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規格外の主従とパリ支部の悲鳴(クリス視点)

5月27日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

重厚な石造りの巨大な建造物――探索者ギルド・パリ支部の訓練場。

 その頑丈な石壁には、今や深々とひび割れた巨大なクレーターが穿たれており、その中心で最初の試験官が白目を剥いてピクピクと滑稽に痙攣けいれんしていた。


先ほど、私の大切なリーファス様を「魔力ゼロの無能」と嘲笑った、あの愚鈍極まる男。彼は東方の英霊『李書文』の武術とやらをその身に顕現させたリーファス様の、たった一撃の掌底によって、無残な壁のオブジェと化したのだ。手加減をしていただいたというのに、おそらく三日は目を覚まさないだろう。


「……少々、やりすぎたかな。どうやらこの時代の人間は、前世の悪霊どもより随分ともろいらしい」


困ったように眉をひそめ、吐息をつくリーファス様の横顔。ああ、なんと神々しく、この上なく美しいのだろう。

「リーファス様は何も悪くありません。あのような無礼な輩、自業自得にございます」

 私が一歩前に出て微笑みかけると、リーファス様は「ありがとう、クリス」と、それは優しく微笑み返してくださった。私の心臓がトドメを刺されそうになる。


そこへ、涙目で完全に血相を変えた受付嬢が、バタバタと慌ただしく訓練場へ駆け込んできた。その後ろには、緊急事態として急遽呼ばれたらしい、恰幅かっぷくの良い別の試験官が、酷く引きつった顔をして続いている。


「お、お待たせいたしました……! 最初の試験官が……その、突然の重い急病(?)で動けなくなってしまったため、代わりの試験官をお連れしましたっ! リーファス様の試験は既に基準を遥かに超えてクリアしておりますので、次はそちらの……ええと、お連れの彼女の番ですね」


「チッ……一体何事かと思えば、ただの身の程知らずの子供共か」


新たな試験官は、壁に哀れにめり込んでいる同僚を一瞥して忌々しそうに舌打ちすると、私とリーファス様を交互に見比べ、あからさまな侮蔑の眼差しを隠そうともしなかった。


「おいおい、ギルドも焼きが回ったか。本気で言っているのか? その忌まわしい黒髪の娘が魔法を使うだと? しかも、魔力ゼロのゴミ屑貴族のお供として、だと? 探索者の試験をなんだと思っているんだ」


――ピキリ。

私の心の奥底で、何かが完全に、冷たく凍りつく音がした。


私が「闇属性」であり、「呪われた黒髪」であるゆえに蔑まれることなど、天地がひっくり返ってもどうでもいい。ちりの羽音ほども興味はない。

だが――この世界で唯一絶対の我が主であり、私の世界のすべてであるリーファス様を、再びその汚い口で「魔力ゼロのゴミ屑」と侮辱した。

その罪、万死を以てしてもあがなえると思うな。


「……リーファス様。よろしいでしょうか?」


努めて平坦に、感情を殺した声で尋ねる私。リーファス様はすべてを見透かしたように、困ったような、しかし酷く優しい声音で頷いてくださった。


「ああ、構わないよ。だが、殺してはいけないよ、クリス。私たちはこれからここで世話になるんだからね」


「――御意」


その温かいお言葉(許可)をいただいた瞬間、私は纏う空気を完全に一変させた。私の細い身体から、本物の殺気が泥のように噴出する。


「私の実技試験、始めます。標的は、あのアイアンゴーレムですね」


私が冷たく言い放つと同時に、視線の先、数十メートル先に配置されていた強固な鉄ゴーレムの足元へ向かって、私の影が生き物のように獰猛に、かつ瞬時に滑り込んで「繋がった」。

 空間の繋がり目から、物質の結合を無視する漆黒の影の刃が、一斉に噴出する。


私の闇魔法は、視界の届く範囲の空間を切り裂く、絶対不可避の断頭台。


「なっ……闇属性だと!? しかも、この凄まじい規模は――」


愚鈍な試験官が驚愕の悲鳴を上げる間さえ与えなかった。

 重装甲を誇るはずの鉄ゴーレムは、一切の抵抗も、金属音を立てることすら許されず、まるで柔らかなチーズのように綺麗にサイコロ状に細切れにされ、ズササササ……と静かに鉄の立方体の山となって崩れ落ちた。


訓練場が、今度こそ水を打ったような完全な静寂に包まれる。


「……こんなもので、よろしいですか? 試験官殿」


恐怖のあまり腰を抜かし、床にへたり込んでガタガタと震えている恰幅の良い男を、私は凍てつくような眼差しで見下ろした。


「次、リーファス様を少しでもその汚い口で侮辱すれば、あなたの足元の影がどうなるか……私は保証しませんよ」


「ヒッ……イィィッ……!!」


試験官が涙目で情けない悲鳴を上げるのを確認し、私の仕事は終わった。私はすぐさまリーファス様の元へと駆け戻る。そして、先ほどとは正反対の、心からの可憐な笑みを浮かべて主を見上げた。


「終わりました、リーファス様!」

「見事な空間制覇だったね、クリス。実に素晴らしい」


リーファス様に頭を優しく撫でていただき、私の心はこれ以上ない至福の光で満たされた。ああ、生きていて良かった。


しかし、度重なる異常事態の轟音と殺気(主に私のもの)を感知したのだろう。ついに訓練場の奥にある重い扉が跳ね上がり、パリ支部長と、数名のベテラン探索者たちが血相を変えて飛び出してきた。


「ま、待て! 頼むから待ってくれ! 君たちは一体何者なんだ……!?」


支部長は、壁にめり込んだ最初の試験官と、私がサイコロステーキのようにした鉄ゴーレムの残骸、そして――リーファス様が先ほど、李書文の降臨を解いたあとに(ついでとばかりに)和泉守兼重の素振りの風圧だけで真っ二つに叩き割った、対魔法用の【ミスリル合金の的】を呆然と見渡した。

 支部長は額に滝のような冷汗を流しながら、胃のあたりをギュッと押さえ、絞り出すように口を開いた。


「……通常、探索者のランクは一番下のFランクからのスタートだ。だが、君たちのようなデタラメをそんな底辺に置けば、ギルドの見る目が世界中から疑われる。何より、そこらの依頼を受けさせたら周囲の被害が拡大しそうだ」


支部長は大きく天を仰ぎ、頭を抱え込むようにして、私たちを真っ直ぐに見据えた。


「世界探索者ギルドにおいて、頂点たる『Sランク』は世界に僅か7人しか存在しない。それに次ぐA、Bランクも一騎当千の化け物揃いだ。……これ以上のギルド崩壊を防ぐためだ、特例中の特例を適用する。君たち二人を、本日から『Cランク』としてギルドに迎え入れよう。探索者のランクは上からS、A、B、C、D、E、Fの7段階……。お前たちは一気に3段階の飛び級だ。だから……頼むから、街中ではその力を絶対に振るわないでくれよ……?」


こうして、私たちは無事に探索者としての第一歩を踏み出した。

 偉大なるリーファス様が隣にいれば、どんな困難も敵ではない。

 私はただ、この漆黒の影で、リーファス様の歩む偉大なる道を切り拓き、その背中を命に代えても守り抜くだけだ。


挿絵(By みてみん)

本日もお読みいただきありがとうございます!

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