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お披露目トーナメント:老練なる一撃と熱狂の闘技場

5月29日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

神聖都市バチカンの円卓の間にて、リーファス・カモが歴史上8人目となる『Sランク探索者』に認定されてから1週間。

世界探索者ギルド本部には、新たな最高峰の誕生を祝うと共に、その実力を全世界へ知らしめるための一大行事が存在していた。

それこそが、超満員の観衆の前で繰り広げられる『Sランクお披露目トーナメント』である。


「さあさあさあ! 割れんばかりの大歓声の中、ついに始まりました! 世界探索者ギルド本部が誇る大闘技場コロッセオ! 本日のメインイベントは、1週間前に電撃的なSランク昇格を果たした、歴史上8人目の怪物のお披露目試合だァァァッ!!」


魔法拡声器(マジック・メガホン)を通して、実況のハイテンションな絶叫が闘技場の巨大な石壁をビリビリと震わせる。コロッセオを埋め尽くす各国の王侯貴族、そして世界中から集まった歴戦の探索者たちの熱気は、すでに沸点に達していた。


「実況は私、ギルド広報部のバッカス! そして解説は、元Aランク探索者の重鎮、ガストンさんにお願いしております! ガストンさん、本日の主役、リーファス・カモ選手……なんと弱冠15歳! この歴史的かつ特例中の特例とも言える昇格、どう見ますか!?」


「ええ、バッカスさん。正直に申し上げまして、私は未だにギルド上層部の判断を疑っていますよ。15歳の、しかも魔力を一切持たない少年が最高峰のSランクなどと、前代未聞だ。今日の対戦相手であるAランクのトップランカー、『爆炎のゴードン』選手が、年季と格の違いというものを容赦なく教えてくれるでしょう」


ガストンの冷ややかな解説を裏付けるように、闘技場の中央では、熊のような筋骨隆々の大男――ゴードンが、身の丈ほどもある魔導杖の先で、禍々しい業火を渦巻かせていた。

対するリーファスは、軍服風の仕立ての良いロングコートを端正に着こなし、まるで休日の街角を散歩するかのような超然とした佇まいで静かに立っている。


ジリリリリン!と、審判の開始の合図が鳴り響いたその瞬間、ゴードンの杖から爆発的な熱量が解放された。


「喰らえ、運だけのクソ坊主! その分不相応なSランクの座は、俺が叩き落として頂いてやる! 『極大魔法・煉獄の(あぎと)』ォォッ!!」


ゴードンが杖を振り下ろすと、闘技場の頑強な石畳をドロドロに溶かしながら、巨大な炎の猛獣の顎が、リーファスを骨ごと丸飲みせんと狂い咲いた。あまりの熱波に、前列の観客から悲鳴に近い悲鳴が上がる。


「ああーっと! 開幕からゴードン選手の最大必殺魔法だァ! 回避不能の広範囲熱線! 果たして新Sランクはどう動く――」


実況のバッカスの絶叫が、ふつり、と場違いなほど唐突に途切れた。


「……は?」


ゴードンが、間の抜けた声を漏らす。


リーファスは、一歩も動いていなかった。ただ、迫り来る巨大な炎の顎に向けて、退屈そうに右手をすっと掲げただけ。

その瞬間――闘技場を焼き尽くさんとしていた猛り狂う業火が、まるで最初から幻だったかのように、一瞬で「スゥッ」と虚空へ掻き消えたのだ。

いや、消えたのではない。ゴードンの放った莫大な魔力が、リーファスの掌に触れた刹那にその性質を反転させられ、彼自身の純粋な『霊力』として体内に吸収されたのだ。『魔霊反転(まれいはんてん)』という、魔術師にとっての天敵たる絶対的カウンター。


「な、なんだァ今の現象はァァッ!? ガストンさん! リーファス選手、一体何をしたんですか!?」

「わ、分かりません……! 魔力障壁を展開した光も、呪文を相殺した衝撃波も一切なかった! ただ、ゴードン選手の放った極大魔法のエネルギーそのものが、跡形もなく消失しました……っ!」

「馬鹿な……俺の最大魔力が、一瞬で吸い取られた……!? ええい、ならば物理で、その細い身体ごと叩き潰すまでだ!」


予想外の事態に動揺しながらも、ゴードンは自身の肉体に「身体強化」の魔法を何重にも重ね掛けし、背中から巨大な大剣を引き抜いて猛進してきた。地響きを立てて迫る、鉄塊の突撃。


それを正面から迎え撃つリーファスは、ふぅ、と小さく息を吐いた。

(やれやれ。熱意と馬鹿力は買うが、いかんせん血の気が多すぎるな。少し頭を冷やしてもらうか)


その内面は、前世と現世の記憶を合わせ、70年の歳月を生き抜いてきた老練なる陰陽師。圧倒的な実力差を前にしても、彼の心境は波一つ立たない水面のように静まり返っていた。

リーファスは胸の前で、静かに印を結ぶ。

「――英霊降臨。『郭雲深(かく うんしん)』」


スッ……。

リーファスの構えが、自然体から流れるように変化した。前後の足幅を絶妙に詰め、右の拳を腰の後ろに引き込み、左の掌を前に添える――中国拳法、形意拳の基本にして究極の構え。


「な、なんだあの構えは!? 武器も持たずに、あの巨漢相手に素手で挑むというのか――」

「速いっ! ゴードン選手、防――」


実況と解説が声を枯らして叫んだ時には、すでに全てが決着していた。

リーファスは、大剣を振り下ろさんとするゴードンの懐に向かって、ただ『半歩』だけ、滑るように踏み込んだ。


たった半歩。だがその刹那、彼我の距離は完全にゼロへと縮まり、下からえぐるように放たれたリーファスの右の縦拳が、ゴードンの分厚い胸板の――わずか一ミリ手前で、狂いなくピタリと寸止めされた。


「――『半歩崩拳(はんぽほうけん)』」


ドパァァァァァァンッ!!!


直接、肉体には触れてすらいない。だが、リーファスの拳の先から、体内の膨大な霊力を乗せた極大の『浸透勁(しんとうけい)』が文字通りの大爆発を起こした。

ゴードンが何重にも張り巡らせていた堅牢な魔力障壁が、ガラス細工のように木端微塵に粉砕され、その衝撃波は肉体を透過して骨肉を激しく揺さぶる。

『半歩崩拳、あまねく天下を打つ』――かつて異世界の近代武術界を震撼させた、神業の完全なる再現。


「が、は……っ!?」


ゴードンは悲鳴を上げることすら許されず、その巨体を信じられない速度で後方へと弾き飛ばされ、闘技場の分厚い外壁へと一直線に激突した。

ズドォォン!!という凄まじい地鳴りのような轟音と共に壁面へと深くめり込み、白目を剥いて完全に気絶するAランク探索者。

十万人を収容する巨大な闘技場は、水を打ったような完全な静寂に包まれた。


「…………し、勝者、リーファス・カモォォォッ!!」


驚愕のあまり喉を詰まらせていた審判の絶叫が響いた瞬間、コロッセオの観客席が爆発したような大歓声で揺れた。


「うおおおし、信じられん! なんだ今の一撃はァァッ!?」

「魔法を無音で消し飛ばし、触れもせずにAランクの重戦車を吹き飛ばしたぞ!!」

「実況のバッカス、全身の鳥肌が止まりません! ガストンさん、今のは一体何が起きたんですか!?」

「あ、あり得ない……。あのような無駄を極限まで削ぎ落とし、洗練され尽くした武の極致……! 15歳の少年が到達できる領域などでは断じてない……! 彼の中には、歴戦の古き武神でも宿っているとでも言うのでしょうか!?」


降るような拍手と大歓声が鳴り響く中、退場口の影では、相棒のクリスが「さすがは私のリーファス様です!」と、誇らしげにふくよかな胸を張って出迎えている。


当のリーファスは、激しい一撃の後だというのに息一つ乱さず、少しだけ緩んだネクタイを指先で軽く締め直しながら、壁に哀れに埋まっているゴードンを一瞥した。

「若さゆえの勢いと突進力は嫌いじゃないが……実戦ならすでに三度は死んでいるぞ。良い夢を見るんだな」


少年の口から漏れたとは信じられない、あまりにも渋く深い独り言。リーファスは悠然とロングコートの裾を翻し、闘技場を後にする。

その圧倒的かつ老練な無双劇は、彼が『本物のSランク』であることを、バチカンに集った世界中の誰の目にも、疑いようのない絶対の事実として深く焼き付けたのだった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

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