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英霊降臨~二天の剣聖~

 時が流れ、私が十四歳になった夜。

スミス伯爵領に危機が迫っていた。


「ま、魔獣だ! 『オーガ・ロード』が出たぞ!」

「騎士団は何をしている! 結界が破られる!」


 本邸の方角から悲鳴と爆発音が響く。

ダンジョンから溢れ出た上位魔獣が、屋敷の防衛線を突破しかけていたのだ。

父や兄たちの魔法も、再生能力の高いオーガ・ロードには決定打になっていないらしい。


「リーファス様、どうしますか?」


 成長し、整った顔立ちの美少女となったクリスが、影から音もなく現れた。


「手出し無用と言いたいところだが……領地が壊滅しては寝覚めが悪い。少し運動してくる」


 私は【和泉守兼重】を腰にき、窓から飛び出した。

夜闇を疾走し、戦場となっている正門前へ。

混乱の最中、誰も「無能な四男」の姿になど気づかない。


 目の前には、巨木のような腕を振り回す赤黒い巨獣。

私は静かに息を吸い、刀の柄に手をかけた。


 ――媒介は【和泉守兼重】。

――招聘しょうへいするは、六十余度の勝負にて不敗の剣聖。


「【英霊降臨えいれいこうりん】――宮本武蔵」


 ドクン、と心臓が早鐘を打つ。

私の魂に、荒々しくも静謐な、巨大な武人の魂が重なった。

視界が変わる。

世界がスローモーションになり、魔獣の「死の線」が鮮明に浮かび上がる。


 霊力で生成されたもう一振りの「霊刀」を左手に現出させる。

二刀流。二天一流。


「……遅い」


 私の口から、野太い声が重なって漏れた。

地面を蹴る。

魔法による援護も、強化もいらない。

ただの身体能力と剣技だけで、私は魔獣の懐へ潜り込んだ。


 一閃。


 交差した二つの刃が、オーガ・ロードの首と心臓を同時に切断していた。

硬質な皮膚も、再生能力も関係ない。

霊力を乗せた刃は、物理的な肉体と同時に、その存在を構成する魔力そのものを断ち切る。


 ズズン……と地響きを立てて巨獣が崩れ落ちる。

魔獣から放出された膨大な魔力が、私の体へと吸い込まれていく。

**【魔霊反転術】**により、消費した霊力が一瞬で回復し、さらなる余剰エネルギーとなって蓄積された。


「……ふむ。刃こぼれなし」


 私は刀を納め、呆然としている騎士たちがこちらを見る前に、影のようにその場を去った。


 翌日、スミス家は「謎の剣豪が領地を救った」という噂で持ちきりになった。

もちろん、それが離れに住む無能な四男の仕業だと気づく者は、誰一人としていなかった。

挿絵(By みてみん)

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