第四話 四人目の共犯者
「へぇ……ここが」
「そう、フェカヴィナよ」
第一印象は映画で見たような古いヨーロッパの町並みである。だがどこかに"わざとらしさ"があって映画のセットのような――意図的で無機質な淋しさだ。
「……!」
「気づいたかしら?」
待っていたとばかりにカッペリが聞く。
「人がいない?」
と答えて見るも、壁にかかった黒いくすみや薄いひび割れ、生活感のある欠けだ。どうもさっきまで人が住んでいたらしい。
「動物もいないわ。」
「これじゃ……信号機どころか車もなさそうだなぁ。」と強がって冗談を言ってみる。
しかしカッペリは「どうしてか分かる?」と直線的に聞く。
「うーん……」
案外ノッてくれないものだな、と寂しさが余計に増したのでまたそれを誤魔化すために、じゃあコッチがノッてやろう。
(戦争か?いや建物が壊れていない。じゃあ汚染されていて人が住めない、とか?)
なんて考えてみたものの、納得できる答えは出なかった。
「……なんでですか?」と聞いてみる。不満の混じった声で。
「アナタよ。」カッペリはすっぱり言う。
「え?俺なにかやっちゃいました?」――また冗談。
「なにもしてないわ。でもアナタに何かをしようとする、って人がいないと言うわけではないの。」
その言葉で左右多は何も言えなくなった。いや冗談を尽く真面目に返されたせいなのかもしれない。
「……それで街の住民を追い出したってことですか?」今度は左右多も真面目に聞く。
「一時的に、ね。」
「それも……魔法で?」
「城からの命令よ。」
「城?」
「そう、城。」
魔法、城、誰もいない街。何も知らない世界は左右多の心身を不安で包んだ。細切れの小さな雲々はもう数えるほどしかないので、今では底も果もないところの無人島に思えて淋しいのである。
(いったいここは何処なんだ?俺はこれからどうなるんだ?)
「……いい、私の仕事は起点から城までの案内と護衛。もし何かあれば私が貴方を守るわ」
カッペリは表情を見てそう言った。
「ここでは女性が男性を守るんですか?」
「大丈夫、女だからって心配いらないわ」
「あっいえ、皮肉で言ったわけじゃないんです。ただこの世界のこととかよく知らなくて……」
「それもこれから分かるわ。じゃ行きましょ。」
◇
その街、フェカヴィナの建物の大半はレンガで出来ていて、先程も言った通りヨーロッパの町並みを思わせる。孤独が生む静けささえなければいい街である。
「こっちよ。」
カッペリはこっちを向き、右手を使って左の方を指した。彼女が指した道は建物の影で薄暗い。怪訝な表情をしたら、
「こっちのほうが安全だからよ」と付け加えた。
引き返す気も無かったので「そう、ですか……」と答えた。
念の為なのだろう。だがこの街を強調しているかのようで躊躇った。
「怖いのかしら?」
口角を少し上げて彼女は言った。
「そ、そんなわけ無いですよ。う生まれるた、為に一人で通らねばならない道も…あ、ある訳で……」
無理な例えを使おうとして思わず口がつっかえる。
「え?何言ってるか分からないわ?」
「あっ……その……えっ、えぇと……」
「…………。」
「…………。」
少々の沈黙の後、カッペリが先に口を開く。
「あら、それなら母親も一緒じゃなくて?」
「それは……それならまだ若すぎますよ」
今度は上手く言えた。そう思うことにした。
「ま、褒め言葉として受け取っておくわ」
カッペリはそれ以上何も言わず、歩き始めた。そんな姿を見て、まあなんだか上手くやれそうだとして後をつく。やがて小路に入ると影が顔を覆い、薄っすらと肌寒さを感じた。窓も雨戸で締め切っていて、中には人がいるかどうかも分からない。チョウチンアンコウのような照明もとんと消え失せている。ふと風が横面を通り抜ける。
やがて小路を抜け、カッペリの通りに右へ折れると、やや太い道に出た。表通りと比べればやはり建物が影になっていい印象は持たれない。まるで孤島の海の底辺りにいるようだ。だがカッペリの背中を見て、悪い気はしなかった。
するとカッペリが立ち止まる。冗談心でカッペリの後ろにピタッとつくと、周りよりも濃い2つの影が静かに重なった。
光を奪われたカッペリの髪色をジッと眺めていたら、
「……よぉ、そこのお二人さん☆」
『 !? 』
裏路地に誰かの声が響く。前方、しかし彼女が影になってよく見えない。
「人ッ!?」(この街には誰もいないはず!!敵っ!?)
「私の後ろに隠れてっ!」
カッペリは振り向かずに言った。




