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修羅場令嬢イン・ザ・トロフィーカップ  作者: 枝久


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1/7

1.剣術大会の賞品は……

 闘技場は異様な熱気に包まれていた。



 カキンッ! カキンッ! カキンッ! 


 ワァァァァァァーーーーッ‼︎‼︎‼︎‼︎


 剣同士の打ち合う金属音が鳴り響き、超満員の観客席から歓声が上がる。


 だが、その空気に飲まれることなく、私は最上段の席から、冷ややかな瞳で騎士達の試合を見下ろしていた。


「おっ! なかなか良い勝負だな!」


 傍らに立つ叔父様が、オペラグラス片手に感嘆の声を漏らす。そんな彼を私はジロリと横目で睨みつけた。


「お〜〜じ〜〜さ〜〜ま〜〜!」

「すまんすまん、メリル。そう怒るなって。まぁ、多少強引だったが、こうでもしなきゃお前の婚約者は一生決まらんだろ?」


 コンコンッ!


 そう言って彼は、私が座らされている巨大な金属カップの側面を軽くノックした。


 私は今、剣術大会の優勝者に贈られるト(・)ロ(・)フ(・)ィ(・)ー(・)カ(・)ッ(・)プ(・)の(・)中(・)に(・)入(・)れ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。私自身が、この大会の優勝賞品……らしい。


 急に叔父様から呼び出されたと思ったら、いきなり幅広リボンで身体をぐるぐる巻きにされ、この中にポイッと放り込まれたのだ。カップの縁が高くて、座っていると頭だけしか表に出ない。一見しただけなら、なんとも不気味な生首令嬢だ。


「メリルが爵位を継ぎ、女伯爵になるのはいいとしても、伴侶は必要だろ? それに、いつまでも婚約者不在だから、厄介ごとに巻き込まれるんだ。在学中は『修羅場(しゅらば)令嬢』だなんて、不名誉なあだ名で呼ばれてたらしいじゃないか? お前も貴族の家に生まれた以上、いい加減、腹を括(くく)れ」

「……」


 叔父様の言うことは正論だ。私自身もそれが痛いほど分かっているから、強くは言い返せない。


「でも、だからって……こんな……」

「言っておくが、王国内の三大公爵家が一つ、グレッグス公爵家後援による催しだから、お前に拒否権はないぞ?」

「こ、公爵家⁉︎ ええっ? なぜ⁇」


 我が伯爵家よりも上の上、最高位貴族が私の婚姻に口出しをしてきているというのか? 


 ………………


 心当たりが……なくもないが……。


「それに、ゆくゆくは辺境に近いサーベジルドの領地をお前と護っていくことになる相手……最強の男が花婿なら申し分ないだろ?」

「でも……私との婚姻を望まない人だって……」

「安心しろ。この大会、出場者全員がお前への求婚者だ」

「っ⁉︎」


 叔父様の発した予想外の言葉に、私は思わず絶句した。

 

 う、嘘でしょ⁉︎ こんなトーナメントを開催できるぐらいの人数が集まったっていうの⁉︎


 でも裏を返せば、婚約者が既に決まっており将来安泰な者達は、わざわざ参加しない、というところだろう。


「だいたい、メリルが言ったんじゃないか。どの男だろうと同じだって……」

「同じ……」



 ワァァァァァァァァァーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎‼︎


 その時、場内から先程よりも大きなどよめきが巻き起こる!


 カップの縁からヒョコっと顔を出して真下を覗き込むと、二人の騎士が激しい剣の打ち合いを繰り広げていた。死闘とも呼べる凄まじい気迫。


 それを見て、私の心臓がドクンッと大きく跳ねる。手袋の中の左薬指も、なんだか疼(うず)き出した。


 今、まさに闘技場で剣を振るっている赤い腕章を付けた彼……優勝決定戦にまで勝ち上がってくるとは……というか、この大会にエントリーしているなんて夢にも思わなかった。


「級長……」


 一瞬、私の横に彼が並び立つ未来を想像したが……それを追い払おうと、私はフルフルと左右に頭を振った。


「え、えぇ。どなたでも一緒よ、私からしたら……だって、私(・)の(・)目(・)に(・)は(・)皆(・)同(・)じ(・)に(・)見(・)え(・)る(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)……」

「内側が透けて見える、か」

「そうよ、全員同じ。下の広場では骸骨(ガイコツ)同士が一生懸命闘っていますわ。まるで不死の戦士(アンデッドソルジャー)のよう……」



 そう。私、メリル・サーベジルドは呪われている。


 こ(・)の(・)両(・)眼(・)に(・)映(・)る(・)全(・)て(・)の(・)人(・)間(・)が(・)、(・)私(・)に(・)は(・)ガ(・)イ(・)コ(・)ツ(・)の(・)姿(・)に(・)見(・)え(・)る(・)の(・)だ(・)。


「……こんな私が、幸せな結婚なんて……出来るわけ無いじゃない」


 男同士の熱い真剣勝負を、どこか冷めた目で見つめながら、私はボソッと呟いたのだった。

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