楽園の始まり
その日のうちに、私と母マリーは屋敷を追い出された。
あてがわれたのは敷地の端、森に面したボロボロの離れだ。
「ごめんね、リーファス……。母さんが、平民の出だから……」
泣き崩れる母を慰め、寝かしつけた後。
深夜、私は一人で離れの庭へと出た。
月明かりの下、森の方からゆらりと「それ」が現れる。
半透明の、人の形をした靄。
浮遊霊だ。
魔力溜まりの影響か、前世で見た雑魚霊よりも遥かに質量がある。
「素晴らしい……」
思わず、恍惚の声が漏れた。
前世では、これほどの霊を探すのに数ヶ月はかかった。
それがここでは、庭先に出るだけで向こうから寄ってくる。
私は呼吸を整え、未発達な丹田に意識を集中させた。魔力ではない。
魂の根源から練り上げる『霊力』を循環させる。
指先を刀に見立てて構える。
「祓いたまえ、清めたまえ――」
祝詞と共に踏み込み、浮遊霊の眉間を指で突く。
瞬間、霊の身体が弾け飛び、黒い霧となって私の身体へ吸い込まれていく。
『魔霊反転術』
悪霊の負の力を浄化し、己の霊力へと変換する禁術。
体内で力が爆発的に膨れ上がる。
血管が熱い。
魂が歓喜に震えている。
たった一匹の浮遊霊で、前世の半年分の修行に匹敵する霊力が手に入った。
「やはり、ここは地獄などではない」
私は夜空を見上げた。
父に疎まれ、兄に蔑まれ、寒空の下のあばら屋暮らし。
傍から見れば悲劇の幼少期だろう。
だが、私にとっては――ここは、かつて夢見た「狩り場」だ。
ここなら至れる。
前世で届かなかった、陰陽の頂へ。
こうして、表向きは「無能な四男」、裏では「最強の退魔師」としての二重生活が幕を開けた。
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