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精力善用。二トンの鉄塊を宙に舞わせる『達人の理』

5月29日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

「さあさあさあ! 第一回戦、あの『爆炎のゴードン』を寸止めの拳撃一発で壁に埋め込んだ、新Sランク・リーファス選手の衝撃的なデビューから興奮冷めやらぬまま! 世界探索者ギルド本部の大闘技場コロッセオは、さらなる熱狂の渦に包まれております!」


魔法拡声器(マジック・メガホン)を通して、実況バッカスの喉を枯らさんばかりの声が闘技場の隅々まで響き渡る。


「今大会の参加者は計10名! リーファス選手を除く9名は、各支部から選りすぐられたトップクラスのAランク探索者たちです! 別ブロックの第一回戦も、まさに怪物たちの潰し合いでした! 『氷帝』エララ選手が闘技場の半分を文字通り凍てつかせれば、『双剣』のジン選手が音速の剣技で岩山のような魔獣を切り伏せる! そして先ほど、最凶の雷撃で勝利をもぎ取った『雷鳴』のヴォルグ選手! まさにAランクの頂点を決めるにふさわしい激闘の数々!」


「ええ、バッカスさん」 解説のガストンが身を乗り出して頷く。


「しかし、その中でも先ほど勝ち上がってきた『鉄山』のダリウス選手は別格の極みでした。自身の鎧に重力魔法を付与し、総質量を2トンにまで跳ね上げた超重量突進。対戦相手の風の魔術師を、防壁ごと文字通り『轢き潰し』ましたからね。……さあ、そんな絶望的な質量を誇るダリウス選手に対するは、15歳にして絶対の強者たる風格を纏う、新Sランクのリーファス選手です!」


地鳴りのような歓声がスタジアムを揺らす中、闘技場の中央へ、身長2.5メートルに達する巨漢――ダリウスが、一歩ごとに石畳を軋ませながら歩みを進めていた。全身を覆うのは、鈍い銀光を放つ分厚いミスリル合金の重装鎧。


対するリーファスは、端正に整えられた軍服風のロングコートを風に揺らし、武器すら持たずに、静かに佇んでいる。

(ほう……他の者たちの試合も見ていたが、この世界の戦いは魔力と出力に頼り切った大味なものが多いな。力任せで、あまりにも脆い)

見た目は銀髪碧眼の15歳の美少年。しかし、前世の記憶と今世の歩みを重ね、精神的には達人の領域に達しているリーファスから見れば、Aランク探索者たちの派手な魔法戦も、血の気の多い若者が力任せに暴れている子供の戯れ合いに等しかった。


「見掛け倒しのガキが! さっきのはゴードンの奴が油断しただけだ!」


ダリウスが頑強な兜の奥から血走った目をギラつかせ、身の丈を超える大斧を構える。

「俺の『重力魔法・超加重』の前では、どんな小手先の技も通用せん! 貴様はその薄っぺらい身体ごと、俺の突進に轢かれてただの肉塊になるんだよォ!!」


ゴゴゴゴゴォォッ……!!


ダリウスの咆哮と共に、彼の周囲の空間が猛烈な重圧の余波で目に見えて歪み始める。

2トンを超える歩く鉄塊。それが爆発的な推進力を得て、猛烈なスピードで直線状の突進を開始した。まさに、回避も防御も許されない鉄の暴走機関車だ。


「あーっと、ダリウス選手のフルスロットル・チャージだァ! あの質量が直撃すれば、巨人族ですら即死は免れない! リーファス選手、正面からまともに受けるつもりか!?」


(重力魔法で己の体重を増強、か。打撃が通らない相手には、自らの重さが最大の牙になると思い込んでいるようだが……)

リーファスは、迫り来る鉄の暴風を前にしても、眉一つ動かさなかった。

その冷徹な瞳は、ダリウスの放つ重力魔法の魔力の流れ、そしてその突進が描く『力のベクトル』を、ミリ単位で正確に見極めていた。


(重ければ重いほど……『投げる』のにはこれ以上ない好都合だ) リーファスは胸の前で、静かに印を結ぶ。


「――英霊降臨。『嘉納治五郎(かのう じごろう)』」


スッ。 先ほどの鋭い拳法の構えとは完全に異なる。

リーファスは両腕を無造作に下げ、肩の力を完全に抜き、足幅を自然に開いた。


――『自然体(しぜんたい)』。


いかなる方向からの力にも瞬時に対応し、万物の動きを受け流すための、柔の道の究極たる基本姿勢。


「な、なんだあの脱力しきった構えは!? 諦めて棒立ちになったのかァ!?」

「いや、違います……! バッカスさん、見てください! リーファス選手の足元に押し寄せていた重力の津波が……彼の掌に吸い込まれていく!」


ダリウスの纏う重力魔法の過剰なエネルギーの一部を、リーファスは『魔霊反転』の術理で瞬時に吸い上げ、自身の霊力へと還元していく。

そして、2トンの鉄塊がリーファスを粉砕せんと激突する、その刹那――。


「死ねェェェッ!!」

「――『精力善用(せいりょくぜんよう)』」


リーファスは、一切回避しなかった。

地響きを立てて突進してくるダリウスの分厚いミスリルの胸当てを、左手で吸い付くようにフワリと掴み、右手をその巨腕の下へと鋭く滑り込ませる。圧倒的な質量が肉体を直撃する寸前、リーファスは自身の軸足をクルリと半回転させ、ダリウスの懐の完全な死角へと潜り込んだ。


「なっ……!?」


ダリウスの視界から、突如として少年の姿が消え失せた。

いや、違う。少年は己の胸の真下にいる。そして次の瞬間、ダリウスが誇る「2トンの重さ」と「猛烈な突進の推進力」の全てが、少年のコンパクトな背中を支点にして、そのまま前方へと抜ける『逃げ場のない遠心力』へと強引に変換された。


「――『一本背負(いっぽんぜおい)』」


フワッ、と。 重力魔法の加護を受けた2トンの巨躯が、まるでただの紙風船のように、闘技場の宙を軽やかに、そして美しく舞った。

抵抗などできるはずがない。ダリウス自身の突進力というベクトルに、リーファスの霊力と洗練され尽くした『崩し』の技術が上乗せされているのだから。自重が重ければ重いほど、叩きつけられる威力は跳ね上がる。


ダリウスが兜の奥で驚愕の声を漏らした次の瞬間、天地が完全に逆転した。

彼の巨体は、脳天から闘技場の床へと凄まじい自由落下速度で叩きつけられる。


ドッガァァァァァァァァァァァァォンッ!!!!!


まるで隕石が直撃したかのような大爆音。闘技場全体が激しく縦揺れを起こし、観客たちが一斉に座席から跳ね上がる。

叩きつけられた凄まじい質量と衝撃によって、頑強な石畳はクレーターのようにすり鉢状に粉砕され、ダリウスの纏っていた重力魔法が暴発。

その衝撃の逃げ場を失った分厚いミスリルの鎧が、音を立てて派手に弾け飛んだ。

もうもうと白い土煙がスタジアムを満たす中。

リーファスは、ダリウスの太い右腕をしっかりと握ったまま(受け身を取らせず、威力を100%叩き込むための『引き手』だ)、ピタリと微動だにせず残心をとっていた。

クレーターの中心で、鎧を半壊させて白目を剥き、完全に沈黙しているダリウス。


「…………しょ、勝者! リーファス・カモォォォッ!!」


審判の声が完全に裏返った。

数秒の、静寂。そして、コロッセオの十万人の観客席が、大地を揺らすほどの狂乱の渦に包まれた。


「うおおおおおおおおっ!! なんだ今の投げ技はァァッ!?」

「2トンの重戦車が、15歳の子供に片手一本で軽々と放り投げられたぞォォッ!?」

「信じられません! バッカス、自分の目を疑っています! ガストンさん、今のも魔法を消したのですか!?」

「あ、あり得ない……! 相手の突進力と重力を、100パーセント自分の力として利用したのです! 『柔よく剛を制す』……なんという恐るべき武の理……っ! この少年は、一体どれほどの死線を潜り抜ければ、あんな達人の境地に辿り着けるというのですか!?」


ガストンの声は震え、恐怖すら滲ませていた。

一方、控室の入り口では、相棒のクリスが「見なさい! 私のリーファス様に力技で挑むなんて100年早いのよ!」と、自分のことのように自慢げにふんすふんすと鼻を鳴らしている。

当のリーファスは、乱れたコートの裾についた土埃を軽く払い、大の字で気絶しているダリウスを見下ろした。


「力任せの猪突猛進。重ければ勝てるというのは、素人の浅知恵だな」


歴戦の勇士のような、低く、重みのある静かな呟き。


「お前の力みが、お前自身を砕いたのさ。……怪我が治ったら出直してくるんだな。いつでも相手になろう」


天を突く大歓声を背に受けながら、涼しい顔で歩き出すリーファスの後ろ姿には、美少年という可憐な外見からは想像もつかない、底知れぬ『武の怪物』としての圧倒的なオーラが漂っていた。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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