第7話 領主の特権、絶対の裁き
くそう…どうにもこの魔女はオレをからかうのが面白いようだ。…声だけでわからないが年上のように感じる。 まるで妖艶な女に弄ばれてるかのような…。
そんなこんなで魔女に遊んで満足したのか魔女はこう告げた。
『今の軟弱な帝国どもが使っているシステムなど、この白銀の爪の垢にも及ばぬわ。これでお前の領地のインフラ、戸籍、財政データ、さらには眠れる古代の兵器に至るまで、すべてのバックドア(裏口)はお前が掌握したも同然』
魔女の言葉に、俺の背筋にゾクリとした電撃が走った。
すべてのデータを、俺が握った。
ということは──。
「白銀。お前なら、この星の『財務データ』の隠された真実や、あの肥太った官僚どもの金の流れを、すべて洗い出すこともできるのか?」
俺の問いに、白銀は紅玉の瞳をパチリと一度だけ瞬かせると、衣服の裾を静かに下ろした。
「容易です、マスター。すでにこの遺跡の通信回路を通じて、街の行政庁の全サーバーへのハッキングおよびデータの完全複製を完了いたしました。彼らが行っている不正横領、および領民から不当に搾り取っている隠し資産の全容──そのすべてを、一秒以内に開示可能です」
無機質なその言葉は、俺にとって、これ以上ない最強の反撃の武器だった。
舐めきっていたあのクズどもを、合法的に、そして徹底的に社会的に抹殺するためのカードが、今、俺の手の中に揃ったのだ。
「……よし、白銀。俺と一緒に地上へ来てくれ。」
「御意のままに、マスター。これより私は、あなた様の忠実なメイドとして、その影に従います」
白銀は再び滑らかな動作で一礼すると、俺の後ろへと音もなく寄り添った。魔法が使えないゴミと捨てられた不毛の星で、俺の逆襲の内政改革が、今度こそ静かに幕を開けようとしていた。
あの屈辱的な対面から数日後。
筆頭財務官僚の男は、再び俺の執務室のソファーへと座らされていた。
だが、数日前に来た時のような傲慢な余裕など、今の男には微塵も残っていなかった。ブクブクと肥え太った顔からは滝のような冷や汗が流れ落ち、男はそれを血相を変えて何度もシルクのハンカチで必死に拭っている。
どれほど冷静を装おうとしても、その肥満体の激しい小刻みな震えと焦りは、隠しようがなかった。
それもそのはずだ。
男の目の前の空中には、こいつが今までこの星で平然と行ってきた数々の不正、および巨額の横領の動かぬ証拠が、青白いホログラムのモニターとして明確に映し出されているのだから。
執務室にいるのは、デスクに座る俺と、俺の背後に直立不動で控える、メイド兼秘書として着任した白銀。白銀がその神速のハッキング能力で、行政庁の闇に隠されていたデータをすべて白日の下に引きずり出したのだ。
モニターに羅列された罪状の数々は、どれも目を覆いたくなるようなものばかりだった。
だが、その中でも最悪だったのが、ある平民の女性に対する凶行の記録だった。
こいつは街中で見かけた好みの女性を、自身の権力を使って無理やり屋敷へと連れ込み、散々弄んだ挙句、最後には他星系の奴隷商人へと売り払っていた。
しかも彼女には、夫と小さな子供がいたのだ。
妻が突然連れ去られた事態を知った夫は、必死になってこのブタ官僚の屋敷へと抗議に向かった。だが──コイツは、捕らえた妻の目の前で、その夫を銃で射殺した。
胸糞が悪くなる。
本来ならそれを咎め、領民の治安を守るべき憲兵もこの星には存在しない。いや、存在はしていたが、コイツが莫大な賄賂を握らせて事件のすべてを最初から無かったことにし、不問に付していたのだ。
「どうだ? 何か言いたい事はあるか?」
俺は極限まで声を低くし、デスク越しに男を冷徹に睨みつけながら問いかけた。
すると、ブタ官僚はハンカチを握る手を激しく震わせながら、醜い顔を歪めて叫んだ。
「な、何の証拠ですかこれは……ッ! こんなものは、ただの出鱈目だ! 私を嵌めるために、あなたがどこからか持ってきた根も葉もないデマだ!!」
男は必死に息を荒げ、青白いホログラムの画面を指差す。
「いいですか、アレス坊っちゃま! 魔法も使えず、本家を追い出されてきたばかりのあなたに、何ができるというのです! 証拠? 記録? フン、そんなデータなど、今時いくらでも偽造できるではないですかァッ!!」
完全に突きつけられたチェックメイトを前にしてなお、男は俺を『無能の子供』と舐めきり、見苦しい言い訳を大声で捲し立て始めた。
だが、男はまだ気づいていない。
俺の背後に立つ黄金の少女──白銀の紅玉の瞳が、男のその言葉を合図にするかのように、冷酷な光を放って妖しく明滅したことに。
「白銀、コイツの全権を剥奪しろ。──それと、逮捕拘禁だ」
「はい」
俺の冷徹な命令に、白銀は表情一つ変えず、短く一言だけ応じた。
それを聞いて、官僚はまるで理解が追いつかないといった様子で唖然と目を丸くした。
「な、なっ……!? 坊っちゃま、何をトチ狂ったことを!総理財政官の 私を逮捕だと!? そんな勝手が許されるはずが──」
「お前の言い分などどうでもいい」
俺は立ち上がり、見苦しく喚く男を見下ろした。
「お前は大きな勘違いをしている。俺はこの惑星『レガリア』の、正真正銘の領主だ。お前をどうするかも、すべて俺の自由だ」
そうだ。この星のすべての法律、すべての生死与奪は、最高権力者であるこの俺──アレス・フォン・アストレアの手中にある。実家を追放された無能の子供だと思って舐めきっていた男に、この星の『絶対の常識』を突きつけてやった。
「お、の、れ……っ! この、無能の小僧がぁぁぁぁッ!!」
完全に理性を失い、怒りに任せて絶叫した官僚が、肉に埋もれた懐から護身用の魔導銃を抜き放った。その銃口が、真っ直ぐに俺の眉間へと向けられる。
だが。
バチィッ──!!!
乾いた高エネルギーの放電音が執務室に響き渡った。
直後、まばゆい一筋の光線が男の胸のど真ん中を寸分の狂いもなく貫通していた。




