第21話 熱狂の残響(レガリアズ・ロイヤルティ)
冷却と回路の再構築が終わるまでは、あらゆる大火力の兵器が使えない完全な無防備状態――いわゆるリキャストタイム(冷却時間)が必要となる。
弱点がないわけではない。だが、それを補って余りある「一撃必殺」の絶対的な権能。それを手に入れた事実だけで、今のオレには十分すぎた。
オレは機体を反転させ、白銀とフェムが待つ宇宙港のドッグへと帰還の進路を取った。
宇宙港への帰途、コンソール上のホログラムはさらに賑やかさを増していた。
「どうです? いい機体でしょう……おぇ」
自慢げに胸を張って話そうとするミニフェムだが、やはりまだ強烈に酔っているらしい。緑色の顔をして、今にもホログラム越しに何かをぶちまけそうなほどグロッキーだ。
「あなたはさっさと酔い止めを飲んでください」
フェムのすぐ隣に、ポンと新しい光が灯った。
今度はちっこい白銀が出てきた。いつもの冷静沈着で冷徹な感じは変わらないがそのまま二頭身になっている。……心なしか、いつもよりかわいいな。
「ぐふふ……いいデーターとれた……きもちわるい」
喜んでいるのかグロッキーなのか、もはや判別のつかない壊れた笑い声を上げるフェム。そんな彼女を冷たい目で見下ろすちっこい白銀。
「……ハァ」
コックピットの中で、オレは思わず苦笑を漏らした。
「おいフェム、さっさと酔い止めを飲め。白銀、データの解析を頼む」
通信を繋いだまま、ゼロの機体は滑らかに宇宙港へと進入する。
誘導灯に導かれ、オレはゆっくりと元のドッグへと入っていった。
「お……おぉッ!」
ドッグへと滑り込むレガリア・ゼロの姿を見上げ、艦隊のクルーたちが一斉に驚嘆の声を上げた。
アレスが宇宙空間で繰り広げた、あの神がかったテストドライブの映像。それはいつの間にか、全艦のモニターにリアルタイムで映し出されていたのだ。
整備作業中の者も、ブリッジの士官も、通路を行き交う下士官も、すべての者が足を止めて画面に釘付けになっていた。
彼ら彼女たちは、皆レガリア出身の者たちで固められている。
すなわち、絶望のどん底にあったところを、新領主アレスによって救い出された者たちだ。アレスへの忠誠心は狂信に近いほど高く、将来この艦隊の中枢を担うべき精鋭の卵たち。
「アレス様万歳!」
一人の若い整備兵が拳を突き上げて叫ぶと、それは瞬く間にドッグ全体、そして通信回線を通じて艦隊全域へと伝染していった。地鳴りのような歓声が響き渡る。
その熱狂を、ブリッジから見下ろしていた艦隊総司令のエドガーは、深く感銘を受けたように目を細めた。
(……たった一人の背中、一機の存在だけで、こうも一瞬にして士気が跳ね上がるか。やはりあのお方は、人の上に立つべき本物の大器だな)
アレスの存在。その圧倒的な力。それらはクルーたちの胸に、強く印象付けた
「よし! これより艦隊演習に入る! いつもより厳しくいくぞ! アレス様の期待に応えて見せろ!」
エドガーが通信越しに鋭く言い放つと、先ほどまで歓声を上げていたクルーたちの顔つきが一瞬で引き締まった。
「「「ハッ!」」」
一糸乱れぬ敬礼が返る。
全軍の士気は最高潮に達していた。こうして、アレスという絶対的な太陽を中心にして、新生レガリア軍の練度は恐ろしい速度で跳ね上がっていくのだった。
ゼロのコックピット内に艦隊からの熱すぎる声が聞こえる。
「……?何盛り上がってんだ?」
アレスにはなにが起こってるのかわからなかった。
宇宙の境界線、航路図から完全に抹消された「暗礁宙域」に彼らは潜んでいた。かつて惑星レガリアで権力の頂点に立ち、民を搾取し尽くした反乱の首謀者たち。
今や彼らの城は、強固な装飾を剥ぎ取られ、ただの岩塊に偽装された名もなき小惑星だった。高級な絹、美酒、そして無限の財。私腹を肥やし、贅沢の極みを謳歌していた提督たちにとって、この暗く冷たい無機質なシェルターでの暮らしは、とっくに我慢の限界を超えていた。
「おい、本当にあいつらで間違いなかろうな」
豪奢な軍服の胸元をいらだたしげに緩めながら、一人の提督が吐き捨てるように言った。彼らが莫大な隠し資産をはたいて呼び寄せたのは、宇宙の表舞台からは決して存在を認められない者たち。
暗殺、工作、拷問――人々から最も忌避される生業を完璧に遂行する、闇の眷属だった。部屋の自動扉が、錆びついたような不快な音を立てて開く。
現れたのは、生体反応を完全に遮蔽する特殊なナノスーツに身を包んだ影たちだった。顔を覆うマスクには、不規則に明滅する赤色の光学センサーだけが光っている。
人間の骨格を無視したかのような、異様に引き伸ばされた四肢。提督たちは、その不気味な姿に内心の嫌悪感を隠そうともせず、冷酷で蔑むような視線を向けた。
自分たちがどれほど落ちぶれようとも、目の前の「道具」よりは高貴な存在であると信じ込みたかったのだ。
「レガリア領主の首をもってこい」
最も肥満した元提督が、顎で指図する。
暗殺者たちのリーダーとおぼしき影が、無機質な機械音声で応じた。
「……応じよう。」
男とも女とも判別できない声に不気味さを増す。
海賊は当てにできない。武力では勝ち目がない。ならば暗殺が一番なのだ。それが彼らのだした結論だった。暗礁宙域の闇がさらに深く彼らを包み込んでいく。




