リーファスの出陣と驚愕の英霊降臨
6月1日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
スペインでの激闘から数日後。
宗教国家バチカンに居を構える世界探索者ギルド本部の最奥――選ばれし強者のみが立ち入ることを許される『円卓の間』には、世界最高峰の戦力と謳われる最高位のSランク探索者たちが一堂に集結していた。
肌を刺すような重々しい緊張感が漂う中、その静寂を厳かに破ったのは、『大賢者』ミネルヴァ・シルヴァリスであった。幼い少女の容姿からは到底想像もつかない、底知れぬ威厳と知性に満ちた声音が室内に響き渡る。
「――皆、よく集まってくれたのじゃ。四天王の一角であるカーミラが討たれたことで、奴らの真の目的がようやく見えてきた」
ミネルヴァが愛用の杖を軽く振るうと、円卓の中央にヨーロッパと地中海を中心とした広大な光の立体地図が投影された。その青い地図上には、いくつか禍々しい赤色の点がドクドクと不気味に明滅している。
「魔人四天王の狙いは、この大陸全土を巡る『マナライン』の完全なる掌握じゃ。奴らは各地の要所に瘴気の楔を打ち込み、その莫大な魔力を逆流させることで、魔王を完全復活させようと企んでおる」
「すでにいくつか潰したはずだが、残る主要な結節点はどこだ?」
太い腕を組み、鋭い眼光で尋ねたのは、筋骨隆々の巨体を誇る獅子獣人『獣王』ガルーダだ。
ミネルヴァの師であり、ギルドを統べる総長エルドリンが、髭を蓄えた口元を重々しく開いた。
「残る主要な結節点は三つ。エジプトの『クフ王のピラミッド』、ギリシャ・アテネの『アクロポリス(パルテノン神殿)』……そして、地中海中央部の『超深層海底』だ」
その言葉に、円卓を囲む名だたる探索者たちが一斉に息を呑んだ。
極限の閉鎖空間と凶悪な古代の罠が想定されるピラミッドには『機巧卿』レオナルドと『獣王』ガルーダが、古代の神聖な魔力が今なお色濃く残るパルテノン神殿には『聖女』カタリナと『竜殺し』ジークフリートが向かうことで、即座に合意が形成されていく。
しかし――最大の問題は、三つ目の「海底」であった。
「地中海の超深層だと……? 深度数千メートルの世界だぞ。いかに我々Sランクの魔力障壁を限界まで展開しようとも、深海の超水圧の前には一瞬にして肉塊に変えられる。水棲の獰猛な魔物すら近づけぬ、文字通りの死の世界だ」
ジークフリートが苦渋に満ちた顔で低く呟く。
事実、この世界の人類が持つ魔法技術は未だ発展途上にあり、光すら届かない極限の深海へとアプローチする手段など、文字通り「不可能」の領域に属していた。
誰もが打開策を見出せず、重苦しい沈黙が円卓を支配する中――。
「――なら、私たちがその地中海の底へ向かいましょうか」
鈴の鳴るような涼やかさの中に、絶対的な覇気を孕んだ少年の声が、円卓の間に響いた。
仕立ての良い軍服風のロングコートに身を包み、銀糸の髪を高めのポニーテールに結い上げた麗しき美青年――リーファス・カモであった。彼の左右には、影のように付き従う黒髪のメイド・クリスと、美しい金髪をなびかせるエルフの『絶剣』ディードリットが、寸分の隙もなく控えている。
「カモ子爵。お主の実力は疑っておらんが、相手は自然の猛威、強大な水圧じゃぞ? 息継ぎや空気確保の魔法程度では、あの深海には到底立ち向かえん――」
「問題ありませんよ、総長。私には、その深海へと『潜るための足』がありますから」
エルドリンの至極真っ当な懸念を、リーファスは涼やかな碧眼を細めながら、不敵な微笑みを浮かべて遮ってみせた。世界最高峰のSランクたちが絶望する「深度数千メートル」という死の世界を、まるで散歩にでも行くかのように言い放つ16歳の少年に、円卓の誰もが圧倒され、言葉を失うしかなかった。
◇◇◇◇◇
数時間後、燦々とした太陽の光が降り注ぐ、地中海に面したイタリア半島の港。
ギルド総長エルドリンや大賢者ミネルヴァ、そしてバチカンの高官たちが見守る中、リーファスは静かに、波が打ち寄せる波止場の先端へと立った。
潮気を含んだ海風が、彼の美しい銀髪を軽やかに揺らす。
「クリス、ディード。打ち合わせ通りに頼むよ」
「はい、リーファス様。私の闇魔術による空間拡張と、気圧・酸素の維持の術式はすでに完璧に組み上がっております。いかなる深海であっても、内部は極上の快適さを保ちましょう」
「ええ。私の精霊魔法で海流を操作し、水圧の分散をサポートするわ。……あなたはいつも、私たちの想像を遥かに超えていくのね」
ディードリットが熱い信頼の籠もった眼差しをリーファスへと向け、レイピアの柄を握る。
二人の頼もしい相棒の言葉に深く頷き、リーファスはどこまでも広がる青い海面に向けて、静かに右手を突き出した。
自身の精神の奥底、魂の系譜から、かつて広大な大海原を股に掛け、国家の命運を背負って深海を駆けた誇り高き海の男たちの記憶を呼び覚ます。
「――英霊降臨。我が呼び声に応えよ、大洋の隠密頭――『木梨鷹一』。鋼鉄の半身――『伊号第十九潜水艦』!」
リーファスの碧眼が、鋭く神聖な光を放つ。
次の瞬間、彼の身体から解き放たれた膨大な白銀の霊力が、眼前の海水を文字通り爆発的な勢いで渦巻かせ、空間そのものがミリミリと悲鳴を上げて軋み始めた。
ドゴォォォォォォンッッ!!!!!
天を突くような巨大な白銀の水柱が激しく燃え上がり、港全体に凄まじい潮風の嵐が吹き荒れる。
やがて、白く遮られていた激しい波飛沫がゆっくりと晴れ渡ったその時――そこには、この世界の住人がかつてただの一度も目にしたことのない、異形の「鋼鉄の巨大なクジラ」が堂々と海面に浮かび上がっていた。
全長100メートルを遥かに超える、光を鈍く吸収する漆黒の流線型の艦体。
幾重にも張り巡らされた、魔法の障壁すら容易く弾き返しそうな重厚極まる鋼鉄の装甲。それこそは、かつての大戦において類まれなる世界的な雷撃戦果を挙げた、大日本帝国海軍の巡洋潜水艦『伊19』の、霊的かつ圧倒的な顕現であった。
「なっ……!? な、なんじゃあのバカげた巨大な鉄塊は……っ!?」
「鉄の塊だぞ!? 魔法の付与もなく、あんな莫大な質量の金属が、なぜ海に優雅に浮いているのだ……!? 信じられん、あり得ん……!」
大賢者ミネルヴァが子供のように目を限界まで丸くして絶叫し、見送りに来ていたギルドの精鋭探索者たちは、その圧倒的な威容の前に完全に腰を抜かしてへたり込んでいた。
彼らの持つファンタジーの常識を、圧倒的な「科学と技術の結晶」が正面から叩き潰したのだ。港はパニック一歩手前の、凄まじい騒然とした空気に包まれる。
「さて、乗艦しようか。目指すは地中海の最深部――愚かな四天王の元だ」
周囲の凄まじい驚愕と混乱を完全に余所に、リーファスは至極涼しい顔のまま、軽やかな跳躍で『伊19』の艦橋へと飛び乗った。クリスとディードリットも、彼の後に続いて華麗に身を躍らせる。
重厚なハッチが金属音を立てて強固に閉じられると同時に、伊19の腹の底から、ズズズ……と周囲の海水を震わせるような重低音のディーゼル機関音が鳴り響いた。
鋼鉄の巨鯨は、ゆっくりと、しかし確実なる力強さを持って、地中海の深く、昏い暗青の世界の中へと、その漆黒の巨体を滑り込ませて潜航を開始する。
海面に残された、静かな白い波紋だけを見つめながら、ミネルヴァは呆れ果てたように深くため息をついた。
「……まったく、底の知れん小僧じゃ。あの鉄の化け物なら、本当に深海の魔族ごと、その牙で食い破ってくるかもしれんのう」
残されたSランク探索者たちも、もはや言葉もなく無言で深く頷き合い、自らの死地であるピラミッドとパルテノン神殿へ向けて、圧倒された心を奮い立たせるように、静かに気合を入れ直すのであった。
本日もお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部の『☆☆☆☆☆』から応援していただけると励みになります!




