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英霊『魔術師マーリン』降臨。宮廷魔術師を絶望させる、次元の違う魔法

5月29日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

「さあさあさあ! 闘技場の熱狂は留まるところを知りません! 規格外のパワーファイターたちが次々と一瞬で沈められる異常事態の中、第三回戦に歩みを進めたのはこの男! Aランク探索者にして、王国筆頭宮廷魔術師の肩書きも持つ『大魔導』のアルベール選手だァァァッ!!」


魔法拡声器を通して、実況バッカスの喉を引き裂くような声が、満員の闘技場をビリビリと震わせる。


闘技場に現れたのは、最高級の魔力糸で織られた豪奢なローブに身を包み、身の丈ほどもある宝玉の杖を携えた金髪の青年だった。彼の歩みに合わせ、周囲の空気には高密度の魔力がバチバチと青白い火花を散らして渦巻いている。


「実況のバッカスです! ガストンさん、アルベール選手はこれまでの近接ランカーとは違い、遠距離からの超絶魔法で広範囲を殲滅するトップクラスの術士です! 果たしてリーファス選手のあの謎のカウンターは、大魔導の飽和魔法攻撃にも通用するのでしょうか!?」


「ええ、バッカスさん」

解説のガストンが額の汗を拭いながら頷く。

「アルベール選手の真骨頂は、複数の属性魔法を寸分の狂いもなく同時に編み上げる『多重詠唱』にあります。物理的な接触を一切拒絶し、闘技場ごと消し飛ばすような連射を行えば、いかにリーファス選手といえども無傷では――」


ガストンの解説を遮るように、アルベールが傲慢に鼻で笑った。


「野蛮な猪のように突っ込むから無様に敗れるのだ。魔力を持たぬ泥人形め、貴様が何か小細工を弄する前に、我が至高の魔術で塵一つ残さずこの世界から消去してやろう」


アルベールが宝玉の杖を天に掲げた。その瞬間、闘技場の上空に巨大な幾何学模様の魔法陣が三重、四重……いや、五重に重なり合って大展開された。バチカンを包む空が赤黒く染まり、灼熱の魔力が暴風となって吹き荒れる。


「さあ、絶望の中で灰に狂え! 五重複合・極大魔術『天照の業火(ソーラー・フレア・ストライク)』ォォォッ!!」


上空の魔法陣から、太陽の破片そのものかと思えるほどの巨大な火球が、闘技場の石畳をドロドロのマグマへと溶かしながら、リーファスに向けて容赦なく降り注ぐ。観客席にまで牙を剥く熱波に、悲鳴があちこちで上がった。


「で、出たァァァッ! アルベール選手の代名詞、回避不能の超広範囲決戦魔術だ! 闘技場全体が、一瞬で地獄の火の海に――」


(やれやれ。魔力を無駄に垂れ流した、図体ばかりデカい見掛け倒しの術式だな。編み込みの繋ぎ目が甘い。隙だらけだ)


眼前に迫る世界の終わりのような業火の雨を前にしても、リーファスの瞳は冷徹なまでに静かだった。ただ冷静に、魔法陣の致命的な「ほころび」だけを観察している。

彼はゆっくりと、ポケットから右手を抜いて天にかざした。


「――ごちそうさま」


シュゥゥゥゥゥゥ……ッ!!!


リーファスの掌から『魔霊反転(まれいはんてん)』の不可視の渦が発生した、その刹那だった。闘技場を丸ごと飲み込もうとしていた巨大な火球の群れが、まるでブラックホールに吸い込まれる煙のように、一瞬にして彼の体内へと吸い込まれ、霧散していった。


「なっ……!? 馬鹿な、我が最大出力の魔術が……消えた!? 一体どんな防御障壁を張ったというのだ!」

アルベールが、信じられないものを見たように目を極限まで剥く。


「障壁など張っていない。ただ、君の魔力が私の『霊力』の餌になっただけだ」

リーファスは流れるような動作で、静かに指先で印を結んだ。

「――英霊降臨。『魔術師マーリン』」


スッ、と。

リーファスの手元に、霊力で編まれた一本の古びた木の杖が顕現した。

同時に、彼の全身から立ち上る気配が劇的に変貌を遂げる。先ほどまでの冷徹な武術家としての鋭さは綺麗に消え失せ、代わりに、世界の深淵を覗き込むような、神秘的で圧倒的な『魔の支配者』としてのオーラが闘技場全体を支配した。


「さて、若き魔術師殿。魔力に頼り、力任せに火を放つばかりが魔術ではないと……少しばかり教えてあげよう」


リーファスが手にした木の杖で、溶けかけた石畳をコン、と軽く叩いた。

呪文の詠唱はない。魔法陣の展開すらもない。

この世界の魔術の常識を根底から無視したその一挙動だけで――世界が、一瞬で塗り替わった。


「なっ……!? 空間が……闘技場が、花畑に!?」


実況のバッカスが絶叫する。

ドロドロに溶けて赤黒く波打っていたはずの石畳が、次の瞬間には、視界の果てまで幻想的な白百合の花畑へと変貌していたのだ。アルベールが放ち、リーファスが吸収・変換した莫大な魔力エネルギーが、マーリンの『現実を侵食する大幻術』の苗床として顕現したのである。


「ば、馬鹿な! 無詠唱でこれほどの大規模な地形書き換え魔法だと!? あり得ない、こんなものは人間の御せる領域ではないッ!!」

アルベールは完全にパニックに陥り、狂ったように杖を振り回して炎や氷の複合魔術を連発する。


だが、彼が死に物狂いで放つ高火力の魔法は、リーファスの周囲に咲き誇る白百合の花びらに触れた瞬間、まるで子供のシャボン玉のようにパチンと音を立てて弾け、光の粒子へと還っていく。


「無駄だよ。ここは君の『魔』が及ぶ世界じゃない」


リーファスが木の杖を横に一閃すると、地を埋め尽くしていた白百合の花びらが一斉に舞い上がり、猛烈な吹雪となってアルベールへと殺到した。

それはただの花びらではない。一枚一枚が、アルベールの極大魔術を遥かに凌駕する濃密な霊力の刃。


「ヒィィィッ!! 助け――」


ザザザザザァァァァッ!!!


鋭利な花びらの暴風がアルベールの全身を包み込み、彼が何重にも張り巡らせていた堅牢な宮廷魔法障壁を、薄紙を剥ぐように易々と切り裂いていく。

そして、完全に無防備になったアルベールの喉元の、わずか一ミリ手前で――すべての花びらがピタリと静止し、一本の巨大な『光の聖剣』へと形を変えた。


圧倒的な、絶対的な死の気配。

自分が手も足も出ない、次元の違う「本物の魔法」の深淵を見せつけられたアルベールは、プライドを完全に粉砕され、その場に崩れ落ちた。ガチガチと哀れに歯を鳴らし、白目を剥いて――そのまま泡を吹いて気絶した。


「勝負あり、だね」


リーファスが指先をチィンと鳴らすと、幻想の花畑も、首筋を捉えていた光の剣も、最初から幻だったかのようにスッと消え去り、元の荒れ果てた闘技場へと戻った。


「…………しょ、勝者ァァァ! リーファス・カモォォォッ!!」


一瞬の静寂の後、地鳴りどころかコロッセオ全体が崩壊するかのような大歓声が爆発した。


「うおおお信じられん! なんだ今の魔法はァァッ!? 詠唱すら、陣すら見えなかったぞ!!」

「あの『大魔導』アルベールの最高峰の魔術が、まるで子供の火遊びに見えた……!」

「実況のバッカス、もはや言葉を失っております! ガストンさん、今のは一体何属性の魔法なんですか!?」

「わ、分かりません……! あれは属性などという低次元の話ではない! 世界そのもののシステムを書き換えるような……神話の時代に失われた『真実の魔法』そのものです! 彼には武の神だけでなく、魔の神すらも宿っているというのか……ッ!」


ガストンの解説は完全に畏怖に染まっていた。

一方、控室の入り口では、相棒のクリスが目をハートにしながら「さすがリーファス様……魔術師のトップすらも赤子扱いなんて、かっこよすぎますぅ!」と身悶えして胸を躍らせている。


天を突く大歓声の嵐の中、リーファスは霊力の杖を霧散させ、気絶したアルベールを一瞥して肩をすくめた。


「詠唱に時間をかけ、目立つ陣を描くなど、実戦では『ここを狙ってくれ』と言っているようなものだ。……まあ、派手な花火で観客を喜ばせるエンターテイナーとしては及第点かもな」


不敵な笑みを口元に小さく浮かべ、リーファスは悠然とロングコートを翻して闘技場を後にする。


武術で巨漢を無力化し、魔術の頂点を無詠唱の大魔術で絶望させる。

底なしの引き出しを持つ15歳の少年の背中に、世界探索者ギルド本部の誰もが、底知れぬ畏怖と熱狂の眼差しを向けていたのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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