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『漆黒の魔女は脳内で囁く。「魔力は物理で殴るのが一番強い」最強の宇宙艦隊造ります』  作者: 久遠
第一章 漆黒の魔女

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第3話 魔女

「うそ……だろ……」




頭が、指先が、急速に冷たくなっていくのを感じる。


嘘だろ。俺はまだ、ここへ着いたばかりだ。まだ、何もしていない。


実家で俺を嘲笑った両親への、ジュリアスへの、そして俺のプレゼントを踏みつけたエレノアへの復讐も、何一つ……して、いな、い……。





理不尽な世界への怒りと無念さの中で、意識が急激に薄れていく。


落ちていく。暗闇の底へ、どこまでも……どこまでも……。


──その、永遠とも思える暗黒の深淵で。





頭が割れるような衝撃と共に、凛とした、そして傲岸不遜な女の高笑いが脳髄に響き渡った。





『──ふふ。あはははは! 傑作だ! 火だの水だの、あんなケチな火遊びができないだけで絶望し、オモチャの光線に焼かれただけで死にかけるなんて。人間って本当に退屈で、そして滑稽極まりない』


「な、誰だ……!?」





死にかけた俺の精神の核に、直接語りかけてくる気配。


『私の名は……まあ、今は「魔女」とでも名乗っておこうか。お前の中に流れる、その無駄にデカい魔力が、私の意識を叩き起こしてくれた。』


『教えてやる、哀れな元御曹司。お前の頭の固い身内どもは、魔力を「属性」なんていう歪なフィルターに通して、ちっぽけな現象を起こして満足しているけれど……。いい? よく聞けか』





魔女の気配が、俺を撃った男たちを、そしてこの世界の常識を心底見下すように冷徹に囁く。


『【魔力は、質量を持たせて物理で殴るのが一番強い】』


「物理で……殴る?」





『そう。火で炙るより、レーザーで焼くより、数トンの鉄の塊を音速で叩きつけた方が、一瞬で、確実に、すべてを粉砕できる。お前のその規格外の魔力はね、属性魔法に変換するためのものじゃない。──すべてを圧殺する「究極の物理」のためにあるのよ。さあ、その腐るほど余った魔力を、私に預けろ』


胸の焼き焦げた痛みが、冷徹なまでの『純粋な魔力エネルギー』によって塗りつぶされていく。





術式なんていらない。属性なんてクソ食らえだ。


俺を殺そうとした本家も、目の前のクズどもも、すべてを物理で叩き潰す。


「……面白い。やってみろ、魔女……ッ!!」


泥の中で、俺の漆黒の瞳が、見たこともない青い光の回路で埋め尽くされ、カッと見開かれた。





「ちょろい仕事っすねぇ」


下卑た笑みを浮かべる手下をよそに、兄貴と呼ばれた男は懐にレーザー銃を収めながら、冷淡に地面の血だまりを見下ろした。





「領主殺しは、普通なら大罪だ……。いくら依頼されようと、まともな頭をしてりゃ割に合わねぇ仕事だからな。だが、この最果ての星じゃ殺しなんざ日常茶飯事だ。何より、あのお貴族様が提示してきた報酬も破格だったしな」


「しっかし、こいつも運がねぇというか、実の弟に暗殺を依頼されるなんてなぁ」


手下が呆れたように、泥に伏せる俺を見て鼻で笑う。


「貴族の後継争いなんざそんなもんだろ。上に立つ奴はどいつも腹黒い。……さて、と」





兄貴と呼ばれた男が、興味を失ったように俺から視線を外した。


そして、彼らのギラついた欲望に満ちた目が、再び次の獲物へと向けられる。路地裏の奥でがたがたと震える、丸渕眼鏡のメイドの少女。彼女は衣服を引き裂かれたまま、絶望に顔を強張らせていた。


だが──。





「……あ? おい、兄貴、後ろ……」


手下の一人が、引きつった声をあげた。


男たちの背後で、ゆらりと立ち上がる影があった。


今、確かにレーザーで胸を撃ち抜いて殺したはずの男──アレスが、まるで地獄から這い出てきた幽鬼のように、そこに立っていたのだ。


「な、なんだお前……生きて……ッ!?」


男たちが慌てて振り返る。





俺の胸の傷からは、血の代わりに、目に視認できるほどの濃密な魔力が立ち上っていた。体内で暴れ狂うエネルギーが皮膚を突き破り、大気をパチパチと震わせている。


濡れた黒髪の隙間から覗く漆黒の瞳には、蒼い炎が揺らめくように見えた。


それは炎ではない。属性を持たない俺の魔力が、極限まで圧縮されて生じた純粋なエネルギーの渦だ。





「 死ねぇッ!!」


恐怖に駆られた兄貴分が、再びレーザー銃を構えて引き金を引く。


だが──俺の身体は、俺の意志とは無関係に、超自然的な速度で真横へと跳ねていた。


(な──体が、勝手に……!?)


俺の意識はハッキリとある。しかし、手足の主導権は完全に奪われていた。


まるで、自分の肉体というコックピットのシートに座らされ、他人の操縦を見せられているかのような奇妙な感覚。





『驚くことじゃない、小僧。お前はまだ、その規格外の魔力の使い方も、本物の戦い方も知らない。──だから、私の動かし方をその目に焼き付けろ』


彼らは隠し持っていた「近代兵器」──最新式の魔導高周波ブレードや、高出力の熱線ピストルを一斉に抜き放ち、俺へ向けて応戦しようとした。





だが、そんなものは魔女にとって、ただの子供の玩具に過ぎなかった。


魔女が俺の魔力を少し練り上げるだけで、俺の肉体の表面に、目に見えぬほどの超高密度な「(魔法障壁)」が展開される。





男たちが放った熱線も、超振動の刃も、俺の肉体に触れることすらできず、空間の歪みに囚われてすべて火花となって虚空へと無効化された。


「な、なんだよこれ……魔法障壁!? 魔法は使えないはずだろ!?」


絶望する男の一人に、魔女が操る俺の肉体が、一瞬で間合いを詰めて懐へと滑り込む。


極限まで魔力で硬化された俺の拳が、男の腹部へと無造作に打ち込まれた。


ぱんッ──!!!


乾いた破裂音。





衝撃波が男の肉体を突き抜け、まるで風船が弾けるように、男の上半身が骨も肉もまとめて粉っ端微塵に弾け飛んだ。


「ひ、ひぎゃあああああああッ!!」


「化け物だ! 逃げろ、逃げろおぉぉッ!!」





変わり果てた兄貴分の姿を見た残りの手下たちが、黄色い悲鳴をあげながら、路地裏から蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうと背を向ける。


しかし、魔女は逃がさない。


俺の右足が、無造作に、しかし鋭く大気を蹴り上げた。


シュバッ!!!





蹴り上げた瞬間、魔力によって超圧縮された空気の塊が、絶対的な「質量」を持った超高速の空気の刃となって発生。


逃げようとしていた手下の一人の背中に直撃し、肉も衣服もまとめてずたずたに引き裂かれてその場に崩れ落ちた。


さらに、残る手下たちを視界に捉えた瞬間、俺の身体が重力を無視して上空へとふわりと飛び上がった。





最高点に達した直後、超スピードの自由落下。


逃げ惑う最後の男の頭上から、魔力を乗せた強烈なかかと落としが炸裂する。


ぐしゃり。





鈍い音が響き、男の頭部から上半身にかけてが、凄まじい質量圧力によって地面の岩盤ごとベコベコに押し潰され、物言わぬ肉塊へと変わった。


静寂が、路地裏に戻ってくる。





すべてが終わった時、アレスの──いや、魔女の操る俺の身体は、飛び散った返り血すら一滴も浴びずに、赤茶けた泥の上に静かに立っていた。


『……ふぅ。まだ目覚めたばかりで、さすがにこの程度の出力でも眠い。──小僧、身体は返すぞ』





脳内で魔女が満足げに、しかしひどく眠たげに呟いた。


その瞬間、俺の瞳から蒼い魔力の渦がスッと消え去る。


「えっ? あ、うわっ!?」


突如として、自分の両手足の感覚が凄まじい勢いで戻ってきて、俺はその場に激しくよろめいた。





あまりの感覚のギャップに驚き、自分の手を何度も握ったり開いたりしてみる。


さっきまで、俺の身体でありながら、俺のものではなかった肉体。


だが、他人の操縦席に座らされていたとはいえ、確かに得るものはあった。


魔力を火や水に変えるんじゃない。





魔力そのものに質量を持たせ、運動エネルギーを与え、ただ『物理』として敵を圧殺する──その感覚の片鱗が、俺の魂に深く刻み込まれていた。


「……これが、俺の力……」





俺が自分の手のひらを見つめて愕然としていると、背後から、がたがたと震える小さな吐息が聞こえてきた。


地面に黄色い染みを残したまま、腰を抜かしてこちらを見上げている、丸渕眼鏡のメイドの少女だった。



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