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異国の地で得た勲章と、王女の憂鬱

5月28日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

リチャード第二王子の魔族融合という未曾有の反乱を鎮圧した翌日。

リーファス一行は、ブリタニア王国の王城・謁見の間に召し出されていた。


「異国より来た若き探索者たちよ。愚息の凶行を止め、我が国を救ってくれたこと、心より感謝する」


玉座に座る老齢のブリタニア王エドワード・ウィンザーは、深く頭を下げた。

 事態は王家の最大級の醜聞であり、本来なら他国の探索者に知られれば厄介な外交問題に発展しかねない。しかし、パリ支部の抗議文を携え、自国の工作員の暴走から王家の危機までを鮮やかに解決してみせた彼らを、王は最大限の礼と、そして底知れぬ力への畏怖をもって遇した。


王からの恩賞は破格だった。

 一つ、金貨1000枚(日本円にして約一億円相当)。

 二つ、大英帝国勲章の授与。

 三つ、各員への「ブリテン騎士爵」の授与である。


(実家を追い出されたと思ったら、出張先で貴族になってしまったな……過分な褒賞は不要といったのだが……)


玉座の前で恭しく傅きながら、リーファスは内心で苦笑した。

 スミス伯爵家四男としての身分を捨て、ただの「リーファス」として気楽に生きるつもりだったが、前世の陰陽師としての性分で魔を祓っていたら、図らずも再び特権階級に返り咲いてしまったのだ。


ふと横を見れば、同じく騎士爵を賜ったクリスが、信じられないというように黒い瞳を激しく瞬かせ、歓喜に肩を震わせている。

 ただの奴隷出身で、忌み嫌われる闇魔術師だった彼女が、この国で最も栄誉ある「貴族」になったのだ。リーファスを信じて付いてきた、その答えがこの最高の栄誉だった。その震える横顔を見て、リーファスは実家の無能どもを思い出し、少しだけ胸がすく思いだった。


◇◇◇◇◇


その夜、王城の大広間では、彼らの叙勲を祝う盛大な晩餐会が開かれていた。


「クリス、よく似合ってるよ。ディードリット殿も、流石の着こなしだな」


普段の軍服風の装いから一転、仕立ての良い漆黒の夜会服(燕尾服)に身を包んだリーファスが微笑む。銀髪を高い位置で結い上げたその姿は、大広間のどの若き貴族よりも息を呑むほどの美男子ぶりだった。


隣に立つクリスは、彼女の黒髪と黒目を際立たせる、深紅と黒を基調とした豪奢なドレスを纏っている。初めは「私なんかがこんな、リーファス様のお隣に立つなんて……」と怯えていた彼女も、当のリーファスに真っ直ぐ褒められると、顔を真っ赤に染めて、この世の誰よりも幸せそうに微笑んだ。

 Sランク探索者であるエルフのディートリットも、深い森を思わせる緑のイヴニングドレスを完璧に着こなし、グラスを片手に周囲の貴族たちの視線を釘付けにしている。長命種特有の、すべてを見通すようなニヤニヤとした視線をリーファスに送っていた。


「リーファス様こそ……本当に、胸が苦しくなるほど素敵です」


クリスが熱っぽい、潤んだ視線でリーファスを見つめてきた、その時だった。


「リーファス卿。素晴らしい、まるで御伽話のようなご活躍だったと聞いておりますわ」


軽やかな、しかし気品に満ちた足音とともに現れたのは、ブリタニア王国の第三王女、エリザベスだった。

 金糸の髪に眩い碧眼。リーファスと同い年である15歳の彼女は、王族特有の華やかさと、年相応の好奇心、そして目の前の美しい少年への隠しきれない熱情を瞳に宿して彼を見上げていた。


「恐れ入ります、エリザベス殿下。我々は探索者としての責務を果たしたまでです」

「ふふっ、ご謙遜を。……ねえ、卿はまだ特定のパートナーはいらっしゃらないの? もしよければ、この後のダンス、わたくしと……いえ、これからのブリタニアでの生活も、わたくしが個人的に、あらゆる面でサポートして差し上げたいのだけれど」


それは、王女からの明確な「求婚」にも等しいアプローチだった。周囲の贵族たちが一斉にざわめく。

 しかし、その中身は55歳の老練な陰陽師であるリーファスにとって、15歳の少女の精一杯の誘いなど、孫娘のお遊戯に等しい。それに、ここで王族と色恋沙汰になれば、面倒な派閥争いに巻き込まれるのは火を見るより明らかだ。


何より、背後から「ギチィ……」とドレスの裾を指が引きちぎらんばかりに握りしめ、絶対零度の黒い殺気を放ち始めているクリスの存在がある。リーファスは優雅に、しかし一切の未練も隙も与えない完璧な所作で一礼した。


「殿下のお心遣い、身に余る光栄です。ですが、私は今日騎士爵を賜ったばかりの、しがない流れ者の探索者に過ぎません。雲上人であらせられる殿下の隣に立つには、あまりにも身分が違いすぎます。どうか、分をわきまえることをお許しください」


完璧な礼儀作法。完璧な笑顔。そして、一切の踏み込みを許さない大人の対応。

 完全に、体よく、そして美しく断られた形となったエリザベスは、一瞬ぽかんとした後、生まれて初めての経験に激しく頬を緋色に染めた。


「……っ、そうですか。それは、大変残念ですわ」


踵を返し、足早にその場を立ち去るエリザベス。

(ふぅ、なんとか躱せたな。これ以上目立つのはご免だ)


安堵の息をつくリーファス。背後のクリスは、先ほどの般若のような殺気が嘘のように、蕩けるような笑顔に変わってリーファスの腕にギュッと身体を押し付けてきた。それを見てディードリットがくすくすと肩を揺らしている。

 だが――リーファスは少々、恋に落ちた乙女の狂気というものを侮っていた。


◇◇◇◇◇


大広間のバルコニーへ出たエリザベスは、悔しそうに高級な扇子をミシミシと握りしめ、傍らに控えていた外務卿を鋭い目で見つめた。


「……権力や王族の威光に一切媚びない、あの気高い態度。そしてあの上級魔族を塵にした強さと美貌。素晴らしいわ! 誰もが私に傅く中で、あの冷徹なまでの大人の余裕……! 簡単に靡かないからこそ、余計に手に入れたくなりました!」

「で、殿下……? もしかして、お怒りで……?」


「怒るわけがないでしょう! 外務卿! 早急に彼の身辺を洗いなさい! 身分差が問題だというのなら、彼が元々どこの貴族の出なのか、なぜ流れ者になったのか……そして、どうすればわたくしと婚姻できる身分にまで引き上げられるか、国権のあらゆる手段を講じて調査するのです!」

「は、ははっ! 即刻、調べさせます!」


夜風に金髪を揺らし、獲物を見つけた肉食獣のような瞳で大広間のリーファスを見つめるエリザベス王女。

 異界の陰陽師の平穏な探索者ライフは、本人のあずかり知らぬところで、まだまだ遠そうであった。

本日もお読みいただきありがとうございます!

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