極点の決戦と神域の龍脈
6月12日、大幅にブラッシュアップ(加筆・修正)いたしました。
キャラクターの心情や設定をより深く掘り下げていますので、初見の方も、再読の方も楽しんでいただければ幸いです!
南極の凍てつく空を完全に覆い尽くす、分厚く遮蔽された漆黒の暗雲。
永遠の白銀が続く氷の平原にそびえ立つ、あの禍々しい漆黒の塔の前で、かつて人類最強の守護者として並び立っていたはずのSランク探索者たちが、今や二手に分かれて残酷に対峙していた。
「ハサン! お前、一体なにとち狂っているんだ! レオナルドのジジイに洗脳でもされているのか!?」
『獣王』ガルーダが、かつて幾多の死線を共に潜り抜けた戦友である『影の王』ハサンに向けて、地響きのような咆哮を浴びせる。しかし、色濃い影の中から静かに姿を現したハサンの瞳には、狂気も濁りも一切存在しなかった。
「……言葉は不要だ、ガルーダ。私は一族の長。魔神が支配することになるこの新たな世界で、我が民を確実に生き残らせる道を選択したに過ぎない」
その冷徹な宣告を合図にするかのように、南極の大地が激しく鳴動した。
分厚い万年床の氷を内側から豪快に叩き割り、『機巧卿』レオナルドが操る百機もの巨大な魔導ゴーレムが、その姿を現す。古代の魔導とこの世界の最高峰の魔法科学が融合した重厚な合金の腕が、リーファスたちへと一斉にかざされた。
◇◇◇◇◇
「みんな、一気に来ちゃうよ! しっかり身構えて!」
西施が髪をなびかせ、鋭い声を上げながら俊敏に身構えた。
次の瞬間、魔導ゴーレムの無機質な銃口から、大気を引き裂く超高速の魔導マシンガンの弾幕が放たれる。
リーファスは息を呑むような速度で懐から五十枚の呪札を取り出した。だが、押し寄せる敵の数に対して、これでは圧倒的に足りない。
「……なら、これで数を倍にするだけだよ」
閃光が一閃。リーファスの愛刀が空中で舞う呪札を、寸分の狂いもなくすべて正確に真っ二つへと切断していく。
「急々如律令――顕現せよ!」
百枚に分かたれた呪札が青白い業火を吹き、極寒の地にリーファス自身の姿を模した百体の簡易式神が、一斉に降り立った。同時に、リーファス本体は英霊・女神アテナの神聖な霊力を極限まで解放し、あらゆる邪悪を撥ね退ける巨大な『イージスの盾』を、最前線へと爆発的に展開する。
ガガガガガガガッ――!!
凄まじい鉄の掃射がイージスの盾を激しく叩きつける。その一瞬の隙を突き、ジークフリートの放つ巨剣の斬撃や、ガルーダの放つ剛拳、そしてエリーとディードリットの織り成す高火力の魔法が、一斉にゴーレムの群れへと叩き込まれた。
しかし、激しい火花こそ派手に散れど、レオナルドの英知の結晶であるゴーレムたちは、一歩も退くことなく進軍を続ける。
「無駄だよ、諸君。私の計算に一切の狂いはない。あらゆる物理攻撃、および魔法攻撃のデータはすべて事前に入力済みだ……貴様らの足掻きは、すべて私の予測の範囲内なのだよ!」
レオナルドの冷徹な高笑いが、極寒の吹雪に混じって響き渡る。だが、その言葉を聞いたリーファスの琥珀色の瞳が、冷徹に、そして鋭く光った。
「計算済み、か。なら、君のその『外側』からの計算が、一切通用しない一撃を食らわせてあげるよ」
リーファスは展開した百体の簡易式神へと、同時に鋭い精神の念を送る。
「――英霊憑依:李書文!」
百体の分身が一斉にその足腰を深く落とし、独特の構えへと姿を変えた。その拳には、大気を歪めるほどの螺旋の勁力が限界まで収束していく。
「――二の打ち要らず。剛八極拳!」
分身たちの凄まじい震脚が、南極の氷原を粉々に爆砕する。
放たれた拳の衝撃は、強固な外殻装甲を文字通りすり抜け、機巧の「内部機構」へと直接的に浸透した。レオナルドが誇る無敵の複合装甲が、計算不能な内部からの破壊衝動によって次々と歪み、爆散していく。
百機のゴーレムは、その完璧な内部崩壊によって次々と機能を完全に停止し、ただの鉄屑の山へと変わり果てた。
◇◇◇◇◇
「バカな……外殻を無傷に保ったまま、内部の精密機構だけを直接破壊したというのか!?」
レオナルドが初めてその鉄の表情を驚愕に目を見開いた。だが、その勝利の瞬間――。
突如として、南極の空がまるで墨を激しく流したかのように悍ましい黒色へと染まり、空間そのものに不気味な血のような亀裂が走り始めた。
ギィィィィィッ――!
鼓膜を直接突き刺すような耳鳴りのごとき鳴き声と共に、その空間の亀裂から、夥しい数の異界の悪魔たちが、津波のように溢れ出してくる。その中には、翼を持つものも多数存在した。
「儀式が、さらに一段階進んでしまったのね……。世界が、本格的に裏返ろうとしているわ」
ディードリットが額の汗を拭いながら、愛剣を強く握り直した。空を完全に埋め尽くしていく魔軍の圧倒的な絶対数を前に、エリーの美しい顔からも流石に血の気が引いていく。
「……絶望するにはまだ早い。ここは、この星で最大の龍脈が眠る場所なんだから」
リーファスは愛刀を、凍てつく氷の大地へと深く、力強く突き立てた。
「その大いなる力、一時的に借り受けるよ――! 『魔霊反転』!」
南極の地下深くに、世界の血潮として眠っていた膨大な地球のエネルギーが、リーファスの刀の身を通じて一気に地上へと吸い上げられ、神聖な黄金の輝きとなって爆発的に噴き出した。
「――英霊降臨:ジャンヌ・ダルク!」
救国の聖女が掲げる聖旗が、南極の全龍脈から吸い上げた天文学的な霊圧を一本の『統制回線』へと束ねていく。
――『英霊の座』への多重アクセス。
かつてバチカンで試み、己の魂を焼き切らんとした武蔵とアーサー王を降ろした『二重降臨』のシステム。それを、南極の無限の龍脈と聖女の統率力を触媒にすることで、文字通り「百倍」へと拡張する前代未聞の『極大陰陽術』。
並の術者であれば、同時に二人以上の英霊の自我を感知した瞬間に脳髄が破裂する。だが、リーファスという唯一無二の『器』が全英霊のマスターサーバーとなり、百体の簡易式神へ一柱ずつ、神速の並列演算で英霊の概念を割り当て(ディストリビュート)、固定していく。
降ろすのは、人間の歴史において一時代を築き上げた『最強の人間(英霊)』たち。古今東西の無双の武人、一騎当千の騎士、戦局を覆す稀代の軍師、そして前世の記憶に眠る近代最高峰の鋼鉄の戦意まで――。
神格を含まぬ人間の英霊とはいえ、百人同時の並列維持は魂の限界を遥かに超越した負荷を伴う。リーファスの碧眼から血の涙が滲むが、その不敵な笑みが消えることはない。
リーファスの背後に、如何なる絶望をも退ける聖なる旗を掲げた、救国の聖女の幻影が美しく重なる。
「来なさい、光の軍勢! 『全英霊・光人憑依』――!!」
◇◇◇◇◇
百体の簡易式神が、地球の龍脈という無限のエネルギーを得て、眩いばかりの「光人」へとその姿を劇的に変貌させた。そして次の瞬間、その一体一体の光の肉体に、人類の歴史にその名を刻んだ古今東西の偉人、英雄たちの魂が次々と神速で憑依し、完全なる実体化を果たしていく。
光り輝く伝説の騎士団が氷の大地を埋め尽くし、さらには、空を覆い尽くす魔軍の圧倒的な制空権に対抗するかのように、空間の壁を豪快に割って、あの「大日本帝国海軍・連合艦隊」の圧倒的な威容が空中へと出現した。
伝説の戦艦『大和』を筆頭とした、鋼鉄の空中要塞の城群が極寒の空へと悠然と浮遊し、その巨大な主砲の群れが一斉に、上空の悪魔たちを完全にロックオンしていく。
「一族のため、世界の未来のため。……どちらの選択が本当に正しいのか、この歴史の輝きを以て、今ここで問い直してあげるよ」
リーファスは掲げた聖旗をさらに強く握り直し、天を突くように高く掲げた。
「全軍、突撃! ――押し寄せる絶望を、この人間の光で塗り潰すんだ!」
氷絶の南極点が、人類の紡いだ神話と歴史が交錯する、かつてない究極の戦場へと姿を変える。
囚われのクリスを奪還するまで――あと、わずか。
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