七章 匂いの調べ⑯
「……私、我儘なんでしょうか?」
「いいや。私はそうとは思わないよ。ただ、魔法というモノだけに執着はしないように。でなければ、見えるものも感じるものも狭まってしまう。それはとても勿体無いことだと私は思う」
「執着……」
その言葉にコクリと頷く。
イヴ自身、劣等感から無自覚に執着していたのだと思う。他人の役に立つことを――けれどそれは自分自身が望む形で成就されないから、いつまで経っても心の穴は埋まらない。それはエゴだ。自分勝手な理想を押し付けるだけの我儘に過ぎない。それはなんて卑しいことだろう。
「そのお言葉、心に刻みます」
(私は……鼻が利く。それなら鑑別の他にもできることはある筈だ)
たとえば昔オルヴァの病を言い当てられた時のように、医者紛いのことはできないだろうか。グランツの言うように視野を狭めることなく、己の能力を最大限に引き出すことができれば――もしかしたらこの心の中に空いた穴もいつかは埋まるのかもしれない。
「グランツ」
「うん?」
「私、もっともっと自分のことを知ろうと思います。できること、できないこと……そして、したいことを見つけたい」
「イヴがそう望むのなら、いくらでも力を貸すよ。勿論私だけじゃない、この屋敷にいる皆がイヴの味方だ」
「はい。皆さまにはとても良くして頂いています。だからこそ……たくさん恩を返したいなって」
「……確かに世話係としてシンシャ達に頼んだのは私だけれど、今では彼女らのほうが好んで積極的に色々してくれてるからね」
「フフッ、そうですね。毎日が楽しいです」
「なら良かったよ。彼女達はイヴのことをとても慕っているようだからね」
シンシャ、フォスフォフィライト、アンデシン、フローライト。四人の侍女達はみんな仲が良く、優しくて、個性的だ。自分を持たず、漠然と、曖昧に生きてきたイヴとは異なりみんな“自分らしさ”を持っている。そんな生き生きとした姿を見るのがとても好きだった。
「ねぇ、グランツ。恩返し……とまではいかなくても、彼女達には何か贈り物をしたいと思うの」
「贈り物かい?」
「グランツはご存知? 彼女達が好みそうな物って……何かしら?」
「ふむ……。そうだな」
グランツは顎に指を添えると、少しばかり目を綴じ何かしら物思いに耽る。そして数秒ほど経ったあと――。
「すまない。これと言って……思い浮かばない。これでは主失格だな。もともと彼女達は引き取ってきた者ばかりでね。皆、遠慮をしてなのか、あまり多くの物を望んだ覚えがないんだ。受け身といえばいいのか、消極的と言えばいいのか――」
「引き取ってきた……?」
思わずグランツの言葉を反芻しながら、イヴはついつられるようにグランツと同じく自身の顎に指を添えては小さく唸った。
「……それなら――」
とてもとても久々の更新です。
力不足を痛感しつつ腹を括り、微細なところは修整をしつつ書き貫きます。
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