幕間:南国ハワイの休息と「異世界」の既視感
6月8日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
ロシアの極寒の地で冥界神ヘルを討ち果たし、粉々になった『魔神の欠片』を執念でかき集めた私の一行。ついに四つ目の欠片を確保し、残る欠片はあと三つとなった。
次なる目的地は、太平洋の彼方――魔神の不穏な気配が漂うアメリカ大陸だ。
凍てつく戦場から一転、私たちは新大陸へ向かう前に、南国での短い休息を挟むことにした。
真紅の翼――ミス・ビードル号がロシアの重苦しい曇天を突き抜け、真っ青に澄み渡る海の上へと勢いよく躍り出た。
「……ようやく、あの厳しい寒さから解放されますね」
クリスが心底ホッとしたような安堵の溜息を漏らす。ロシアでの息つく暇もない連戦、そして冥界ヘルヘイムでの命懸けの死闘は、私たち一行の精神と肉体を確実に削り取っていた。
私は操縦桿を静かに握りながら、羅針盤代わりの霊感覚を鋭く研ぎ澄ませる。
「アメリカ大陸まではまだかなりの距離がある。……みんな疲れているな。ハワイで一度翼を休めよう」
◇◇◇◇◇
視界いっぱいに広がるエメラルドグリーンの海と、眩しい白い砂。ハワイに到着した私たちは、束の間の穏やかな休息を得た。
そこで私を大いに驚かせたのは、三人がそれぞれ用意していた『水着』の姿だった。
「リーファス様、いかがでしょうか……? その、あまりに布が少なくて、なんだか落ち着きませんけれど……」
クリスが選んだのは、黒いレースとフリルをあしらった、彼女の清楚さを引き立てつつも圧倒的な破壊力を持つビキニだった。
「師匠! 見て見て、ボクにぴったりでしょ!」
西施は、活発な彼女らしい、綺麗な白髪と健康的な褐色の肌に最高に映えるスポーティーなビキニ。
「……精霊の加護があるとはいえ、この装いは少し、開放的すぎるかしら」
ディードリットは、彼女の美しさを際立たせる紺色の大人っぽい落ち着いた水着姿だ。
私はそのあまりに眩しい光景に、思わず眉を寄せた。
(……おかしい。なぜこの世界に、前世のweb小説やアニメで見たような『お約束』のデザインがこれほど溢れているんだ?)
まるで誰かが自分の記憶を覗き見て、この世界の流行を作ったかのような、奇妙な既視感。私は「これも異世界転移者の影響か、あるいは神の悪戯か」と、胸の中で独りごちた。
◇◇◇◇◇
けれど、心穏やかな休息になるはずだった浜辺は、別の意味で騒がしくなった。
「あ……!? いけない、波が……影の魔法が水に干渉して……!」
クリスが慌てふためく。寄せる波に足を取られた瞬間、彼女のビキニの紐がするりと緩み、危うく大惨事の危機に。
「クリス、動かないで。今、術で固定する!」
私が慌てて呪符を飛ばすが、顔をリンゴのように真っ赤にしたクリスを見て、私自身も視線のやり場に激しく困ってしまう。
「大変だー! 助けてよー! 師匠ー!」
一方、西施は少し離れた沖の方で大げさに手をバタつかせている。
「西施!? ……いや、待て。西施、そこは膝立ちできる深さだ」
「あ、バレちゃった? かわいい弟子のピンチには、師匠の人工呼吸が必要でしょ?」
ニカッと悪戯っぽく、あざとく笑って迫ってくる西施。私は呆れ果てて、彼女の額を指先で軽く弾いた。
「キャッ……!?」
その時、砂浜を歩いていたディードリットが、濡れた岩場でバランスを不意に崩した。
「おっと……!」
咄嗟に支えようとした私の腕の中に、ディードリットの瑞々しく柔らかな身体が滑り込む形になる。密着した肌の心地よい熱と、潮風の香りが甘く混ざり合う。
「……ごめんなさい、リーファス。少し、南国の日差しに当てられすぎたみたい」
潤んだ瞳でじっと見上げてくるディードリット。普段の冷静さはどこへやら、彼女の尖った耳は真っ赤に染まっていた。
◇◇◇◇◇
波乱に満ちたビーチタイムも終わり、美しい夕暮れが広大な浜辺を黄金色へと染め上げる。
私は、疲れの見え隠れする彼女たちの様子を見て、特別な「もてなし」を思いついた。
「皆、戦い続きでまともな食事も摂れていなかったな。今夜は最高の晩餐を用意しよう」
私は、静かに詠唱を紡ぐ。
「――厨房を戦場に変え、料理を芸術へと高めた王の料理人よ。その至高の技を此処に」
「――英霊降臨。『オーギュスト・エスコフィエ』」
清らかな霊光の中から、汚れなき真っ白なコックコートに身を包んだ、気品溢れる老紳士が姿を現した。
私に『エスコフィエ』の魂が滑らかに憑依すると同時に、魔法のような鮮やかな手際で最高級レストランの厨房がその場に顕現する。
「お待たせいたしました、レディたち。今宵のメニューは、疲れを癒やす『海の恵みのコンソメ』、そしてメインは『舌平目のヴェロニク風』でございます」
食卓に美しく並べられた料理の数々に、三人娘の目が一瞬で釘付けになった。
一口運ぶごとに、深い旨味と洗練された気品ある香りが脳を突き抜けていく。
西施は「う、うますぎるよぉ……!」と目を潤ませ、クリスとディードリットも、高貴なエルフや王族すら味わったことのない至高の味にうっとりと陶酔していた。
そして仕上げは、エスコフィエの代名詞とも言えるデザート。
「食後にはこちらを。『ピーチ・メルバ』でございます」
バニラアイスにシロップ漬けの甘い桃、そして鮮やかなラズベリーソース。
ハワイの心地よい夜風に吹かれながら味わう冷たく甘美なデザートに、彼女たちの連戦の疲れは完全に溶け去っていった。
◇◇◇◇◇
結局、最高の休息と言いつつも、私にとってはひたすら心臓に悪い時間となった。
「……やれやれ。魔神と戦う方が、よほど気が楽だ」
夜が明け、美しいオレンジ色に染まる水平線を眺めながら、私はロシアで回収した小さく砕けた欠片の感触をそっと確かめた。
残るは、三つの魔神の欠片。
そこには、ロシア以上の強敵、あるいはさらなる「異世界の歪み」が間違いなく待ち受けているはずだ。
翌朝、私たち一行を乗せた機体は、朝焼けに染まる広大な太平洋を越え、巨大な陰謀が渦巻く新たなる新大陸へと、力強く飛び立っていった。
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