白銀の狙撃手と必殺の魔槍
6月7日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
ハバロフカの街の邪霊を浄化し、私たち一行はさらなる極寒の深部、ブレヤ山脈へと足を踏み入れた。空を飛ぶミス・ビードル号を一旦降り、雪上走破性の高いランド・ローバーに乗り換えて、激しい吹雪が吹き荒れる白銀の斜面を突き進む。
ランド・ローバーの太いタイヤが分厚い雪を噛み、エンジンが悲鳴を上げる。猛烈な雪煙が視界を遮る中、私の鋭い霊感覚が、周囲の異常な殺気を敏感に察知した。
「……囲まれている。総員、迎撃用意だ!」
真っ白な雪煙の向こうから姿を現したのは、通常の狼の数倍はある巨体を持ったホワイトウルフの群れだった。その瞳は魔神の瘴気によってどす黒い赤色に染まり、飢えと狂気に満ちている。
「数が多いよ……! でも、ここで止まってられないもん!」
西施が小さな拳をぎゅっと固めるけれど、あまりにも足場が悪く、自慢の『雷神脚』の鋭い踏み込みが上手く利かない。
「足場なら、私が作ります。……影よ、呑み込んで!」
クリスが両手を素早く広げると、周囲の雪がドロリとした漆黒の影へと一瞬で吸い込まれていった。影の中で圧縮され、超高密度に固められた雪が瞬時に地上へと吐き出され、私たちを囲む頑強な簡易砦を作り上げる。
「助かる、クリス。……さて、凍てつく北の大地には、この国の英雄を呼ぶのが礼儀だ」
◇◇◇◇◇
私は胸の前で、静かに、しかし力強く呪札を構えて唱えた。
「――英霊降臨。『リュドミラ・パヴリチェンコ』」
私の銀髪が激しい吹雪に美しく靡き、その手の中に、古びた、しかし完璧な手入れの行き届いた木製の銃床が握られる。ソ連が誇った伝説の天才狙撃手――『死の乙女』の降臨だ。
「……風速、湿度、目標までの距離。すべて『視えた』」
私はスコープを覗くことすらなく、手にしたモシン・ナガンM1891/30をただ流れるように構えた。
パァァン!!
極寒の空気に乾いた銃声が響くたび、一キロ以上先を猛スピードで走るホワイトウルフの眉間が、寸分の狂いもなく正確に撃ち抜かれていく。私の霊力が込められたその弾丸は、肉体を破壊するだけでなく、その魂にねっとりとこびりついた魔の汚染ごと一瞬で浄化していった。
「すごい……! この視界の悪い吹雪の中で、ただの一度も外さないなんて……!」
ディードリットがその神技に驚嘆の声を上げる中、瞬く間にホワイトウルフの群れは跡形もなく沈黙した。
◇◇◇◇◇
だが、白銀の静寂は長くは続かなかった。山脈そのものが激しく震えるような地響きと重低音が鳴り響き、巨大な影が、クリスの作った砦を上空から見下ろすようにして現れた。
「……ウオォォォォン!!」
咆哮と共に現れたのは、山の頂にすら届かんばかりの圧倒的な巨躯を持つフロストジャイアント。その皮膚は永久凍土のように硬く、手にした巨大な氷の棍棒が一振りされるだけで、クリスの作った頑強な砦に無数の亀裂が走る。
「流石にこのクラスが相手だと、狙撃銃では荷が重いか。……ならば、概念ごと貫くのみだ」
私はリュドミラの力を静かに解き、燃え盛るような真っ赤な呪札を極寒の天へと高く掲げた。周囲の空気が一瞬にして牙を剥き、純粋な闘争を求める荒々しい魔力が渦を巻く。
「――英霊降臨。『クーフーリン』」
私の手の中に現れたのは、不吉なまでの紅蓮の輝きを放つ、邪悪を許さぬ魔槍。
「一撃で仕留める。……心臓に結果を、突き(あと)に原因を」
フロストジャイアントが巨木のような氷の棍棒を容赦なく振り下ろしてくる。だが、私はその破壊の一撃を紙一重の美しい体捌きで回避し、足元へ低く沈み込んだ。
「……そこを動くな。『ゲイ・ボルグ』!!」
私の手から放たれた魔槍は、空中で幾筋もの紅蓮の稲妻となって分裂し、フロストジャイアントの心臓へと吸い込まれるように突き刺さった。それは「投げたから当たる」のではない。「当たるという結果」が先に確定している、因果を逆転させる絶対必殺の呪い。
「……ガ、ハッ……!?」
巨人は自らの心臓を貫かれたことに気づく間もなく、内側から激しく爆発するような霊圧によって、巨大な氷の塊へと還り、そのまま跡形もなく粉々に砕け散ったのだった。
◇◇◇◇◇
巨人が消滅したその跡には、山肌に不自然に開いた巨大な洞窟の入り口が残されていた。そこから溢れ出してくる黒い瘴気は、これまで出会ったどの土地のモノよりも濃く、不快だ。
「……この先が『ブレヤ・ダンジョン』の入り口だ」
私は衣服についた氷の破片を静かに払い、真っ暗な洞窟の奥の深淵を見据えた。
「行くぞ。ロシアの『欠片』、これ以上待たせておくわけにはいかない」
ランド・ローバーの鋭いヘッドライトが、魔の口を開けた洞窟の内側を真っ直ぐに照らし出す。
私たち一行は、更なる極寒と未知の危険な罠が待ち受ける、迷宮の深淵へと迷うことなくその足を踏み入れたのだった。
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