最終話:創世の光と永遠の絆
6月12日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
南極での未曾有の決戦から数ヶ月。魔神の脅威が完全に去り、世界にはようやく平穏な時間が流れ始めていた。しかし、その裏で世界を救った稀代の陰陽術師への待遇は、歴史上かつてないほど破格なものとなっていた。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂。荘厳なパイプオルガンの重厚な音が響き渡る中、リーファスは教皇の前に立ち、気高くその碧眼を見据えていた。
かつてこの場所で子爵を叙爵されたあの日から、本当に多くの戦いを駆け抜けてきた。今、教皇の瞳にあるのは、幾多の絶望的な死線を越え、そして今また世界を崩壊から救い上げてくれた、若きSSランク探索者への、純粋なる畏敬と心からの深い感謝の念だけだった。
「リーファス・カモ。貴公の功績はもはや一探索者の枠を超え、人類の守護者たるに相応しい。よって、貴公を侯爵に叙し、聖下を支える十二枢機卿の一人として列に加えるものとする」
授けられたのは、目も眩むような金飾の施された枢機卿の法衣と、侯爵家を象徴する美しい紋章。そして、背後に並ぶ仲間たちにも、世界平和の象徴たる最高位勲章と、一生を遊んで暮らしても使い切れないほどの莫大な報奨金が授与された。
「――身に余る光栄です。この栄誉に恥じぬよう、これからも世界の平穏のために力を尽くしましょう」
リーファスは気高く静かに頭を下げた。かつて一介の陰陽師として魔を祓うことに身を投じた少年は、今やこの世界において名実ともに世界の頂点に立つ一人となった。
◇◇◇◇◇
バチカンから寄贈された湖畔の広大な邸宅。その静かな広間で、一行は身内だけのささやかな祝杯を挙げていた。
「ねえリーファス、見てよ! このドレス、ボクに似合ってるかな? 枢機卿の奥さんになるなら、これくらい華やかじゃないとね!」
西施がひらひらとした最高級のシルクドレスの裾を翻しながら、可憐な笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
「……奥さん? 西施、それはどういう……」
困惑するリーファスに、隣で彼の手を最初からしっかりと握り締めていたクリスが、白い頬を林檎のように赤らめながらも、毅然とした瞳でまっすぐに告げた。
「リーファス様。私はあの塔の頂きで、あなたへの生涯の愛を誓いました。……ですが、あなたが手に入れた侯爵や枢機卿という地位を考えれば、私一人があなたを独占することは難しいことも、ちゃんと理解しています」
「そうですわ! 貴族なら側室を置くのは当たり前のことですもの。わたくしも、リーファス様を支える聖光として、生涯お傍に仕えると決めていますわ!」
エリーがいつになく情熱的に、けれど心からの晴れやかな笑顔で宣言する。そこへ、ワイングラスを優雅に傾けていたディートリットが、くすりと妖艶に笑いながら加わった。
「エルフの寿命はとても長いのよ。一人の男を数百年も見守り続けるのは少し退屈だと思っていたけれど……あなたほど私を退屈させない男なら、一度くらい結婚してあげてもいいわよ。この長い一生の、ほんの一瞬くらいならね」
「……みんな……」
リーファスは気恥ずかしそうに碧眼を揺らし、苦笑した。クリスとの深い心の絆はもちろん、共に地獄のような死線を越えて自分を信じてくれた仲間たちは、すでに彼の人生において何があっても切り離せない、愛すべき大切な家族となっていた。
◇◇◇◇◇
宴が静かに更けていく中、リーファスは一人バルコニーに出て、どこまでも続く美しい夜空を見上げた。
南極での決戦で、一時的に魔神の現界は完全に阻止した。しかし、一度開かれた異界からの侵食の楔は、今この瞬間も、世界のどこかで静かに、確実に蠢いていることを彼は肌で感じ取っている。
かすかな衣擦れの音と共に、クリスがその身を隣へと寄せた。続いて西施、エリー、ディートリットの三人もの、それぞれの愛おしそうな距離感で彼の傍らに静かに佇む。
「リーファス様……何を考えていらっしゃるのですか?」
「いや……この手に入れた穏やかな平穏を、何があっても絶対に守り抜こうと思ってね。魔神が何度来ようと、異界がどれほど浸食してこようと――私のこの霊力と、君たちの絆があれば、私たちはどんな未来だって切り拓ける」
リーファスは自らの身の内に滾る、神をも超える圧倒的な霊気の脈動を静かに確かめた。英霊達と共に戦い、世界の危機を救ったという確かな記憶と経験は、今もリーファスの魂に完全な強さとして刻まれている。
「ボクも全力で手伝うよ! リーファスの行くところなら、世界の果てだってどこへでも付いていくからね」
「わたくしの神聖な結界は、もう誰一人として、大切な人たちを傷つけさせませんわ!」
「影の底から、あなたの背中を永遠に守り続けます……愛しています、リーファス様」
三者三様の、偽りのない真実の誓い。端正な顔立ちのディートリットがその愛剣の柄に手をかけ、不敵に美しく微笑んだ。
「『絶剣』の名にかけて。この世界の美しさを、私たちの愛する場所を、誰にも汚させはしないわ」
リーファスは愛する女性たちと目を合わせてから、夜明け前の静かな空へとまっすぐに視線を向けた。
世界を救う物語の、最初の第一幕はここで美しく幕を閉じる。しかし、英雄侯爵にして枢機卿となったリーファスと、彼を熱烈に愛する最強のヒロインたちの、異界侵食を阻止するための新たなる冒険は、今この瞬間から始まったるのだった。
——完。そして新たな旅路へ。
本作『現代陰陽師異世界で魔を祓う』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
現代の陰陽師が異世界の理に挑む物語、リーファスとクリスたちの旅路をここまで描き切ることができたのは、ひとえに読者の皆様の応援があったからです。最終決戦での連合艦隊召喚まで、私自身も彼らと共に駆け抜けた、非常に密度の濃い執筆期間でした。
さて、本作の完結に合わせまして、次回作の執筆しております。
実は、私が14年前に執筆し、公募展で一次選考を通過した一作があります。当時の私にとって原点とも言えるその作品を、今の筆力と経験で一から再構築し、完全リメイクとして世に送り出すことに決めました。
新作のタイトルは――
『リーンカーネーション・サーガ:極点物理の支配者 〜亡国の王子はルールスペースで世界の理を再構築する〜』です。
魔法至上主義の世界で「無色」と蔑まれた第四王子が、前世の物理知識と、物理法則を操る固有能力「支配空間」を武器に、世界を支配せんとする帝国へと挑む物語です。
「魔法 vs 現代物理学」
さらには「異世界に迷い込んだB-29爆撃機と核兵器」という、一筋縄ではいかない強敵たちとの戦いが幕を開けます。
https://ncode.syosetu.com/n1632md/
14年の時を経て、より深く、よりダイナミックに生まれ変わる「物理無双」の戦記を、ぜひ本作の読者の皆様にも見届けていただければ幸いです。
この物語を愛してくださった皆様と、また新しい異世界の空の下でお会いできることを心より楽しみにしています。
本当に、ありがとうございました!




