愚者の嘲笑、賢者の同情
5月25日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
親類縁者、家中の者が広間を出ていく。
不穏な空気を察した私は、あえてその場に残り、彼らを見送ることにした。下手に動かず、しおらしくして全員が去るのを待つのが上策だろう。
まったく、心の狭い連中だ。寛容さの欠片もありはしない。まあ、当主があれなら、下も上に倣えということか。
静まり返った広間から、ようやく悠々と外に出る。
だが、そんな私をわざわざ待ち構えている暇人が、二人ほどいた。
「おい見ろよウィルソン。魔力ゼロの『お人形』が出てきたぞ!」
「傑作ですね兄さん。あの見た目で無能だなんて、詐欺もいいところです!!」
嘲笑を浮かべて立ちふさがったのは、長男のマケールと次男のウィルソンだ。
10歳のマケールは既に火属性の才能を開花させ、次期当主の座を確実なものにしている。8歳のウィルソンはその腰巾着で、属性は土だ。
彼らにとって、側室(元メイド)の子でありながら容姿の優れた私は、昔から目障りな存在だったのだろう。今まで以上に陰湿な嫌がらせを企む目つきで、私を睨みつけている。
「……道を開けていただけますか、兄上たち」
「誰が口をきいていいと言った、ゴミ屑が! お前のような恥さらしは、生きている価値もない! 同じ血が流れていると思うとゾッとするな。さっさと平民にでも落ちればいいんだ!」
マケールが私の肩を突き飛ばす。
5歳の幼い体は、簡単に床へと転がった。
痛みはない。
ただ、彼らの魂の「小ささ」に呆れるばかりだ。
霊力で奴らの魂を視れば、よくわかる。魔力量は平均以下、魔術の親和性を示す属性色も驚くほど薄い。努力次第で親和性は上げられるはずだが、傲慢で怠け者のこの二人では、将来など高が知れている。
所詮は子供。魔力という小さな物差しでしか世界を測れない、哀れな雛鳥たちだ。
「リーファス! 大丈夫か!?」
駆け寄ってきて、私を抱き起こしたのは三男のビンセントだった。
7歳の彼もまた側室の子だが、風属性の魔力を持ち、本来なら落ちこぼれの私と関わる必要のない立場にいる。
「マケール兄さん、やめてください! リーファスはまだ5歳じゃないですか!」
「フン、負け犬同士仲良く傷でも舐め合ってろ」
マケールたちと私とでは、大人と子供ほどに体格が違う。普通の5歳児なら、その威圧感だけで萎縮してしまう差だろう。だが、私にとってはただのガキの遠吠えに過ぎない。
マケールたちは興味を失ったように去っていく。
ビンセントは私の服についた埃を丁寧に払いながら、痛ましそうな顔をした。
「ごめんな、リーファス。僕がもっと強ければ……」
「いいえ、ビンセント兄さん。お気遣い感謝します」
ビンセントは、この腐った家の中で唯一の良心だ。
彼は私が魔力を持たないことを心底憐れみ、守ろうとしてくれている。
……だが、彼も知らない。
私が守られる必要など、微塵もない存在であることを。
――さて。
去っていくマケールたちの背中を見つめ、私は袖の内でそっと、前世で使い古した小さな印を結んだ。
奴らの足元、そして肩口にこびりついていた「悪霊の澱み」を、ほんの少しだけ霊力で刺激してやる。
「うわっ!? 痛っ!?」
何もない平地で、マケールが派手にすっ転んで顔面を床に打ち付けた。ついでにウィルソンも巻き込まれて折り重なるように倒れる。
鼻血を出して見苦しく騒ぎ立てる兄たちを冷ややかに見下ろしながら、私は歩き出す。
魔力がなんだ。奴らの薄っぺらい魂など、私の霊力の足元にも及ばない。
15歳の成人の儀(追放の日)まで、あと10年。
この「魔」に満ちた最高の地獄で、どれだけ霊力を蓄えられるか――。
私は、前世では届かなかった『至高の領域』を想い、暗闇の中で静かに口角を上げた。
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