表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/107

古兵(ふるつわもの)の凱旋

5月26日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。

キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!

数日後。私たちはフランス北部の中心都市にある「探索者ギルド・パリ支部」を訪れた。

 この世界における『探索者ギルド』とは、各地に出現する「ダンジョン」と呼ばれる、濃密な魔素の発生地域を調査・攻略する者たちの巨大な互助会だ。本部はイタリアのバチカン市国にあり、世界各地に網の目のように支部を展開している。

 ダンジョンから産出される魔鉱石や魔物の素材は、今や国家の命運を左右する重要資源だ。そのため、各国はギルドに対して強力な特権や優遇処置を与えていた。必然、そこに集まる「探索者シーカー」たちもまた、国家の法に縛られぬ実力至主義の荒くれ者ばかりとなる。


案の定、ギルドの重厚な扉を開けた先にあるロビーは、血気盛んな強者どもの熱気と、酒と汗の臭いで満ちていた。

 真新しい衣服に身を包んだ私たちが入っていくと、たむろしていた男たちの好奇と侮蔑の視線が、一斉に突き刺さる。


「おいおい見ろよ、お貴族様のお坊ちゃんが迷い込んできたぜ?」

「隣の姉ちゃんは極上の上玉だが……チッ、不吉な黒髪じゃねえか。忌み子かよ」


背後でクリスが小さく身構えるのが分かった。

 私は気にする風もなく悠然と歩を進め、受付カウンターへと向かった。

 前世を含めた70年の人生だ。これより遥かに質の悪い、ドス黒い殺意の視線などいくらでも浴びてきた。小悪党どもの値踏みなど、私にとってはそよ風のようなものである。


「探索者の登録を頼む」


私が淡々と告げると、受付の若い女性職員は一瞬呆気に取られたが、すぐに営業スマイルを浮かべて対応した。


「あ、はい。では、こちらの魔力測定の水晶に手をかざしてください……って、あれ?」


水晶は冷たく澄んだまま、ピクリとも光らない。受付嬢の顔が困惑に染まる。


「あの、魔力なし……ですか? 悪い冗談はやめてください。ダンジョンに潜るなど、死にに行くようなものですよ」

「魔力がなくとも、魔は祓える。……能書きはいい、実技試験をしてくれ」


私が感情の起伏を殺して言い放つと、受付の奥にある頑丈な鉄扉が開き、大柄な鎧姿の男が地響きを立てて現れた。


「ガハハハ! 面白いことを言う坊主だ! 俺が試験官をやってやるよ。その綺麗な顔を涙と鼻水で歪ませて、ママのところへ送り返してやる!」


◇◇◇◇◇


ギルド裏手の、頑丈な石畳で囲まれた訓練場。

 ロビーにいた荒くれ者たちも、「クソ生意気なお坊ちゃんの処刑劇」を見物しようと、ニヤニヤしながら壁際に集まってきている。

 試験官の男は、Cランク相当の実力を持つという『重戦士』だった。彼が構えた大剣に火属性の魔力が纏い、陽炎のような熱気と威圧感が放たれる。

 だが、前世で武の極致を見てきた私の目には、その構えは隙だらけの素人同然に映った。


「……リーファス様。私がやりましょうか? 五秒で済みます」


私の影に寄り添うクリスが、冷徹な暗殺者の目を光らせて囁く。


「いや、下がっていなさい、クリス。本物の探索者の実力とやらを、この身で測っておきたい……。」


私は腰の【和泉守兼重】を抜くことなく、完全な素手――手ぶらで前に出た。

 相手は人間だ。妖魔を斬るための刀を使うのは無粋に過ぎる。それに、この新しい肉体の馴染み具合を確認するには丁度いい。


(――英霊降臨、部分接続)

(――対象:【李書文りしょぶん】)


脳内で引き金を引く。

 近代中国武術の至宝。「二の打いらず、一つあれば事足りる」と恐れられた神槍にして拳の達人。その苛烈なる魂と呼吸が、私の精神、そして肉体と完璧に重なり合う。

『英霊降臨』を行っている最中は、肉体に降臨させた英霊の気性が色濃く表に出る。

 私の五体に、李書文の、あの容赦のない冷徹な闘争本能が満ちていく。


「武器もなしか! どこまでナメやがってぇぇぇ!!」


試験官の男が、激昂と共に猛然と踏み込んできた。

 火炎を纏った大剣が、空気を引き裂いて振り下ろされる。大振りだ。若い。動きも、思考も、魔力の流し方も、すべてが雑で遅すぎる。

 私はあくびが出るのを噛み殺し、逆に、自ら一歩を踏み出した。


――ガァン!!!


私の足が石畳を捉えた瞬間、爆発的な衝撃音が響く。強烈な震脚によって、訓練場の分厚い石畳がクモの巣状に激しくひび割れ、破片が弾け飛んだ。

 その推進力のまま、スッ、と風が消えるように斬撃のわずかな隙間をすり抜ける。男の懐――すなわち、一撃必殺の「死の圏内」へ、まるで散歩でもするように音もなく侵入した。


「なっ……!?」


捉えたはずの標姿を見失い、驚愕に目を見開く男。

 私はその無防備な腹部へ、自身の掌底をそっと添えた。力任せに殴りつけるのではない。肉体の門を開き、練り上げた勁(気)を一気に叩き込む。


「……【猛虎硬爬山もうここうはざん】」


――ズ、ドォォォォン!!!


訓練場全体を揺るがすような、腹の底に響く鈍い衝撃音が炸裂した。

 次の瞬間、大柄な重戦士の巨体が、まるで大砲から射出された砲弾のように軽々と真後ろへ吹き飛んだ。十メートル以上後方の石壁に背中から激しく激突し、男は受け身も取れずに白目を剥いてその場に崩れ落ちる。完全に沈黙。ピクリとも動かない。

 鎧を透過し、内部の五臓六腑を直接破壊する「浸透勁しんとうけい」。

 これでもかなり手加減をしてやったが、内臓の震えが収まるまで最低でも三日は起き上がれないだろう。


「「「「「――――」」」」」


静まり返っていた。

 さっきまでヤジを飛ばしていた荒くれ者たちは、まるで喉を締め上げられた鶏のように顔を青ざめさせ、言葉を失っている。

「ひっ……」と、誰かの短い悲鳴が静寂に響いた。


「……ふむ。少し効きすぎたか。だがこの身体、思ったよりもよく馴染むな」


私は気性の激しい拳法の感覚を頭の隅へと収めると、パンパンと服の埃を払い、口を半分開けたまま硬直している受付嬢へと向き直った。彼女の手から、受付用の書類がパラパラと地面に落ちる。


「受付嬢、試験はこれで合格かね? それとも……もう一人、向こうの壁まで飛ばしてみるか?」


私の碧い視線がロビーの男たちをなぞると、荒くれ者たちが一斉に一歩後退した。


「あ、あ……は、はいぃっ! ご、合格です! 満場一致で合格ですっ!!」


受付嬢が裏返った声で叫び、何度も激しく首を縦に振る。


肉体は15歳の少年。精神は70歳の老境。

 魔力ゼロの「陰陽師」と、世界から忌み嫌われる「闇魔術師」の少女。

 さて、神の膝元たるこの地での第二の人生……いや、余生というには、少々刺激が強すぎる冒険の始まりだ。


本日もお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部の『☆☆☆☆☆』から応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ