第三戦・老将の神弓
6月4日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
二戦連続となった、あまりにも圧倒的で容赦のない幕切れ。
広大な演武場を完全に支配していたのは、もはや勝ち目のない戦いへの戦意などではなく、底の知れない圧倒的な恐怖そのものだった。その静寂の中で、ガタガタと無様に膝を震わせながらも、意地だけで前に進み出た者がいた。梟族の魔術師の長――ホーキンスである。
「お、おのれ……ッ! 人族の小僧が、調子に乗りおって……! 物理的な攻撃が一切通じぬほどの圧倒的な長距離から、我が至高の魔術で灰にしてくれるわ!」
ホーキンスが狂ったように杖を天へと掲げると、周囲のマナが凄まじい密度で急激に収束し、数十の巨大な火炎弾と、空間を切り裂く真空の刃が私を取り囲むように全方位へ展開された。
梟族は夜目が利き、精密な魔力制御を得意とする。彼らにとって、相手の攻撃が届かないこの絶対的な間合いこそが、決して侵されぬ聖域なのだ。
「……遠ければ安全、ね」
私は肩に担いでいた方天画戟を静かに光の粒子へと還し、すっと目を細めて深呼吸をした。
「誰がそんなルールを決めたんだい? ――なら、その絶対の自信ごと、撃ち抜いてあげよう」
私の全身から立ち昇る霊気が、呂布の禍々しい赤黒い闘気から、枯淡でありながらもどこまでも鋭利な、極限まで研ぎ澄まされた銀色の輝きへと変貌を遂げる。
背後に浮かび上がったのは、老境にありながらも若駒を容易く凌ぐ壮健さを持ち、百歩離れた場所から柳の葉を射抜いたという伝説を持つ、中国神話級の老将の姿。
「――英霊降臨。『黄忠漢升』」
ガギィィィンッ!!!
次の瞬間、私の手には、私の背丈ほどもある重厚な巨大の剛弓が現れた。
「死ねぇッ! ――『暴威の業火』!!」
ホーキンスの絶叫とともに、全方位から空間を埋め尽くすほどの魔術の弾幕が、一斉に私めがけて殺到する。
正確に、そして容赦なく退路を断つ絶技――だが、私は微塵も動じない。白銀の霊力の矢を瞬時に番え、流れるような動作で弦を引き絞り、一閃させた。
「――『神弓穿月』」
ビィィィィィンッ!!
放たれた一本の白銀の矢が、空中で無数の光の筋へと美しく分裂。それらはまるで意志を持っているかのように誘導し、迫りくる火炎弾や真空刃の「魔力核」だけをピンポイントで正確に射抜き、着弾するより前にすべてを光の塵へと雾散させていく。
「な……ッ!? 我が誇る最高峰の魔術を、ただの弓矢で完璧に迎撃しただと……!?」
「――さあ、次はこちらの番だよ」
驚愕に顔を歪めるホーキンスを余所に、私は再び静かに、けれど流麗な動作で剛弓を引き絞る。
ギギギ、と弦が軋む重苦しい音が、まるで死の宣告のようにホーキンスの耳へと届いた。
ヒュンッ! ――ドガァァァンッ!!
放たれた第二射目は、ホーキンスの頬を紙一重でかすめ、彼の真後ろにあった巨大な石柱を派手に粉砕した。
「ヒッ……!?」
間髪入れずに放たれる、第三射、第四射。
鋭い風切り音とともに放たれた矢は、ホーキンスの皮膚を一切傷つけることなく、彼の衣服の袖、裾、そして杖を握る指の隙間を寸分違わぬ精度で通り抜け、彼を石畳へと完全に縫い付けるようにして突き刺さった。
ホーキンスは一歩も動くことができず、ただ圧倒的な技の差への恐怖に顔を歪める。
「――これで、最後だね」
私が最後の一矢を番え、満月にまで弓を引き絞ったその瞬間。ホーキンスは完全に戦意を喪失し、手にした杖を落としてその場にへたり込んだ。
「ま、待て……! 降参だ! 降参する! 参った、頼むから殺さないでくれぇ!」
私は静かに弓を下ろし、構えていた霊力を綺麗に霧散させた。
「最初からそうしていれば、お互いに無駄な力を使わずに済んだのにね」
演武場には、もはや静寂すらなく、兵士たちは目の前の少年をまるで神仏を仰ぐような畏怖の目で見つめていた。
そんな中、ディードリッドがやれやれと溜息をつきながら、私の方へと歩み寄ってくる。
「……ねぇリーファス、今のは完全に遊んでいたでしょう。わざと急所を綺麗に外して、衣服だけを縫い付けるなんて。あなたのその圧倒的な余裕、どこから来るのかしらね」
「これでもかなり優しく手加減したつもりさ、ディード。少しばかり、彼が自信過剰になっていたみたいだからね」
私がフランクに笑って答えると、その横から西施が、もう我慢できないといった様子で尻尾を激しく振りながら駆け寄ってきた。
「凄すぎるよ、リーファス! あの正確無比な弓捌き……もはや武術を越えて芸術の領域だね! ボク、今すぐこのままキミをボクの寝所に連れ帰りたいくらいだよぅ!」
「ちょっと、勝手にお持ち帰りはさせません! リーファス様、行きましょう。この国には、まだまだ祓うべき『魔』が潜んでいるはずですから!」
クリスが鋭い視線で西施との間に強引に割って入り、私の腕をしっかりと両手で確保する。
それらの様子を特等席から眺めていた皇帝ガウルは、満足げに豪快に玉座を叩いて立ち上がった。
「見事だ、リーファス! 三戦全勝、文句なしの圧倒的な異能である! さぁ、約束通り、国を挙げてそなたらを最大の賓客として歓迎しようではないか!」
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