古兵(ふるつわもの)の凱旋
数日後。私たちはフランス北部の「探索者ギルド・パリ支部」を訪れた。
血気盛んな荒くれ者たちがたむろするロビー。
私たちが入ると、好奇と侮蔑の視線が一斉に突き刺さる。
「おい見ろよ、お貴族様のお坊ちゃんか?」
「隣の姉ちゃんは上玉だが……チッ、不吉な黒髪だ」
クリスが身構える。
私は悠然と歩を進め、受付カウンターへ向かった。
七十年の人生で、もっと質の悪い「視線」はいくらでも浴びてきた。
これくらいはそよ風だ。
「探索者の登録を頼む」
「はい、では水晶に手を……あれ?」
受付嬢が困惑する。水晶は沈黙したままだ。
「魔力なし、ですか? 悪い冗談はやめてください。死にに行くようなものですよ」
「魔力がなくとも、魔は祓える。……実技試験をしてくれ」
私が淡々と告げると、奥から大柄な鎧男が出てきた。
「面白い。俺が試験官だ、坊主。その綺麗な顔を歪ませて、ママの所に送り返してやるよ!」
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ギルド裏手の訓練場。
試験官の男は、Cランク相当の「重戦士」。
剣に火属性の魔力を纏わせ、威圧感を放っている。
だが、私には隙だらけに見えた。
「……リーファス様。私がやりましょうか? 五秒で済みます」
「いや、下がっていなさいクリス。年寄りの冷や水といこう」
私は【和泉守兼重】を抜くことなく、手ぶらで前に出た。
相手は人間。刀を使うのは無粋だ。
それに、この身体のナマり具合を確認するには丁度いい。
――英霊降臨、部分接続。 ――対象:【李書文】
近代中国武術の至宝。
「二の打いらず」と謳われた神槍。
達人の呼吸が、私の魂と重なる。
「武器もなしか! ナメやがってぇ!」
男が踏み込む。
大振りの斬撃。若い。動きも、思考も、魔力の使い方も。
私はあくびが出るのを噛み殺し、半歩踏み出した。
スッ、と風のように斬撃の内側へ。
相手の懐――死の圏内へ、散歩でもするように侵入する。
「なっ!?」
驚愕に目を見開く男の腹部に、掌底をそっと添える。
力任せに殴るのではない。
門を開き、気を流し込む。
「……【猛虎硬爬山】」
ドォン!!
鈍い音が響き、男の巨体が軽々と吹き飛んだ。
十メートル後方の壁に激突し、男は白目を剥いて沈黙する。
鎧の上から内部を破壊する「浸透勁」。
手加減はしたが、三日は起き上がれないだろう。
「……ふむ。少し効きすぎたか。この身体、思ったより馴染むな」
私はパンパンと服の埃を払い、唖然とする受付嬢に向き直った。
「試験は合格かね? それとも、もう一人飛ばすか?」
「あ、あ……は、はい! ご、合格です!」
肉体は一五歳。精神は七十歳。
魔力ゼロの「陰陽師」と、忌み嫌われる「闇魔術師」。
さて、第二の人生……いや、余生というには刺激的な冒険の始まりだ。
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