第18話 星を覆う若葉と、掲げられし銀翼の紋章
「巡航艦300隻、駆逐艦1000隻、宇宙母艦2隻、強襲揚陸艦100隻。艦隊総数1402隻。そして魔導機動兵器150機。いずれも帝国より購入した中古ですが、以前のものよりはるかに性能はよいものです」
宇宙港の展望デッキ。
眼下に並ぶ艦艇を背に、メイド兼秘書の白銀が淡々と報告する。
昼食を終えたオレは、新設された軍の視察のためにここを訪れていた。
窓の向こう、衛星軌道上のステーションから見下ろす惑星レガリアは、かつてオレが最初に降り立ったあの荒涼とした「赤い星」ではなかった。あちこちに淡い緑の絨毯が広がりつつあり、テラフォーミングによる緑化が着実に進んでいる。遠くには、新しく形成されつつある広大な「海」が、ステーションの光を浴びてキラキラと輝いていた。
とはいえ、眼下に広がる1402隻という数は、この広大な宇宙においては「大艦隊」と呼ぶには程遠い。ようやく軍としての最低限の形が整った、そんな規模に過ぎなかった。
これだけの星の再生と、まだ小規模とはいえ艦隊の調達。
すべては、あの遺跡から持ち帰った莫大な遺産と、白銀の完璧な手腕の賜物だ。
「練度は?」
オレは視線を艦隊に向けたまま問いかけた。
いくら戦艦を揃えたところで、それを動かす人間が使い物にならなければただの標的だ。かつてオレを裏切った旧レガリア軍の反逆兵どもは、罪の重さに応じて然るべき罰を与えた。比較的罪の軽い者たちも全員追放処分にしている。今のレガリアに、過去の不純物は一切残っていない。
「新たに兵を募り、集まった新兵はエドガー少将の元、日々実戦形式で訓練を行っております。……が、ものになるにはまだ時間が必要でしょう」
「だろうな……」
オレは短く相槌を打った。
一朝一夕で精強な宇宙艦隊が作れるなら苦労はしない。エドガー少将の腕は確かだが、新兵たちが本物の「軍人」になるには、泥をすするような訓練と時間が必要不可欠だ。
その時、オレの目はステーションから見下ろす艦艇の船体真上、その上部装甲にある「違和感」を捉えた。
「おい……あれは何だ?」
オレが指さした先。
眼下に並ぶ巨艦たちの頭頂部、最も目立つ位置に、鮮やかな塗料で巨大な紋章が刻まれていた。
それは帝国の国章でもない。
オレの生まれ実家であり、オレを追い落とした、あの『アストレア辺境伯家』の紋章だった。
「私達はアストレア家に属する勢力ですので当然、紋章はアストレア家の大鷲の紋章を入れなくてはいけません」
白銀は表情を変えず、淡々と冷徹な事実を口にした。
ステーションのガラス越し、眼下に浮かぶ艦艇の真上に描かれた巨大な大鷲の紋章。それが、宇宙の陽光を浴びて鈍く輝いている。
レガリアの領主。
響きはいいが、所詮は本家であるアストレア辺境伯家が所有する、数ある資源惑星の一つに過ぎない。この1402隻の艦隊も、形式上はアストレア辺境伯家の地方軍、あるいはその息がかかった私兵という扱いになるのだ。
「わかってる……わかってはいるさ……だが……納得はいかないな」
奥歯を噛み締め、低く唸るような声がオレの口から漏れた。
胸の奥から、どす黒い感情がせり上がってくる。
かつての自分は、あの気高き大鷲の紋章を誇らしく思っていた。アストレアの名を背負って戦うことに、何の疑問も抱いていなかった。それが今や、見るだけで虫唾が走る。
「今は力をつける時です……いずれアストレア家から独立するまで……」
白銀が静かに、しかし確かな意志を込めてオレを見据えた。
その瞳には、主人の怒りに寄り添いながらも、大局を見失わない冷徹な計算が宿っている。
「そうだ……あいつらに復讐するまで……」
オレは拳を固く握りしめ、眼下の大鷲を睨みつけた。
オレをこの最果ての地に追い落とした一族。
今はこの忌々しい紋章を掲げ、彼らの庇護下にある無力な羽虫のふりをしてやる。だが力を蓄えたその時――。
オレの怒りは、すべてあの傲慢な辺境伯家へと向けられることになる。
本家への復讐を胸に誓い、シリアスな決意が部屋を満たしたその瞬間。すべてをぶち壊すような甲高い絶叫とともに、一人の少女がオレの胸へと勢いよく飛び込んできた。
「アレスさまぁあああああああああああああ!」
衝撃。そして鼻を突くオイルと汗の匂い。
領地軍部直属の工機廠で主任整備士を務める女、フェルム・リベット。
愛称「フェム」だ。
フェムの格好は相変わらずだった。
分厚い作業着の上半身を大胆に腰で結び、上は黒のタンクトップ一枚。健康的な肌はあちこち機械油で黒く汚れ、額にはびっしょりと汗がにじんでいる。文字通り、四六時中ドックに籠もりきりなのが一目でわかる姿だった。
顔はオイルで汚れ、汗臭い。
「お前……風呂入ってる?」
オレが思わず尋ねると、フェムはオレの胸に抱きついたまま、ジト目で不満げに上目遣いをしてきた。
「女の子にそう言う事聞くの失礼ですよ」




