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革命の銃弾と、決別のスミス家

5月29日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

 エルフの里での一件を終え、アリスの無事を見届けたリーファスたちは、再び海を渡って大陸――フランス王国の地を踏んでいた。


目指すは、イタリア半島にある世界探索者ギルド本部、神聖都市ローマ(バチカン)。

三人が乗るごく普通の木造の馬車は、街道の轍に揺られながら、のどかなフランスの田園風景の中を南へと進んでいる。


「……まさか、こんなに早くこの国に戻ってくることになるとはな」


御者台のすぐ後ろ、窓枠に肘をついて外を眺めながら、リーファスは小さく息を吐いた。

15歳で追放された故郷。魔力を持たないが故に実父から疎まれ、長男や次男からは蔑まれ続けた日々。だが、全てが悪い思い出というわけではない。


追放されるあの日、長男たちの目を盗んでこっそりと金貨と他国への通行証を握らせてくれた三男、ビンセントの顔が脳裏をよぎる。

『すまない、リーファス。僕に力がないばかりに……生きて、必ず幸せになってくれ』

スミス家の中で唯一、自分とクリスを人間として扱ってくれた心優しい兄。彼が平穏に暮らしていることだけを、リーファスは密かに願っていた。


馬車が峻険なアルプス山脈の麓に差し掛かり、イタリア国境が近づいてきたその時。

いななきと共に、馬車が急ブレーキをかけて停止した。


「……どうやら、お迎えが来たみたいね。それも、とびきり歓迎されていないヤツ」


向かいの席に座るディードリットが、碧眼を細めて前方を睨む。

馬車の行く手を塞ぐように、街道には白銀のローブを纏った数十名の宮廷魔術師団が陣形を組んでいた。そして、その先頭で傲慢に顎を上げているのは――長男の腰巾着としてリーファスを見下していた次男、ウィルソン・スミスだった。


「リーファス様。あれは……」

「ああ、次男のウィルソンだ。相変わらず、虎の威を借る狐みたいな顔をしてるな」


不安げに身を寄せるクリスの肩を優しく叩き、リーファスは馬車の扉を開けて降り立った。山おろしの風が、彼の軍服風のロングコートを揺らす。


「見つけたぞ、リーファス! この出来損ないめ、フランス王家の命によりお前を連れ戻す!」


ウィルソンはリーファスを見るなり、勝ち誇ったように叫んだ。


「王家直属の宮廷魔術師団を動かすとは、随分と大げさだな。長男の機嫌取りしか能がないアンタが、よくこれだけの兵を借りられたものだ」

「減らず口を……! 貴様がブリタニアで小賢しい真似をして名を上げたせいで、スミス家は王家から圧力を受けているんだ! 大人しく実家に戻り、王家の犬として働け! ――おお、そうだ。そこにいる不吉な黒髪の女は、ここで始末してやる。目障りだからな」


ウィルソンがクリスを指差した瞬間、リーファスの瞳の奥で、合算して70年の人生で培われた静かなる、しかし決定的な『怒り』が燃え上がった。

クリスの足元から濃密な闇の魔力が溢れ出しそうになるが、リーファスはそれを手で制する。


「クリス、ディード。手出しは無用だ。……私の家族を侮辱し、私の自由を縛ろうとする腐敗した権力には、それに相応しい『返答』をしてやらないとな!」


「やれ! 手足の二、三本へし折って引きずってこい!」


ウィルソンが顔を真っ赤にして金切り声を上げると、数十名の宮廷魔術師たちが一斉に呪文を紡ぎ始めた。

火、風、土。幾重にも折り重なる複数の属性が街道の魔素を巻き込み、周囲の木々を一瞬で炭化させるほどの巨大な炎の竜巻となってリーファスへと牙を剥く。


だが、リーファスは眉ひとつ動かさず、迫り来る劫火の壁に向かって無造作に右手を突き出した。

――『魔霊反転(まれいはんてん)』。


炎の竜巻がリーファスの掌に触れた瞬間、猛烈な勢いでその性質が逆転していく。空間を焼き尽くさんとしていた破壊の魔力は、清冽な蒼い『霊力』へと瞬時に変換され、リーファスの体内へと掃除機のように吸い込まれていった。


「なっ……!? ば、馬鹿な! 国家最高峰たる宮廷魔術師の合成魔術が、跡形もなく掻き消されただと……!?」

「ごちそうさま。おかげで、腹一杯に霊力が満ちたよ」


驚愕に顔を引き攣らせるウィルソンを冷徹に見据え、リーファスは全身から凄まじい霊力のオーラを立ち昇らせた。背後の空間が、陽炎のようにゆらゆらと歪む。


「高慢な貴族ども。お前たちの最大の弱点は、その長たらしい『詠唱時間』だ。ふんぞり返っている権力者には、いつだって泥臭い鉛玉が牙を剥く」


リーファスが静かに目を閉じ、深く息を吐き出す。

「――『英霊降臨(えいれいこうりん)』」


顕現せよ。腐敗した巨悪に抗い、自由と解放を求めて密林を駆け抜けた、孤高なる革命の象徴――エル・チェ(チェ・ゲバラ)。


立ち昇る蒼い光が収まった時、リーファスの姿は一変していた。

いつもの仕立ての良いロングコートは、泥と汗が染み付いたオリーブグリーンの野戦服へと変わり、銀髪の頭には赤い星が鈍く輝くベレー帽。そしてその両手には、洗練された美しさとは無縁の、ただ標的を殺害するためだけに作られた無骨な鉄の塊――『AK47(アサルトライフル)』が握られていた。


「な、なんだその奇妙な鉄の杖は……! 構わん、第二陣、早く詠唱を開始しろ――」


「遅ぇよ」


ウィルソンが叫びきるより早く、リーファスはAK47の銃床を肩に回し、迷いなく引き金を絞り込んだ。


ダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!


静かな山間に、鼓膜を震わせる凶悪な破裂音が鳴り響く。

霊力によって無限に生成される7.62ミリ弾の雨が、宮廷魔術師団の美しい陣形を容赦なく蹂躙した。

火薬の代わりにリーファスの霊力で撃ち出される肉厚の弾丸は、毎分600発という未知の暴力となって街道を吹き荒れる。泥と硝煙の匂いを纏った革命の弾幕の前に、魔術師たちが慌てて展開した見栄えばかりの『魔法障壁』など、ガラス細工のようにあっけなく粉砕されていく。


「ひぃぃぃっ!? なんだこの衝撃は、結界が保たないっ!」

「詠唱が……衝撃で呪文が紡げなっ、ぎゃあああっ!!」


高貴なローブが引き裂かれ、血飛沫が舞う。

洗練された魔術の戦いしか知らないエルフや人間にとって、ただ引き金を引くだけで絶え間なく放たれる物理の質量兵器は、恐怖以外の何物でもなかった。手足を容赦なく肉片ごと抉られ、精鋭たちが次々と地面に転がっていく。もちろん、リーファスの意思によって致命傷だけは避けられていたが、受けた痛みの恐怖は死に等しい。

数十名いたスミス家が用意した自慢の部隊が、無骨なアサルトライフルの咆哮の前に、わずか数十秒で完全に無力化された。


周囲に生々しい硝煙の匂いが漂う中、最後に残されたウィルソンは、完全に失禁して腰を抜かし、地面にへたり込んでいた。

カチャリ、と冷たい金属音が響く。

リーファスは銃口から細い一筋の煙を上げながら歩み寄り、いまだ熱を持ったAK47の銃身を、実の兄の額にピタリと容赦なく押し当てた。


「ひっ……! や、やめろ、リーファス……! 撃つな、俺は兄だぞ! 偉大なるスミス家の……!」

「だからどうした。私はもう誰の指図も受けない。私とクリスの行く道を阻むなら、たとえ実家だろうと国家だろうと踏み潰すだけだ」


70年の人生で培った揺るぎない凄みと、革命家の冷酷さが混じった声色。ウィルソンはガチガチと歯の根を鳴らし、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして震えた。


「よく聞け、ウィルソン。親父殿やフランス王にこう伝えろ。『私に構うな、死にたくなければ』とな。――それから……」


リーファスは銃口を少しだけ強く額にめり込ませ、声を地を這うような低音へと変えた。


「ビンセント兄さんに少しでも不自由を強いたり、冷遇したりしてみろ。……その時は私がフランスに戻り、お前たちの愛するスミス家を、屋敷ごと物理的に解体してやる。わかったな?」

「ひぃっ! わ、わかった……! 伝える、絶対にビンセントには手出しさせない……! 約束するから、その杖を退けてくれ……!」


リーファスがゆっくりと銃口を引き剥がすと、ウィルソンは泥に塗れながら這うようにして逃げ出し、呻き声を上げる部下たちを引きずりながら、無様な姿で来た道を引き返していった。


「ふぅ」


リーファスが短く息を吐くと、身に纏っていた野戦服とAK47が光の粒子となって消え、いつものロングコート姿に戻る。


「……信じられない。あんな数の宮廷魔術師を、たった一人で、しかも一瞬で制圧するなんて。リーファス、あの鉄の武器、一体何なの……?」


馬車の影から恐る恐る出てきたディードリットが、信じられないものを見る目で呆然と呟いた。その横で、クリスはうっとりとした熱を帯びた瞳でリーファスを見つめ、きゅっと胸の前で手を握りしめている。


「さすがはリーファス様……! 権力に屈しないそのお姿、本当に、本当にお美しかったです……!」

「ああいう理屈の通じない連中には、言葉よりも圧倒的な『力』を見せつけるのが一番早いからな。……さあ、邪魔者は消えた。ローマへ急ごう」


過去のしがらみを無骨な鉄の弾丸で断ち切り、大切な恩人への保険も済ませたリーファスたちは、再び馬車へと乗り込み、Sランクへの扉が開く神聖都市バチカンへと向かって出発した。

本日もお読みいただきありがとうございます!

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