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『漆黒の魔女は脳内で囁く。「魔力は物理で殴るのが一番強い」最強の宇宙艦隊造ります』  作者: 久遠
第一章 漆黒の魔女

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第4話 メイドと執事

「こちらです、アレス様」


丸渕眼鏡をかけたメイドの少女──アリシアは、そう言って街の中央にある領主の屋敷へと俺を案内した。





「ここが……俺の屋敷か」


見上げたその建物は、実家の青々と茂る庭園に囲まれた巨大な邸宅に比べればあまりにも小さく、また壁や柱の所々が酷くボロかった。星間帝国の貴族の住処というよりは、地方の没落した平民の家といった方がまだしっくりくる。


だが、案内されるがままに屋敷の扉を開けた、その瞬間のことだった。





「坊ちゃま! お懐かしいッ!!」





いきなり目の前の空間にホログラムの通信映像が開き、そこには俺にとって懐かしい顔があった。


涙をボロボロと流しながら俺の無事を取り乱して喜んでいるのは、立派な口髭を蓄えた初老の男──セバスだった。





「お……おぅ、久しぶりだな、セバス」





思わず圧倒されて声を漏らす。セバスは、かつてアストレア家に先々代から仕えてくれていた超有能な執事長だ。





セバスは上着に包まれたアリシアの姿に気づき、一体何が起きたのかと事情を聴いて、ホログラムの向こうで驚愕に目を剥いた。





「なんと……っ! なんという大不覚! やはり私が一緒に宇宙港へ行けばよかった……!」





「もう、おじいちゃんはギックリ腰になっちゃったんだから、しょうがないでしょ」





アリシアが呆れたようにそう言って丸渕眼鏡を直す。


それを聞いて、俺は「えっ!?」と声をあげそうになった。アリシアはセバスの孫だったのか!? ……いや、セバスの年齢を考えれば孫くらいいてもおかしくはないが、驚いた。





そう言えば、セバスは俺が子供の頃、いつの間にかアストレア家から姿を消していた。その後釜として新しいメイド長に収まった女がいたが、今にして思えば、あれは父上……親父の愛人だったのだろう。


セバスは『是は是、非は非』と、主君相手だろうと筋の通らないことには真っ直ぐに諫言をする人間だった。先々代のアストレア辺境伯は名君だったと聞いているが、あの愚鈍で傲慢な今の親父に物申して怒りを買い、こんな最果ての僻地へと飛ばされたに違いない。


ギックリ腰か……。





そんなものは、実家のように医療施設がちゃんと整っていれば、最先端のナノマシン治療ですぐさまあっという間に治せるものだ。


この星間帝国の最先端医療は、失った部位どころか人を丸ごと創り出すことさえ可能であり、人類の寿命すら今や三百歳を超えている。肉体の老化制御も完璧なため、正直言って見た目だけでは正確な年齢を判断できないほどだ。





セバスが「初老の男」の姿をしているのは、彼自身のこだわりか、あるいはこの最果てのレガリアにまともな病院があるかすら分からず、適切な老化抑制や治療を受けられていないからだろう。


それほどまでに、この星は本家から見捨てられ、文明の恩恵から切り離されているのだ。





その後、アリシアに案内された部屋に入り、俺は吸い込まれるようにベッドへと倒れ込んだ。


シーツは驚くほどふかふかで、埃一つなく手入れが行き届いている。予算も物資もないこのボロ屋敷でアリシアがどれほど心を込めて俺を迎える準備をしてくれていたのかが伝わってきて、その心遣いがただ純粋に嬉しかった。


沈み込むベッドの中で、天井を見つめながら俺は今日あった出来事を思い返していた。





十七歳の誕生日。選定の儀での廃嫡。婚約者からの裏切り。この星での暗殺未遂。


そして──脳内に現れた、あの『魔女』のこと。初めて……人を殺した事……


不思議なくらい冷静でいられた…。





すべてが怒涛すぎて、まるで悪い夢でも見ているかのようだ。だが、、体内に残るあの蒼い魔力の残滓が、すべて現実だと告げている。





(おい、魔女。……聞いてるか?)





意識を内側へ向け、脳内の彼女にコンタクトを取ってみる。


だが、返事は一切ない。本当に寝ているのか?。


しょうがない。ひとまずは、明日からのことを考えよう。魔法が使えないゴミだと捨てられたこの最果ての地で、必ず這い上がってあのクズどもに復讐を果たしてやる。


俺はふかふかの枕に深く頭を沈め、これまでにない決意を胸に、静かに瞳を閉じた。








翌朝、俺はこの星の現状把握のため、ある男を呼び出した。




魔法が使えない無能だと捨てられた男が、初めて『領主』として、この星の腐敗に切り込むための第一歩だった。


セバスに手配を頼んでからしばらくして、執務室の扉がノックもなしに乱暴に開け放たれた。





「お呼びですかな、アレス新領主様」


部屋に入ってきたのは、高級そうな仕立ての背服のボタンがはち切れんばかりに、ブクブクと醜く肥え太った中年の男だった。この星の財務を取り仕切る、筆頭財務官僚の男だ。


すでにオレが領主であることは知られているようだ。行政庁に顔出しもしてないんだけどな。





一応、この惑星『レガリア』にも政務を行うための行政庁があり、こいつのような官僚たちも常駐している。これまでは正式な領主がいなかったため、本家から送り込まれてくる代官が実務を取り仕切っていたらしい。


男はめんどくさそうに室内を見回すと、こちらが促してもいないのに、断りもせず勝手に中央のソファーへとどっかりと腰掛けた。ギチリ、と高級な革のソファーが悲鳴をあげる。





そこへ、アリシアが静かな足取りでお盆を運び、男の前のテーブルへ丁寧に紅茶を淹れたカップを置いた。


男は肉に埋もれた手でカップを掴み、不躾に口をつけると、露骨に嫌そうな顔をしてテーブルへ乱暴に突き戻した。





「……、薄いですな。」





男はそう言うとアリシアを下から舐めるような視線で上へと見上げた。


太ももから大きく丸みを帯びた臀部。細い腰つきへと、そして大きくほどよい弾力があり布地を押し上げんばかりの豊満の膨らみを。





「──ッ」





この野郎、今すぐその肥えた顔面をぶん殴ってやろうか。


俺は拳を強く握りしめてどうにか怒りを胃の底へと収めた。ここで感情的に暴力を振るえば話が進まない。まずは冷静に、この星の財政について問い詰める。


アリシアは頭を下げると退室していった。





「挨拶はそれくらいでいい。財務官、単刀直入に聞く。この星の財政表を見たが、あまりにも酷い赤字だ。この状況をどう説明する?」 





俺の問いかけに、肥満官僚は退屈そうに爪をいじりながら、ぐだぐだと中身のない言い訳を並べ立て始めた。





彼らの言い分を要約すると、こうだ。


この星には何の資源もないのだから、財政が赤字になるのは当然である。すべては不毛なこの惑星の環境が悪い。さらに、本家アストレア家から要求される上納の税が年々重くなっているのだから、領民の税を軽くするなど逆立ちしてもとんでもない、不可能だ、と。





(──じゃあ、なんでテメーはそんな高級そうな背広を着てやがるんだ?)


ぐだぐだと喋る男の丸太のような指には、いくつもの大粒な宝石があしらわれた指輪が光り、胸元には本物の貴族すら早々手に出せないような、きらびやかな宝飾品のブローチが留められている。


領民には生存限界の重税を課し、財政は真っ赤っかだと抜かすくせに、なぜ官僚であるテメーの私腹だけが肥え太っているのか。


その矛盾を徹底的に追及しようと、俺が口を開きかけた、その時だった。





「では、私は忙しいのでこれで」


「おい、待て! まだ話は──」


「失礼します」





男は俺の制止の声を完全に無視し、言いたいことだけを一方的に捲し立てると、巨体を揺らしながらそそくさと執務室を後にしてしまった。


バタン、とまたもや乱暴に扉が閉まる。





「……完全に、舐められてるな」





ぽつりと、誰もいなくなった室内に俺の声が虚しく響いた。

五話は本日19時10分に投稿します。

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