西域の砂塵と黄金の如意棒
6月4日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
シルクロードの乾燥しきった吹きすさぶ風を切り裂き、猛烈な砂塵を巻き上げて爆走する一台の鉄の馬――戦艦『武蔵』をも顕現させる無双の霊力で構成された、「レンジローバー」。
それが、突如として砂漠の戦場のただ中へと轟音を立てて乱入した。
「リーファス様、前方を見てください! 大規模な魔力暴走……いえ、これはおぞましい邪気の塊です!」
助手席のクリスが、フロントガラスの向こうを指差して鋭く叫ぶ。
その視線の先――荒涼とした大地では、数千を超えて蠢く不気味な土人形『兵馬俑』の軍勢が、一団の亜人兵士たちを完全に包囲し、文字通り蹂躙しようとしている最中だった。
「よし、助けるぞ。クリス、ディード! 左右の露払いは頼んだよ!」
「了解です、リーファス様!」
「ええ、あなたは中央のデカブツを。雑兵は私たちが近づけさせないわ!」
ディードリッドが不敵に微笑みながら細剣を抜く。
私は激しく制動をかけたレンジローバーから勢いよく飛び出すと同時に、懐から一束の白い呪札をバラリと引き抜いた。
「――急々如律令。『影身の術』!」
放たれた数十枚の呪札が、空中で私の銀髪碧眼の姿を寸分違わぬ精度で模した「霊力の分身」へと一瞬で変貌。ハレムでの踊り子経験(黒歴史)など微塵も感じさせないスタイリッシュさで、戦場へと散って兵馬俑を破壊し始める。
だが、戦場の中心部では、数千の兵馬俑を束ねる全長二十メートルに達する巨大な兵馬俑ゴーレムが、凶悪な拳を振り下ろそうとしていた。
その巨大な拳の影にいたのは、可愛らしい虎の耳を持った、一人の少女だった。
「くっ、ボクとしたことが……ッ。こんな砂漠で、おめおめと終わりなわけ……!? 冗談じゃないよぅ……!」
西施は悔しさに唇を噛み締め、折れかけた武器を構え直して捨て身の突撃を覚悟する。
その、絶望的な瞬間だった。
「――私は今世で数え切れぬ魔と強大な敵を斃してきた! そろそろ魂の器の階位も上がったはず! ここは人間の英霊以上の存在――『亜神』降臨を試させてもらう!!」
大地を揺るがすほどの、リーファスの凛冽な咆哮。
これまでは歴史上の偉人や英雄といった「人間」の英霊を降臨させてきた彼だったが、SSランクへと至った今、ついに神話の領域へとその手を伸ばしたのだ。
その瞬間、リーファスの全身から、天を衝くほどの圧倒的な黄金の霊光が爆発的に吹き荒れた。
「――英霊降臨。神の領域に仇なす、天をも斉しくする大聖――『斉天大聖・孫悟空』!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
世界そのものが激震し、リーファスの足元に眩い黄金の雲――『筋斗雲』が湧き上がる。少年の小柄な輪郭に、神話の戦神の傲然たる覇気が完全にオーバーラップした。
リーファスは筋斗雲に飛び乗り、音速を超えて上空から戦場を俯瞰。巨大ゴーレムの拳が少女に届く寸前、手にした黄金の如意棒を凄まじい速度で一閃させた。
パリィィィィンッ!!!
「――危ない。下がっていな!」
頭上から響いた涼やかな声とともに、放たれた黄金の閃光が、巨大ゴーレムの頑強な土の腕を文字通り粉々に弾き飛ばす。
「……え、あ……っ?」
㠪施が呆然と顔を上げると、そこには筋斗雲に乗り、手にした黄金の如意棒をクルクルと軽がると回して肩に担ぐ、息を呑むほど美しい銀髪の少年の姿があった。
「グオオオオオオン!!!」
片腕を失い、激昂した巨大ゴーレムが大地を揺らして吼えるが、リーファスはどこまでも冷静に、如意棒の先端を敵の胸へと突き出した。
「――伸べ、如意棒」
限界突破した霊力が注がれた瞬間、黄金の棒は一瞬で二十メートル以上にまで伸長。ゴーレムの分厚い胸殻を正確に貫通し、内部に仕込まれていた魔神の呪いを『魔霊反転』の波紋によって完全に浄化・土塊へと還したのだった。
一方、地上でもまた、圧倒的な蹂躙劇が繰り広げられていた。
「闇魔術――『影の檻』!」
クリスの放つ漆黒の闇が数百の兵馬俑の足元を完全にロックし、そこへディードリッドの『絶剣』が音速の領域を遥かに超えて、一瞬で数十回の閃光を描く。
「はぁッ! あなたの背中は、私たちが完璧に守るわ!」
ディードリッドの美しい剣撃によって、動きを止められた兵馬俑たちが次々と砂塵へと還っていく。さらにリーファスの放った「影身の分身」たちが、ある者は華麗な体術で、ある者は霊力の剣で、残りの軍勢を紙切れのように粉砕していった。
「な、なんだあの者たちは……っ!?」
「呪札が人間になったぞ! あんなデタラメな魔術、西域にも帝国にも存在しない……!」
後方で全滅を覚悟していた獣人の兵士たちは、見たこともない神話の戦い方にただただ戦慄し、呆然と立ち尽くすほかなかった。
すべての敵を片付け、リーファスは筋斗雲を消すと、静かに虎耳の少女の前へと降り立った。
「怪我はないかい? 災難だったね、でも、もう大丈夫だ」
「あ……あぁ……っ」
施は、土埃に汚れながらも、自分に向けて差し伸べられたリーファスの、白く洗練された美しい手を見つめた。
周囲の兵士たちは、自分を「第十七皇女」という身分としてしか見ない。けれど、目の前の少年は、自分をただの「危ない目に遭っている女の子」として、その命を救ってくれたのだ。
「……ボクは西施。ねぇ、キミ……一体何者なんだいっ!? どこから来たの?」
上目遣いに、頬をぽっと林檎のように朱に染め、身を乗り出すようにして問いかける西施。その仕草はどこかコケティッシュで、強烈な好意に満ちていた。
「私はリーファス。ただの、通りすがりの探索者さ」
リーファスが微塵も驕らずに爽やかに微笑むと、その背後から、猛烈な嫉妬のオーラを纏ったクリスが凄まじい勢いで割って入ってきた。
「リーファス様! 旅先で無断にメスを懐かせるのは禁止です! それに何ですかそのボクっ娘属性は! あざとい、あざとすぎます!」
「ちょっとクリス、落ち着きなさいって。……まあ、あなたの言う通り、また面倒な風が吹きそうな予感はするけれどね」
ディードリッドがやれやれと肩をすくめながら、いつもの調子で微笑む。
西施はその瞬間、胸の奥で確信していた。
(この人だ……! 父様が言ってた『ボクの夫になるなら、世界最強の男を連れてこい』ってのは、絶対にこの人のことだよぉ……! ボクの運命の旦那様、見つけちゃったかも!)
獣人国家の皇女、西施からの猛烈かつ愛らしいアプローチと、それを全力で阻むクリス、そして呆れつつも楽しそうなディードリッド。
リーファスの大牙帝国(中国)行脚は、幕開けからこれまで以上に騒がしく、そして熱くなる予感に満ち溢れていた。
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