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砂海を駆ける鉄の馬と、蹂躙の王

6月4日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

トゥラン皇国での奇妙な騒動を後にした私たちは、『魔神の欠片』が放つ腐った魚のような強烈な邪気を追い、東の大国・大牙帝国(現代の中国)へと続く果てしない交易路――シルクロードを東進していた。


見渡す限り、どこまでも黄色い砂礫と荒野が続く死の世界。しかし、私たちの旅は、およそ砂漠の行軍とは思えないほどに快適そのものだった。

 なぜなら、この乾燥しきった静寂の大地を、場違いな大排気量V8エンジンの重低音と爆音の駆動音が、激しく切り裂いていたからだ。


「……何度見ても信じられないわね。馬も魔力使用しないただの鉄の箱が、こんな砂だらけの悪路を跳ねるように猛スピードで走るなんて」


後部座席で天井のアシストグリップをきつく握りしめながら、エルフの『絶剣』ディードリットが、呆れ半分、感心半分の深い溜息をついた。


「はははっ、ただの鉄の箱と一緒にしてもらっては困るな、ディード。こいつは砂漠の王だ」


軍服風のコートの襟を少し緩め、楽しげにハンドルを捌く私は、バックミラー越しに彼女を見て不敵に笑う。

 ――【英霊降臨:ルネ・メッジ】。

 かつて前世の世界で、地獄の「パリ・ダカールラリー」を制覇した伝説のドライバーの魂と、彼が愛した初代レンジローバーの具現化だ。砂漠や荒野を走破することにおいて、このマシンの右に出る者は世界に存在しない。


「素敵です、リーファス様……っ! この、荒々しい鉄の馬を涼しい顔で御する横顔も……はぁっ、格好良すぎて息が止まりそうです……!」


助手席に座るクリスは、窓の外を流れる壮大な砂漠の景色などそっちのけで、目をハート形に輝かせながら私の横顔を凝視していた。その瞳には、羨望と底知れぬ愛情がこれでもかとねっとり渦巻いている。


「クリス、気持ちは嬉しいけれど、そんなに見つめられると流石の私も運転に集中できないんだが……おっと?」


16歳の少年の肉体には刺激が強すぎる熱視線をどうにか躱そうとした、その刹那。レンジローバーの極太のオフロードタイヤが、大地の不自然な大震動を鋭く拾った。

 ただの悪路の揺れではない。進行方向の大地の下深くから、凄まじい質量を持った何かが、猛スピードで地上へと浮上してくる気配だ。


「リーファス! 下からとんでもない質量が来るわ!」

「クリス、ディード、しっかり掴まってろ! 舌を噛むなよ!」


ディードの鋭い警告と同時に、私はアクセルペダルを床までベタ踏みし、ハンドルを強引に右へと急旋回させた。

 直後、私たちがつい一瞬前まで激走していた砂の大地が、まるで地雷でも爆発したかのように派手に吹き飛んだ。


『ゴォォォォォォォォォッ!!』


すり鉢状に激しく崩落する砂煙の中から姿を現したのは、同心円状に無数の鋭い牙が並ぶ、巨大な漏斗のような口。そして、天を突くほど長大な赤茶色の皮膚。

 体長五十メートルは下らない、砂海に潜む災厄級の巨大魔獣『デス・ワーム』が、その醜悪な全貌を現したのだ。


「チッ、ただのミミズにしては随分と育ちすぎだ」


私は猛烈な砂煙の中でレンジローバーを華麗にドリフトさせ、ワームが質量任せに叩きつけてくる尾の一撃を、テールを滑らせながら間一髪で回避する。ルネ・メッジの神業的なドライビングテクニックがなければ、今の一撃で私たちは車ごと鉄屑にされていただろう。


「この車じゃあ流石に火力不足だ。二人とも、降りるよ!」


私が指をパチンと鳴らすと同時に、レンジローバーは役目を終えて光の粒子となって消散し、私たちは揃って空中に放り出された。

 すかさずディードリッドが空中で風魔法を展開し、三人の着地を羽毛のようにふわりとサポートする。


「グルルルルルォォォォッ!!」


極上の獲物を取り逃がした巨大ワームが、怒り狂ったように大気を震わせ、その巨大な三層の口の中に、ドス黒い土属性の魔力を収束させ始めた。周囲一帯を、すべてを圧殺する砂の津波で飲み込む気だ。


「そう何度も大技を撃たせると思うなよ。デカブツには、こっちも『数の暴力』で対抗させてもらおうか」


私は高い位置で結んだ銀髪のポニーテールを夜風に揺らし、不敵に微笑む。

 右手を天へと掲げると、私の周囲の空間が、限界突破した白銀と黄金の霊力で激しく波打ち始めた。


「来い! ――【英霊降臨:アレクサンドロス・フィリッポウ】!!」


大気が悲鳴を上げるように歪む。

 私の右手には、瞬時に具現化された全長五メートルを超える長大な騎兵槍クシストンが握られた。それだけではない。私の背後の空間が黄金の光によって次々と割れ、土煙を切り裂いて、実体を持った霊力の重装騎兵部隊ヘタイロイが、蹄の音も猛々しく次々と姿を現したのだ。その数、およそ数百騎。


「――我が軍勢よ。地を這う虫ケラを、跡形もなく蹂躙せよ」


私が槍を前方へと力強く突き出すと、軍馬の凄まじい嘶きとともに、黄金の重装騎兵たちが一斉にワームめがけて突撃を開始した。


『オォォォォォォォォッ!!!!!』


砂漠そのものを激しく揺るがす、地鳴りのような大突撃。

 巨大ワームが防衛本能から放った、すべてを押し潰す砂の津波魔法――しかし、それは私の前方に展開された不可視の領域に触れた瞬間、無双の『魔霊反転まれいはんてん』によって、瞬時に純粋な霊力へと変換・吸収されていく。

 行き場を失った魔力はすべて、突撃する騎兵たちの鎧と槍へと還元され、彼らの輪郭をさらに眩く黄金に輝かせた。


ズズズズドンッ!!!


無数の黄金の槍が、ワームの分厚い硬質表皮を容赦なく抉り、肉片をぶちまけさせる。あまりの痛撃に、五十メートルの巨大な体躯が、のたうち回るようにして苦痛の悲鳴を上げた。

 もちろん、その決定的な隙を見逃す私ではない。


「――これで終わりだ!」


先頭を駆ける重装騎兵の馬の背を軽く蹴り、私は大空へと大きく跳躍した。

 最高点で反転し、巨大ワームの脳天の真上を取る。魔霊反転で吸収したばかりの莫大なエネルギーのすべてを、右手のクシストンへと一気に注ぎ込んだ。


キィィィィィン――。


空間が静まり返るほどのエネルギー密度。

 黄金の流星と化した私の一撃は、巨大ワームの脳天を正確に貫き、その巨体の中心部に眠るコアの魔石までを、一直線に、容赦なく消し飛ばした。


『ギ、ィィ、ィ…………ッ』


かすかな断末魔の残響とともに、巨体から一気に生命力が失われ、砂漠に激しい轟音を立てて激突、完全なる静沈へと至る。

 舞い上がる広大な砂塵の中、軍服のコートを翻して優雅に着地した私の元へ、クリスが弾かれたような速度で駆け寄ってきた。


「さすがリーファス様! 本当に素敵です! 巨大ミミズなんか、リーファス様にかかれば一瞬のゴミ掃除ですね!」

「……魔王を倒してからというもの、あなたの規格外っぷりには拍車がかかっているわね。本当に、私の常識を壊すのが上手いなんだから」


目をキラキラと輝かせるクリスの頭を優しく撫でながら、私は、呆れ顔で細剣を鞘に収めるディードに向かって苦笑いを返した。


「さあ、シルクロードの先はまだまだ長い。大牙帝国(現代の中国)に着くまで、もうひとっ走りするとしようか」


私が再び指を鳴らすと、砂漠に再びV8エンジンの心地よい重低音が響き渡る。

 黄金の夕日に向かって、私たちの駆る鉄の馬は、さらなる東を目指して再び猛スピードで走り出したのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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