第2話 最果ての地、絶望の領地
「……本当になにもないんだな」
恒星間航行という長い、あまりにも長い孤独な旅を終え、俺はついに自分の領地である惑星『レガリア』の地へと降り立った。
周囲を見渡した瞬間、そのあまりにも酷い状況に、俺は少ない荷物を無理やり詰め込んだリュックを床へと落としてしまった。ドサリと、情けない音が足元で響く。
実家を追い出されるように出て行く時のことが、嫌でも脳裏にフラッシュバックする。
昨日までいつも俺にかしづき、至れり尽くせりの世話をしてくれていた本家のメイドたちは、俺が『無属性の無能』だと分かった瞬間、汚物でも見るような冷たい目で俺を見ていた。
旅立つ俺を手伝ってくれる者など、ただの一人もいなかった。
その時になって、俺は初めて気づいたのだ。
──俺は、自分一人では服も満足に着替えることができないのだと。
衣服を綺麗に折りたたむことすら、俺にはできなかった。
これまで当たり前のように誰かにやらせていた日常のすべてが、自分にはできない。その事実に打ちのめされながら、俺はぐちゃぐちゃのまま衣服をリュックへと詰め込むしかなかった。
衛星軌道上にある宇宙港から見下ろした俺の領地は、赤黒い大地が広がる、見るからに貧相な星だった。
実家のあった、あの青々と茂る緑豊かな首府惑星とは、文字通りすべてが違っていた。
そして、シャトルで地上へと降り立った今なら、さらにハッキリと分かる。
宇宙港から一歩出た先にある街は、完全に荒れ果てていた。行き交う領民たちの顔には生気がなく、ただ泥のように明日なき日々を生きている。
張り巡らされているはずの超科学のインフラは完全に途絶え、街並みはまるで暗黒時代の中世のような、薄汚い木と石の家々が並んでいるだけ。
「ヒャハハハハ! 飲め飲め! 任務なんか知るかよ!」
「おい、もっといい薬はねえのか!」
通りを歩けば、所々で昼間から安酒を浴びる者が大声をあげ、路地裏では違法な薬物を腕に打つ者が狂ったように暴れている。彼らが身につけているのは、本家アストレア家の紋章が入った、薄汚れた私兵の制服だった。
「お兄さん、いい体してるね。寄っていかない?」
崩れかけた建物の影から、虚ろな目をした娼婦たちが下卑た笑みで男たちを呼び止めている。
これが……俺の領地。
本家が「ゴミ箱」として俺を放り込んだ、最果ての駐屯惑星レガリアの本当の姿だった。
あまりの惨状に俺が立ち尽くしていると「きゃっ! やめてください」
路地裏の奥から助けを呼ぶ声が聞こえた。
見るとメイド服を着た女の子がガラの悪い男達五人に襲われていた。 俺と同じぐらいだろうか?明るい茶色のウェーブかかった髪を三つ編みにし、丸渕眼鏡をかけている
。衣服が破られ胸を両手で隠している。
「やめろ!」
オレは思わず叫んでしまった。
やめればいいのに…すぐにオレはオレん行動を悔やんだ。力のないオレがどうあの子を助けるって言うんだ?だが…オレは行動してしまった。オレは領主なのだから
「あ……」
俺の叫び声に驚いたのか、男たちの動きが止まる。
隙間から見えた丸渕眼鏡の彼女は、よっぽど恐怖が限界に達していたのだろう。がたがたと小刻みに震えながら、地面に黄色い染みを残していた。
そのあまりにも生々しい絶望の光景に、俺の心臓がドクンと跳ね上がる。
ここは、実家のような綺麗な箱庭じゃない。暴力と欲望が剥き出しになった、本物の地獄だ。
「あ、おい見ろよ、あのガキ──兄貴! あれ、例の領主ですよ!」
「あぁ?」
一番下っ端らしき男の言葉に、兄貴と呼ばれたガラの悪い男が、鬱陶しそうに腕の端末を操作した。
空間に青白いホログラムが浮かび上がり、俺の顔写真と経歴が表示される。それは間違いなく、本家を追い出された俺の映像だった。
それを確認すると、兄貴と呼ばれた男はちっと舌打ちをし、めんどくさそうに脱ぎかけたズボンを元に戻した。
「ちっ、もう来たのかよ。これから楽しもうって時に……」
男は吐き捨てるようにそう呟いた。
まるで、俺がこの時間にここへ来ることを、最初から知っていたかのような口ぶりだった。
「わりぃな、領主さま」
底意地の悪い笑みを浮かべると、男は懐から無骨な金属の塊を取り出し、俺へと銃口を向けた。本家お下がりの、出力の落ちた型落ちのレーザー銃だ。
直後、バチィッ! と空間を切り裂くような乾いた音が響く。
「あつっ……!?」
一瞬ののち、胸を焼くような強烈な激痛が俺を襲った。
熱い。熱いなんてレベルじゃない。ジクジクと焦げた嫌な匂いが鼻につき、光線が俺の肉を容赦なく焼き抉ったのだと理解する。
傷口が熱で焼灼されたため、血はほとんど流れていない。だが、内臓を破壊されたのか、俺は激しく咳き込みながら口からドロリとした血を吐き出し、その場へ無様に倒れ落ちた。
赤茶けた泥が、俺の視界を埋め尽くしていく。
「うそ……だろ……」
三話は本日12時10分に投稿します。




