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修羅場令嬢イン・ザ・トロフィーカップ  作者: 枝久


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2/2

2.修羅場令嬢

 ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 鍛錬場にて若き青年達が並び、木刀で素振りをする騎士科の日課である光景……なのだが……私の目にはカタカタと揺れるガイコツ集団に見える。

 背の高さや肩幅とかで個人差は一応あるけれど、同じ制服を身に(まと)われたら、名前と一致させるのが至難の業だ。

 まぁ、どのみち各人の名前を覚える気はない。叔父との約束は、たった一ヶ月間だけだもの。


 臨時の保健医助手として、彼らのすぐ近くで待機する私は、ガイコツ達をぼんやり眺めながら、ふうっと溜息を吐き出した。


「どうした、メリル? なんか悩み事か?」

「そうねぇ……叔父様にここへ連れて来られなければ生まれなかった悩みですわね」

「はははっ!」


 父の弟である叔父に向け嫌味を返すが、彼はまるで意に介さない。それどころか、私の言葉を楽しそうに笑い飛ばし、頭をガシガシと撫でられた。


 叔父は、この貴族学院(アカデミー)の保健医だ。私のことを幼い頃からよく知っている。

 もちろん、この呪眼(じゅがん)のことも……。

 

「笑いごとじゃありませんよ? 死に物狂いで、特進科を一年で卒業したのに……二度と来るつもりのなかった学び舎に即、舞い戻るとは……」

「俺としては手が足りなかったから助かったよ。()()()()()()()()()()()()……まっ、とりあえず一ヶ月頼んだよ、メリル」


 父よりも十歳下の彼は、いつも飄々(ひょうひょう)としており、腹の内が見えない御人だ。骨はバッチリ見えているのに。


 まぁ、彼に限ったことじゃない。人の表情が見えないせいか、相手の心を読むのが私は本当に苦手だ。他者が何を考えているのか、まるでわからない。



 この王立の貴族学院には、貴族科の他に特進科と騎士科がある。三年間のカリキュラムが基本だが、特例として、優秀な成績を収めれば特進科は一年で卒業可能だ。


 一人っ子の私は、サーベジルド領の次期女伯爵。この春の卒業と同時に領地へ帰った……のだが、そんな私を追いかけるように、王都から叔父が頼み事を引っ提げてやってきた。


 『助手が怪我をしたので、メリルに一ヶ月間だけ騎士科の臨時助手をしてほしい』と。


 飛び級での卒業だったから、本来の爵位引継ぎまでまだ二年の時間的猶予がある私。断られないと踏んでやって来たのだろうけど……わざわざ私を指名するなんて、絶対何か裏があるはず。怪しい。怪し過ぎる。それとも、警戒しすぎ?


 できることなら人と、なるっっべく関わりたくない。いつもだったら即、断るのだが……卒業式の日に見た『あの御方』のことが頭から離れなかった私は叔父の頼みを渋々引き受けたのだった。


 もしかしたら、また『あの御方』に会えるかもしれない……そんな淡い期待を胸に抱いて……。





「ん?」

「あぁ、また今日もか。まったく……」


 叔父との会話に気を取られていた私の視界端に、()()()()()が映り込む。


 ちらっ……ちらっ……ちらっ……


 練習中のガイコツ騎士達の集中力が、非常に散漫だ。ゲンナリするわ。お願いだからこっち向かないで欲しい。ドクロに見つめられても、瞳の焦点がよくわからないし、ホラーな見た目はシンプルに気分がいいもんじゃない。


 騎士科の級長さん、さっさと来て、いつも通りお仲間達をビシッと叱り飛ばしてくれないかしら? 


 もちろん、彼らの気がそぞろな原因は私にある。自惚(うぬぼ)れではない。自分で言うのもなんだが……私は彼らに異常にモテるのだ。

 でも、それは私の見た目が理由なのではない。()()()()()()()()()()()()


 婚約者不在の裕福な伯爵令嬢なんて、家督を継げない貴族家の次男、三男、四男辺りの彼らからしたら超優良物件。


 学生時代、それはもう本当に酷かった。私をどうにか射止めんと、行く先々で待ち伏せされ、足を止めればわらわらと群がられ、ラブレターを無理矢理に押し付けられた。入学して間も無く、誘拐未遂にもあったっけ。実家の方にも、求婚書状が毎日ドサドサッと山のように届いていたらしい。

 学院内で騒動の渦中にいることも多々あり、いつしか『修羅場令嬢』なんて呼ばれるようになっていた。

 そして、異性にモテるということは、もれなく同性から嫌われる。お陰で見事に特進科クラス内で私は孤立した。誰も……私のことを助けてはくれなかった。


 おかげで休日は見事に引き篭もり、寮と学校を往復するだけの生活。貴族学院時代は私の暗黒期。

 だから死ぬ気で勉強して、一年で地獄の環境から卒業したのだ。


 誰も『私』を見てはいない。でも、深入りされて私が『呪われ者』だと知られても困る。相反する感情を抱く自分自身に対し、なんともいえない苛立ちが募った。


 どうせいつかは結婚して、伴侶を迎えなければならない。頭では理解している。


 でも……お相手には申し訳ないけれど、誰が相手だろうと私にとっては同じただの『骨』だ。

 幼い頃に呪いの指輪を身につけてしまった私には、求婚者全員ただの喋るドクロにしか見えない。見分けなんてほとんどつかない……いや、見分けようとする気が、そもそも起きやしないのだ。



 ザッ!


「お前らーーーーっ! 集中しろーーーーっ‼︎」


 その時、怒声を上げながら、級長が鍛錬場へと飛び込んで来た。仲間にひと通りの(げき)を飛ばしてから、私の方をキッと睨んで……いると思う。たぶん。目玉がどっち向いてるか、よく分からないけれど……。


 そう……見ての通り、私はこの騎士科をまとめ上げるこの級長ドクロさんにすっかり嫌われている。


まぁ……色々と、ちょっとやらかしているから仕方ないのだけれど……。

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