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『漆黒の魔女は脳内で囁く。「魔力は物理で殴るのが一番強い」最強の宇宙艦隊造ります』  作者: 久遠
第一章 漆黒の魔女

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第16話 奈落の牙、宇宙を窺う

「どういう事だ!今すぐ艦隊を派遣できんとは!」



薄暗い司令室に、怒気を孕んだ老人たちの怒鳴り声が響き渡る。

そこは惑星レガリアから遠く離れた宙域――偽装された小惑星の内部を丸ごとくり抜いて建造された、秘密の軍事ドックだった。



大型戦艦数隻を秘密裏に収容できるその空間で、通信モニターに向かって机を叩いているのは、アレスの粛清から命からがら逃げ延びた反乱派の提督たちである。

彼らが血眼で通信している相手は、数千隻もの私掠船や違法改造艦を束ねる宇宙海賊の首領、ゴライアス・レイド。



モニターに映るゴライアスは、鋼のように鍛え上げられた色黒の体躯に、凄みの利いたスキンヘッド。肌の所々には不気味な電子入れ墨が怪しく明滅している。



「おいおい、そう怒鳴るなよ、提督方。こっちにだって予定ってもんがあるんだ。何年も前から準備してきた、とびきりデカいヤマがよ……」



ゴライアスは、高級な葉巻の煙を面倒くさそうに吹き出しながら鼻で笑った。

惑星レガリアは、帝国の最辺境に位置する。



他惑星国家との国境に接しているということは、そこが物流の中心たる広大な宇宙航路であることを意味していた。毎日、莫大な富を積んだ貨物船や商船が往来する。海賊にとっては、これ以上ない肥沃な餌場だった。



本来であれば、各惑星国家の軍が連携して航路の安全を確保するはずである。

しかし、レガリア駐屯軍の腐敗は底が知れなかった。逃亡した提督たちは現役時代、私腹を肥やすためにわざと海賊へ交易船のルートや防衛スケジュールを横流しし、見返りとして巨額の裏金を受け取っていたのだ。



それだけではない。

軍の特権を悪用し、本来は海賊の旧式艦では絶対に突破できないはずの、星間長距離ワープ門『ゲート』のプロテクトすら解除して彼らを招き入れていた。

彼らは長年、国境の治安を切り売りして共生してきた「同盟者」だったのだ。

「今やレガリアはあの小僧の手に落ちたのだぞ!」



必死に詰め寄る提督に、ゴライアスは冷めた視線を向けてうそぶく。

「わかってるって。だが、そっちさんも十分その恩恵を受けてきたろう?」

「ぐっ……!」



図星を突かれ、提督たちは誰も反論できずに言葉を詰まらせた。自分たちが今まで甘い汁を吸わせてやったのだから、今すぐ犬のように駆けつけて命を張れ――そんな傲慢な理屈が、百戦錬磨の海賊頭目に通用するはずもなかった。

「こっちも今は動けん。人員も船団も、今は別件にほとんど使ってるからなぁ」

「ならば……いつ頃こちらに合流できる?」



渋々ながらも、縋るように問いかける提督。ゴライアスは顔に刻まれた入れ墨を歪め、薄汚い笑みを浮かべた。

「早くて……一年だな」

「い、一年だと……!?」



通信の向こうで、ある提督が絶望に目を見開いた。

一年。それはあまりにも長すぎる。

(一年だと……? 正気か。アレスは……あの小僧は紛れもない逸材だ。このまま放っておけば、一年も経てば完全に地盤を固め、手が付けられない怪物になる! 今の、まだ権力を握ったばかりの今こそが、叩き潰せる唯一の好機なのだ! それを……一年も待てだと……!)



それはすなわち、今最もアレスが欲している「時間」を無償で与えることに他ならない。

この海賊は目先の利益に囚われ、アレスの真の恐ろしさを理解していない。これ以上交渉を続けても、都合の良い盾として使い潰されるのが関の山だ。

(……この海賊は使えん)



通信が切れた後、静まり返る司令室で、反乱派の面々は暗い火花を散らした。

ならば、今自分たちに残された戦力だけで出来ることを模索するしかない。レガリアの闇に潜む反乱戦力は、打倒アレスへ向けて、独自に不穏な牙を研ぎ始めるのだった。



遺跡の円形闘技場。

静謐な空気の中で、オレは目の前に不動の姿勢で立つ女性――ミカボシと対峙していた。



もう、どれほど拳を交えただろうか。

最初の頃は、文字通り「お話にならない」レベルだった。骨を砕かれ、内臓を潰され、何度も死にかけた。



『実戦に勝るものなし。』魔女はそう言った。

オレが倒れるたびに、魔女はオレ自身の魔力を呼び覚まし、強制的に肉体を急速回復させていった。魔力で肉体を細胞レベルから作り直すような激痛。それすらも、今ではただの日常茶飯事と化している。

死線の往復。それが、アレスという器に眠っていた潜在能力を、強引に引きずり出した。



地獄のような特訓を経て、最近ではようやく、ミカボシの超神速の動きを目で捉えられるようになり、少しは組み合えるようになっていたのだ。

(いける……今のオレなら、次の一撃は捌ける!)

そう確信した、次の瞬間だった。

ミカボシの踏み込みの風を感じた。



そう認識した時には――すでに手遅れだった。

突き出された彼女の右手の平が、オレの胸元、わずか数ミリの距離で急停止する。

否、止まったのではない。



予備動作を一切排した極限のゼロ距離から、爆発的な浸透撃が解放されたのだ。

ドン、と胸の奥で爆薬が弾けたような衝撃が走った。

打撃の威力は、肉体の表面ではなく、内臓の最奥へと直接染み込んでいく。肺の中の空気が一滴残らず口から無理やり吐き出され、「カハッ……!」と情けない声が漏れた。



衝撃はそのまま背中へと突き抜け、背後の石壁に目に見えない同心円状の衝撃波が伝わっていく。心臓が一瞬、脈打つのを忘れたかのようにドクンと不気味に跳ねた。

オレは、一歩も後ろへ退がることすらできなかった。

衝撃のエネルギーを後ろへ逃がすことすら許されず、全威力を体内で受け止めてしまったのだ。



オレはその場に膝から崩れ落ち、両手を床について、ただ酸素を求めて喉をヒューヒューと鳴らしながら喘ぐことしかできなかった。

床に滴る己の汗を見つめながら、オレは悔しさに歯を食いしばる。

圧倒的な格の違い。しかし、その絶望の裏側で、オレの脳細胞は、今内臓を破壊した

「浸透する魔力と力の連動」を狂ったように記憶し、再現しようと蠢いていた。



「ふぅ~……」

ミカボシとの地獄のような訓練が終わり、オレは遺跡の奥にある温泉へと浸かっていた。



遺跡内に、こんなにも巨大な露天風呂が存在するとは、本当に不思議な場所だ。周囲の景色や空模様を自由に変更できる。今は設定を『夜空』に変えていた。

頭上に広がるのは、息をのむような満天の星。



ホログラムの疑似的な光ではあるが、優しく揺れる湯船に浸かりながら星空を眺めるのは、格段に気持ちがいい。内臓を破壊された寸勁の痛みも、魔力回復と温泉の効果で、驚くほど急速に引いていく。



「ずっとこの遺跡に籠もって訓練してるけど……一体、何日経ったんだか」

外界から隔絶されたこの空間では、もう何日、何週間が過ぎたのか、日にちの感覚すらなくなっていた。

「アレス様、失礼いたします」



突如として、背後から感情の起伏が少ない、澄んだ声が響いた。

振り返ると、そこには白銀と同じタイプの、端正な顔立ちをしたAIアンドロイドが立っていた。この遺跡にいる間、オレの身の回りの世話や食事の準備は、すべて彼女たちが完璧にこなしてくれている。

「お背中をお流しいたします」

「あっ……あぁ」



彼女の顔立ちは確かに白銀に似ているが、髪型がすっきりとしたショートカットだ。アンドロイドである彼女は至って平気な無表情だが、いくら機械とはいえ、見た目は若い女性そのもの。そんな相手に背中を流してもらうというのは、やはり年相応に気恥ずかしいものがある。

耐えかねたオレは、いったん湯から上がると、手元にあった手ぬぐいで慌てて大事な部分を隠した。



「アレス様、手ぬぐいを湯につけるのはマナー違反です」

慌てて隠した拍子に、手ぬぐいの端が湯の中にドボリと浸かってしまっていたらしい。ショートヘアのアンドロイドは、一切眉を動かさずに淡々と告げた。

「お、おう……そうなのか」



まさかこんな場所で、アンドロイドに風呂の作法を指摘されるとは。オレは恥ずかしさに顔を赤くしながら、一つ利口になったと心の中で呟くのだった。


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