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竜殺しの不死身騎士 vs 神槍の武術家。竜の鱗を砕く『李書文の杖術』

5月29日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

「さあさあさあァァッ! トーナメントの完全無欠な優勝で、美しく幕を閉じるかと思われた我が世界探索者ギルド本部ですが……なんとここで、ギルド総長エルドリン様より、歴史的なサプライズが発表されましたァァッ!!」


闘技場コロッセオの熱狂はもはや天井を知らず、十万人の観客が放つ絶叫が漆黒の空を激しく揺らす。


「新Sランク、リーファス・カモ選手への最大の歓迎と、その真の実力を測るため! 既存のSランク探索者による特別エキシビションマッチを執り行うとのことです! 栄えあるリーファスの前に立ち塞がるのはこの男……全身に竜の呪血を浴び、いかなる極大魔法も剣撃も通さない絶対無敵の盾! 『竜殺し』ジークフリート・ドラケンブルクゥゥゥッ!!」


地鳴りのような重低音と共にアリーナへ歩み出たのは、禍々しい上位竜の骨から削り出された巨大な大剣を肩に担いだ、威風堂々たる最高峰の騎士だった。彼の剥き出しの肌は竜の血の影響で赤黒く変色し、ダイヤモンドをも凌ぐ硬度とされる『竜鱗』が、皮膚を覆うように硬質に鈍く光っている。


「実況のバッカスです! ガストンさん、まさか最初からジークフリート選手を引っ張り出してくるとはギルド上層部も本気ですね! 彼には並大抵の斬撃も打撃も、もちろん最高峰の魔法すら一切通用しません! いかにリーファス選手が達人の技を持とうとも、この『動く要塞』を突破することは不可能では!?」

「ええ……。ジークフリート選手の耐久力は、我々探索者の常識の次元を超えています。いくらリーファス選手が神速の技や崩しの理を持っていようと、あの竜の鱗を素手や通常の武器で叩けば、逆に己の肉体が粉砕されるだけでしょう。相性が悪すぎます」


闘技場の中央。

歩く重戦車そのものであるジークフリートが、獰猛な肉食獣の笑みを浮かべ、眼下のリーファスを傲然と見下ろした。


「見事なトーナメントだったぞ、新入り。だが、Aランクの有象無象を小手先の技術で転がした程度で、自分が世界の頂点に立ったと勘違いされては困る。本物の『Sランクの深淵』という絶対的な絶望を、俺のこの不死身の身体で直に教えてやろう」


「絶望、か」

リーファスは乱れたネクタイの結び目をすっと指先で直し、静かに息を吐いた。


(竜の血を浴びて肉体の防御特性を書き換えたわけか。なるほど、外側の硬度だけなら現代のあらゆる重装甲兵器にも匹敵するな。……だが、外側が硬ければ絶対に安全だと思い込むのは、戦術としては三流の証拠だ)


リーファスは右手をスッと横へ伸ばし、流れるような美しさで印を結ぶ。

「――英霊降臨。『李書文(りしょぶん)』」


スォォォンッ、と。

リーファスの右手に、濃密な霊力によって形成された一本の長い木の杖――中国武術で用いられる『白蝋杆(はくろうかん)』が顕現した。一切の装飾も刃もない、ただの滑らかな白い木の棒。

それと同時に、リーファスの全身から放たれる空気が一瞬で一変した。

それはこれまでの試合で見せた余裕や静けさとは異なる、一切の感情を排した、純粋なる『一撃必殺の殺意と武の結晶』。


「ハッ! なんだそのただの木の棒は! 竜殺しの俺を、そんな弱々しい物干し竿で叩こうというのか!?」


「能書きはいいから、掛かってきなよ」

リーファスは杖の先端をジークフリートの眉間に向け、片手でスッと無造作に構えた。その姿勢には、針の穴ほどの隙すら存在しない。


「死なない程度に手加減してやるァ!!」


ジークフリートが地響きのような咆哮と共に、爆発的な脚力で大地を蹴った。

頑強な石畳が消し飛び、音速を置き去りにした超質量の突撃。その勢いのまま、あらゆる防壁を両断する竜骨の大剣が、リーファスを縦に両断せんと頭上から猛烈な風圧を伴って振り下ろされる。


「直撃だァァッ!!」


実況が絶叫し、誰もがリーファスの敗北を予感したその瞬間――。


パンッ!!!


闘技場に、乾いた甲高い音が一段と鋭く響き渡った。

鋼鉄をも容易く引き裂くジークフリートの全力の大剣は、リーファスの頭上に直撃する寸前……しなるただの『木の杖』の側面によって、撫でるように叩き弾かれていた。


「なっ……!?」


驚愕にジークフリートの目が見開かれる。

超重量の大剣が、あろうことか、ただの木の棒が持つ独特の『しなり』と『粘り』に絡め取られるようにして、その力のベクトルを完全に外側へと受け流されたのだ。


「力任せに武器を振るだけなら、赤子の棒振りと変わらないね」


リーファスが手首をわずかに内側へと返す。

その瞬間、ただの白蝋杆が、まるで命を宿した『大蛇』のように強烈に波打ち、バネのような爆発的な反発力を生み出した。中国武術・八極拳と六合大槍の極意、その杖術への完璧なる応用。


「――そこだ」


ビュンッ!!


弾かれた大剣の勢いで体勢をわずかに崩したジークフリートの鳩尾(みぞおち)に向けて、リーファスの放った杖の先端が、音速の壁を突き破って一直線に突き込まれた。

それは「叩く」のではない。全身の螺旋とバネのエネルギーを、尖ってもいない木の先端の一点へと集中させた、究極の「槍術の突き」だ。


ゴブァァァァァァァンッ!!!!


「ガッ…………、は……ッ!?」


杖の先端は平らであり、ジークフリートの表面を覆う無敵の竜鱗には、傷一つついていない。

だが――リーファスの木の杖から放たれた極大の『浸透勁(しんとうけい)』と霊力の衝撃波は、外側の強固な装甲を100%透過し、ジークフリートの体内にある脆い内臓を直接かき回すように激しく震わせたのだ。


「あ、ぐ……、ば……っ、が……」


ジークフリートは自慢の大剣を取り落とし、その巨大な身体をゴム鞠のように天高く跳ね上げられ、凄まじい勢いで後方へと吹き飛んだ。何度も石畳を激しく転がり、アリーナの端で完全に沈黙する。


闘技場は、今日何度目かも分からない、静寂を通り越した完全な畏怖に包まれた。


「…………へ?」

実況のバッカスが、震える手でマイクを握ったまま硬直する。

「う、嘘だろ……? あの、あらゆる極大魔法が直撃してもかすり傷一つ負わない『竜殺し』のジークフリート選手が……た、ただの木の棒で、たった一突きされただけで……立ち上がれない!?」


「信じられません……ッ!」

解説のガストンが座席から身を乗り出し、戦慄の表情で叫んだ。

「表面の竜鱗には、一切の損傷がありません! つまりリーファス選手の放ったあの一突きは、外側の硬い装甲を完全に無視して、衝撃のすべてを内臓に直接叩き込んだのです! 装甲が厚く頑強であればあるほど、その閉ざされた体内の中で衝撃波が乱反射する……恐ろしい、なんという恐るべき武術の理……!!」


アリーナの中央。

白目を剥き、口から泡を吹いてピクピクと痙攣している『竜殺し』を冷徹に見下ろし、リーファスは手にした霊力の白蝋杆を霧のようにスッと消滅させた。


「外側をどれだけ硬くコーティングしようと、中身が人間である以上、内臓を揺らせばそれで終わりだ。鎧の硬度に頼り切った鈍重な身体では、ただの動くサンドバッグと変わらないよ」


すべてを見通した絶対強者の静かな声が、静まり返る闘技場に冷たく響き渡る。

「……まぁ、命までは取っていないさ。Sランクの先輩への、最低限の敬意だと思って受け取ってほしいね」


ふぅ、と短く息を吐き、乱れたロングコートの裾を整えながら、涼しい顔で歩き出すリーファス。

その圧倒的すぎる無双の光景に、十万人の観客たちはもはや歓声を発することすら忘れ、ただただ神への畏怖を抱くような眼差しで、新たなる――そして間違いなくギルド史上最強の怪物の背中を、見送るしかなかったのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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