第二戦・飛将軍の蹂躙
6月4日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
熊族のバランが一撃のもとに昏倒し、石畳の上に転がった光景を前に、広大な演武場は水を打ったような静寂に包まれていた。
だが、その圧倒的な沈黙を切り裂き、二つの鋭い影が、軽やかな身のこなしで石畳の上へと舞い降りる。
「フン、あの熊公が無様を晒したか。だが、そんな大振りな武器、俺たちの『速さ』には逆立ちしたってついてこれまい!」
「兄者、油断は禁物だ。だが……人族の分際で、我ら豹族の誇る機動力に抗えるなどと思うなよ!」
現れたのは、豹族の双子の武官――レンとジン。
彼らは大牙帝国の獣人の中でも屈指の敏捷性を誇り、魔力による身体強化をすべて「速度」の極限へと特化させていた。その身のこなしは、もはや野生の獣の領域すら遥かに超越しており、そこに佇んでいるだけで風そのものに溶けているかのようだ。
「……速さ、ね」
私は手にした青龍偃月刀を光の粒子へと還し、ふっと唇を歪めて、新たな印を静かに結んだ。
「なら、その自慢の速度ごと、上から力任せに圧殺してあげよう」
私の全身から立ち昇る霊気が、鮮やかな翡翠色から、ドス黒く禍々しい赤黒い闘気へと一瞬で変貌を遂げる。
背後の空間に浮かび上がったのは、触覚のような二本の長い飾りがついた不気味な兜を被り、天下に並ぶ者なき最強の武勇を誇った、傲岸不遜なる至高の裏切り者。
「――英霊降臨。『呂布奉先』」
ガギィィィンッ!!!
次の瞬間、私の手には、先ほどの偃月刀よりもさらに巨大で、三日月状の禍々しい刃が左右に備わった長柄の神兵が現れた。
戦場にあるすべての命を刈り取る伝説の魔槍――『方天画戟』だ。
「な、なんだあの禍々しい不吉な気は……ッ!?」
「ひるむな、ジン! 奴が武器を振るう前に、先手必勝だ!」
双子は同時に地を蹴った。豹族の爆発的な加速。
彼らの姿は一瞬にして残像すら残さず空間から消失し、私の左右から、完全に視認不可能な神速の領域で肉薄する。魔力を爪の先に集約させた一撃が、私の首筋と心臓を寸分の狂いもなく捉えた――。
――だが。
「――『天下無双』」
私は、一歩も動かなかった。
ただ、手にした方天画戟の石突を、静かに足元の石畳へと打ち付けただけだ。
ドゴォォォォォォンッ!!!!!
衝突の瞬間、私を中心とした周囲十メートル一帯に、すべてを力技でひれ伏させる呂布の圧倒的な霊圧――「神話級の覇気」の領域が展開された。大気が目に見えるほどの歪みとなって、空間そのものを激しく押し潰す。
「グ、アッ……!? な、何だこれ……身体が、動か……っ!」
「ば、馬鹿な……ッ! 俺たちの魔力が……一瞬で霧散していく……っ!」
超高速のまま突撃してきていたレンとジンは、私の間合いに入った瞬間、まるで目に見えない巨大な鉄壁に激突したかのように、ピタリと不自然にその動きを止められた。
いや、止まったのではない。呂布が放つ、全人類を恐怖させた強烈すぎる霊圧によって、体内の魔力循環を根こそぎねじ伏せられ、金縛りにあったかのように指一本動かせなくなったのだ。
「速さなんてものはね、すべてを蹂躙する圧倒的な『武』の前では、何の意味も持たないんだよ」
私は方天画戟をゆっくりと構え、横一文字に軽く振るった。
正確な刃は彼らの体を微塵も傷つけず、ただ虚空を優雅に切り裂いただけ。
だが、その瞬間に生じた風圧は、呂布の狂暴な闘気を孕んだ「武の波動」となり、目に見えない巨大な質量となって双子を襲う。
「ガハァッ……!!!!」
レンとジンは、まるで目に見えない巨人に正面から殴り飛ばされたかのように、同時に後方へと吹き飛んだ。
二人は演武場の端にある壁まで無様に転がり、そのままピクリとも動かなくなった。魔力による身体強化を完璧に解かれ、ただの霊圧の衝撃波だけで、脳の意識を綺麗に刈り取られたのだ。
「――さて、今のは二人で一人として、最後の一人も、さっさと来たらどうだい?」
私が巨大な方天画戟を軽々と肩に担ぎ、悠然とそこに立ち尽くす中、観戦席からこめかみを指で押さえたディードリッドが、呆れ果てた様子で歩み寄ってきた。
「ちょっと、リーファス。少しは手加減してあげなさいよ。相手は一応、この国が誇る精鋭武官なんでしょ? 触れもしないで、覇気だけで同時に気絶させるなんてやりすぎだわ。ほら、周りの引きまくった顔を見てみなさいよ」
ディードリッドが綺麗な指先で示した先では、梟族の魔術師の長が、青褪めた顔でガタガタと歯を鳴らして震え、周囲の兵士たちは恐怖のあまり言葉を失って後ずさりしていた。
これほどまでの圧倒的な武勇を持つ人間という存在を、彼らは想像することすらできていなかったのだ。
「……これでもかなり手加減したつもりなんだけどね。ディード、彼らが少しばかり脆すぎただけさ」
私が苦笑しながら淡々と答えると、その横から西施が、我慢できないといった様子で目を輝かせて飛び出してきた。
「うわぁぁ、すごい……っ! なんて格好良さなんだい、リーファス! やっぱりボクの目に狂いはなかったよ! 加減がヘタで、やりすぎちゃうところも最高にシビれるね!」
「ほら見なさい、あなたのせいで、あの懐きかけたボクっ娘がさらに加熱しちゃったじゃない」
西施の熱烈なアプローチに困惑する私を見て、ディードリッドがクスクスとお茶目に笑う。
そんな中、クリスだけが「当然です。リーファス様が負けるはずありませんし、本気を出されるまでもない雑魚だったというだけのことですよ」と、自分が勝ったかのように誇らしげに胸を張るのだった。
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