第11話 絶対領主の蹂躙2
パニックに陥る軍勢を冷徹に見下ろしながら、アレスの背後に立つ金髪紅玉の少女──白銀が、冷たくルビーの瞳を明滅させた。
白銀が行政府を掌握した時点で、この星の軍のメインサーバーへのバックドアは完全に仕掛けられていたのだ。
白銀によって全ての兵器が動かなくなったその瞬間──突如として、それを完璧な合図としたかのように、アレスの背後や屋敷のあちこちから、音もなく無数の『黒い影』が染み出すように現れた。
「な、何だ、こいつら……っ!?」
動かなくなった兵器に戸惑う反乱兵たちの視界を、漆黒の装束が遮る。アレス直属の「暗部」たちだ。彼らは一切の躊躇なく、パニックに陥る反乱兵たちを次々と組み伏せ、鮮やかに鎮圧していく。
──そしてこれと全く同時刻。
反乱軍の本隊が領主館を包囲する裏で、行政庁や各主要施設を不法に占拠し、街の制圧を目論んでいた反乱兵たちの元にも、すでに破滅が訪れていた。
「クソッ、通信が繋がらねえ! 本隊はどうなって──」
突然の兵器・通信の機能喪失による大混乱の渦中にあった彼らの背後から、影のように滑り込んだ暗部たちが襲いかかる。
数だけで言えば、一万の規模を持つ反乱軍に対して暗部は圧倒的に劣っていた。しかし、暗部たちの練度はクズ私兵のそれとは天と地ほどの差があった。彼らは闇に紛れ、混乱する敵の隙を突き、今回の反乱を裏で指揮している幹部や扇動者たちをピンポイントで確実に捕捉。
「が、はっ……」
抵抗を試みる者や、不要と判断された首謀者たちは、その場で確実に首を刎ねられ、命を刈り取られていく。指揮系統を完璧に断たれ、強力な武器も失った末端の反乱兵たちは、何が起きているかも分からぬまま、文字通り瞬く間に無力化されていった。
突如として始まった大規模な反乱に、レガリアの市民たちは怯え、街はパニック寸前に陥りかけていた。だが、白銀の対処は冷徹かつ迅速だった。
行政庁のシステムを掌握した白銀の手により、街のあちこちにある大型街頭スクリーンやホログラムプロジェクターが一斉に書き換えられる。そこに映し出されたのは、反乱軍が次々と憲兵に変装した暗部によって高速で捕縛され、無力化されていくリアルタイムの映像だった。
同時に「反乱はすでに完全鎮圧された」という領主府からの公式報道が街中に響き渡ると、事態を把握した市民たちの混乱は、急速に静まり返っていった。さらに、事前にアレスの手が回されていた憲兵隊が速やかに行動を開始し、街の至る所で残党の拘束と治安維持を推し進めたことで、地上の事態は瞬く間に収束へと向かっていった。
──だが、その網の目をすり抜け、完全に逃れた者たちもいた。
遙か上空、美しく輝く惑星レガリアを冷酷に見下ろす衛星軌道上。
そこに浮かぶ、重厚な装甲に包まれた数隻の宇宙戦艦。そのブリッジの中に、彼らはいた。
今回の地上の同時多発反乱を、安全な宇宙から糸を引いて画策していた軍の提督たちである。彼らはメインモニターに映し出される、地上の反乱軍が一網打尽にされ、無残に鎮圧されていく様を冷たい目で見つめていた。
「失敗だな」
一人の提督が、忌々しげに葉巻の煙を吐き出しながら呟いた。
「地上のクズどもが、まさかここまで何もできずに潰されるとはな。……」
もう一人の老提督が、冷酷な笑みを浮かべて指示を出す。
「……ゴライアスと回線を繋げ」
宇宙海賊ゴライアス・レイド 。
この星系周辺の宙域を広大な縄張りとし、残虐非道な巨大海賊団。レガリアの財政を蝕んでいた腐敗提督たちは、行政府のみならず、裏でこの宇宙海賊とも深くつながっていたのだ。
地上を失うならば、宇宙から海賊の圧倒的な艦隊を呼び寄せ、レガリアごと新領主を宇宙の塵にしてしまえばいい。彼らの醜悪な野心が、今度は宇宙へと牙を剥こうとしていた。
やがて東の空から厳かな朝日が昇り、あのくだらない騒ぎは完全に終わりを迎えた。
地上に展開していた反乱軍は、アレスの手足となった白銀、暗部、そして憲兵隊の完璧な電撃作戦により、一人の例外もなく全て捕縛・拘束された。
この前代未聞の電撃的な反乱劇と、それ以上に異常な速度での超スピード鎮圧は、レガリアの各マスコミメディアを大いに賑わせている。
「──はい、こちら行政庁前の広場です! ご覧ください、昨日まで街を威圧していたあの巨大な魔導機動兵器たちが、現在は完全に沈黙し、文字通りただの鉄の塊と化しています!」
街頭の大型モニターでは、興奮気味のニュースキャスターが、完全に機能を失って立ち往生している機動兵器のすぐ近くから臨場感たっぷりに状況を語り、中継を続けていた。
「事態の発生からわずか数時間、市民に一切の被害を出さずに首謀者を特定し、反乱軍を一網打尽にした新領主アレス様の恐るべき情報網と、非凡なる軍事的・政治的手腕。これには専門家からも驚嘆と高い評価の声が上がっており──」
画面の向こうでメディアや世論が手のひらを返したように俺を大絶賛していたが、当の本人であるである俺はというと、それどころではなかった。
「……クソ、正直、戦うよりもこっちの方が何倍も辛いぞ……」
俺は山積みにされた電子書類の束を前に、執務室で盛大にため息をついた。




