる。いくぞ、道をあけてもらう」


私の静かな号令とともに、一行が同時に動く。

西施の放った剛速の『雷神脚』が魔族化した戦士の頑強な盾を正面から粉砕し、ディードリットが紡ぐ美しい精霊魔法が、彼らの肉体にこびりついた闇の鎧を強引に剥ぎ取っていく。

仕上げに私がジェロニモのボウイナイフを一閃させると、魔族の力に溺れた部族たちは、その圧倒的な実力差に抗う術もなく、難なくその場に撃破されていったのだった。


◇◇◇◇◇


「……南無」


私は短く静かに念じ、浄化されて天へと昇っていく彼らの魂をそっと見送った。


狂信の守護者たちを退けた私たちの先には、グランド・キャニオンの最深部――地の底に向かって不気味に巨大な口を開ける、暗黒の空洞が見えていた。

そこから溢れ出してくる圧倒的な闇の波動は、これまでに戦ってきたどの魔神の欠片保持者たちをも遥かに凌駕する、強烈な圧力を放っている。


「いよいよ本命、ディアボロのお出ましだ。……みんな、気を引き締めてくれ。アメリカ大陸の欠片、ここで確実に回収する」


衣服についた赤い砂塵をスマートに払い、私は真っ暗な奈落の底を見据えた。

私たち一行は、魔の根源が静かに潜む深淵の奥深くへと、力強く足を踏み出したのだった。



本日もお読みいただきありがとうございます!

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