七章 匂いの調べ⑰
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「ねーぇ、シンシャ、フォスフォフィライト、アンデシン。聞いて聞いてぇ……!」
それはあまりにも唐突な呼び掛けだった。
「なんですか、フローライト。貴女にしては急いだ声で」
間延びした声で話しかけてきたフローライトに対し、作業をしていた手を止めると律儀に向き合う形でシンシャは問い返した。
「今日、ご主人様達がお祝いをしようってさっき話していたの……! 私ってば、なにか忘れてることなんてあったかしらぁ……どうしましょう!」
両手を頬に添えて困り顔のフローライトを一瞥しては、フォスフォフィライトは小さく吐息を零した。
「そんなに声高く囀ったところで時間は過ぎるばかりだよ、フローライト。それよりお祝いの内容が気になるね」
フォスフォフィライトの言葉に、傍にいたアンデシンも同意した。
「本当にね? いきなりなんて珍しい……グランツ様らしくない。我らが主のお言葉だけれど不自然というかなんというか……気にかかるね。今日は何か特別な日だったかな。みんな、心当たりはあるかい?」
「……いいえ。残念ながらないわ」
「私もよ〜」
「ふむ……」
一番親しい仕事仲間たちさえ、誰一人心当たりがないという。そしてその“お祝い”とやらの情報を誰もが知らず共有すらされていない。一番の情報通であるシンシャにさえその“お祝い”について知らないというのがなにより気がかりだった。
「もしかして、来客でもあるのかしら?」
「でもでもぉ、それならも〜っと早くに教えてくださる筈よ。完璧なお出迎えができるように」
「突然の来客という線はあるかもよ〜? なにせグランツ様に会いたい客人は多いだろうし」
「イヴリース様は? あの御方との婚約について耳にした客人とか」
うーん、と四人で顔を突き合わせ互いに思い思いの意見を口にする。だがどれもピンと来ない。
「お祝いをすると言っていたなら、何か言付かっていないの、フローライト?」
「そ、それが……それがね?『私たち四人は休息していること』……なんてお言葉だったの!」
『…………ッ!』
フローライトが口にした思いもよらない言葉に、思わず絶句した。仕事を仰せつかることもなく、待機でもない。まさかの休息という言葉に思わず動揺が拡がる。
「……私達……解雇されるのかしら」
何十秒かの沈黙のあとに、おもむろに口を開き紡がれたシンシャの言葉。それにジワジワと涙目になるフローライト。そして平静を装いつつも、身体が小刻みに揺れるフォスフォフィライト。無言のまま、シンシャの言葉を噛み締めるアンデシン。
反応は様々だった。




