純白の聖旗と愚者たちの末路
5月30日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
その瞬間、教皇庁の大聖堂を、ステンドグラスから差し込む陽光すらも一瞬で霞ませるほどの、圧倒的かつ暴力的なまでの『純白の光』が呑み込んだ。
「な、なんだこの光は……!?」
「目が、目が潰れるゥッ!」
先ほどまでクリスを陥れようとどす黒い呪力を放っていた暗殺者や過激派の司祭たちが、自らの目を覆って悲鳴を上げる。周囲の王侯貴族たちも、あまりの眩さに顔を背けた。
だが、その光に不思議と不快感はない。
なぜならそれは、彼らが普段崇めている不完全な神聖力すらも遥かに凌駕する、極限まで澄み切った純粋なる霊力の奔流なのだから。
荒れ狂う光の渦の中心で、私の右手に一本の長柄が顕現する。
白銀に輝く美しい柄に、清廉なる純白の布が巻き付いた大旗――英霊ジャンヌ・ダルクの象徴たる『聖旗』だ。
「……お前たちが放った呪いの魔力。我が『魔霊反転』の糧として、余さず使わせてもらったよ」
私が聖旗の石突きを、大理石の床に静かに、しかし重く打ち付ける。
ガァァァァンッ!!!!
大聖堂の鐘の音にも似た荘厳な響きが広間全体を激しく揺らすと同時に、私の背後の空間が次々と光の粒子を伴ってパキパキと割れた。
そこから現れたのは、実体を持った霊力の自動人形――純白の甲冑に身を包み、光の剣や槍を厳かに構えた『光人の軍勢』である。
「な、なんだあれは……!?」
「天使……? いや、神の御使いの軍勢だとでも言うのか……!?」
保守的な高位聖職者たちが、あまりの光景に腰を抜かしてその場にへたり込む。
彼らにとって、忌むべき闇の力を暴走させて異端者を炙り出す手はずだったはずが、逆に神話の如き本物の神聖な軍勢を呼び覚ましてしまったのだ。その頭脳のキャパシティを超えたパニックたるや、想像に難くない。
ジャンヌ・ダルクの能力たる光人の軍勢は、術者である私の霊力特性に依存してその数を増す。
普段なら数十体といったところだが、今回は相手がご丁寧にも「Sランク探索者の同伴者を確実に暴走させる」ために用意した、莫大な呪力結晶のエネルギーを丸ごと吸い上げ、反転させたのだ。
大広間の壁際を完全に埋め尽くすほどの、数百に及ぶ光の騎士たちが、一糸乱れぬ動きでズラリと整列していた。
「さあ、お前たちが欲した『暴走』の始まりだ」
私はすべてを見透かした冷徹な笑みを浮かべ、手にした聖旗を無造作に一振りした。
「――一人残らず、地に伏せさせろ」
私の静かな号令と同時、数百の光の騎士たちが音もなく爆発的な速度で地を蹴った。
「ヒッ!?」
「ば、馬鹿な! 迎撃しろ、聖壁を――グアアッ!?」
司祭たちが慌てて防御魔法を展開しようとするが、光の騎士たちの動きは常軌を逸していた。
一切の迷いも恐怖もない純粋な霊力体である彼らは、展開されかけた魔法の障壁ごと相手を物理的に殴り飛ばし、あるいは関節を的確に極めて、瞬く間に暗殺者たちを冷たい大理石の床へと容赦なく押さえ込んでいく。
血の一滴すら流すことなく、貴族たちのドレスの裾が乱れるほどの時間すら与えず。
ほんの数秒の出来事だった。数十人の襲撃者たちは全員、光の騎士たちによって完璧に身動きを封じられていた。
「……さて」
私は聖旗を肩に担ぎ、青ざめてガタガタと震える首謀者らしき司祭の元へと歩み寄る。
私の硬い靴音が、静まり返った大広間に冷たく響き渡った。
「し、神聖なるバチカンで、このような暴挙……! 貴様、悪魔の使いか!」
「口を慎みなよ、三流。私が本当に悪魔の使いなら、こんな生温い手加減はしていないさ」
私は司祭の頭を靴底で軽く踏みつけ、彼の懐から床にこぼれ落ちた通信用の魔導具をすっと拾い上げた。
そこにはっきりと、フランス・スミス家の紋章が刻まれているのを確かめる。
「他国の貴族に唆され、神聖な教皇庁で悪質な呪具を用いる。……異端審査にかけられるのは、どうやらお前たちの方らしいね」
「ヒッ……!」
私の絶対的な覇気を帯びた碧眼に見下ろされ、司祭は恐怖のあまりついに白目を剥いて泡を吹き、そのまま気絶した。
「……ふぅ」
私が聖旗を霊力へと戻して霧散させると、数百の光の軍勢も同時に光の粒子となって消滅した。
大広間には、気絶して美しく縛り上げられた襲撃者たちと、呆然自失のまま立ち尽くす各国の要人たちだけが残された。
「……ほんと、規格外にも程があるわね。せっかく私が剣を抜こうと思ったのに、これじゃあ完全に出番なしじゃない」
深いため息をつきながら、ディードリットが呆れ顔で歩み寄ってくる。
「でも、あなたは本当に底が知れないわ。まさかあの呪いの波動を完璧に反転させて、教会の連中を信仰心ごと圧殺するなんてね」
彼女の後ろからは、目を爛々と輝かせているエリザベス王女と、涙目で私を見つめるクリスの姿があった。
「リーファス様……!」
クリスが周囲の貴族たちの目も気にせず、私の胸へと一直線に飛び込んでくる。その小さな身体をしっかりと受け止める。
「怖かったかい、クリス」
「いいえ……リーファス様が絶対に守ってくださると、信じていましたから。でも、私のせいで、またリーファス様に余計なご迷惑を……」
「馬鹿を言わないでくれ」
私は彼女の柔らかな黒髪を優しく撫で、あえて会場全体に、そして怯える貴族たちの耳の奥にまで響き渡る明確な声で告げた。
「お前は私の相棒だ。誰であろうと、私の手の届く範囲で、お前を傷つけることなど絶対に許さない。それが、たとえ世界の理や教会の権威であろうとね」
その言葉に、クリスは顔を真っ赤にして、嬉しそうに私の胸に頭を埋めた。
周囲の貴族や聖職者たちは、その圧倒的な武力と、いかなる権威にも屈しない私の姿勢を骨の髄まで見せつけられ、もはやクリスの髪色や属性に難癖をつける者など一人として存在しなかった。
「……スミス家、か。ここまで露骨に手を出してくるとはね」
私は転がっている暗殺者たちを見下ろし、冷たく碧の目を細める。
世界探索者ギルド総本山での叙爵式という最高の晴れ舞台。彼らはそこで私を陥れようとしたが――結果として、私は各国の重鎮たちの前で「Sランク探索者としての理不尽なまでの実力」と「決して敵に回してはいけない怪物」であることを、この上ない形で証明してしまったのだ。
「さて、フランスの生家には……どうやってこの『落とし前』をつけさせてやろうか」
脳内で、すべてを見切った絶対強者としての冷徹な智謀が、実家を跡形もなく叩き潰すための次なる盤面の駒を、静かに動かし始めていた。
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