第25章 解(かい)
第25章 解
天の香山の笹を手に、セオリツは神楽舞台へ戻った。
「ウズメ……あなたが名付けたその個体は、神の論理の岩戸をこじ開けるために遣わされた、最も不合理で強力な『踊り子』だったのですね」
そう呟くと、セオリツは静かに舞い始めた。
笹の葉どうしが擦れ合う音も、鈴の音も、先ほどの神楽鈴に比べれば小さく頼りなく聞こえた。
けれど、それは次の音を待ち遠しく思わせるような、深く優しい音色だった。
……まるで、高次元の何かに呼びかけているように。
舞台の木床を踏み鳴らす音が静寂に響き渡り、その震動がついに、宇宙の真理と呼ばれる神を反応させた。
セオリツはその存在と対話を始める。
声を発することなく、目を閉じ無表情のままであったが、その全身からは膨大な感情が溢れ出ているようだった。
気づけば俺は、両手を強く握りしめていた。
何を願っているのかも分からず、ただ祈っていた。
……いや、違う。
ただ、彼女が提示しようとしている『答え』が、神に否定されないで欲しかった。
それだけだった。
二十年もの間、俺は世界を……神を呪い続けてきた。
自分の記憶さえ都合よく書き換え、ウズメを解のない呪縛として縛り付け、セオリツの中に閉じ込めた。
世界の背景のように無関心になり、ただの石ころのように誰とも関わらず生きてきた。
世界から、宇宙から否定されていると思い込んでいたのだ。
そんな俺に、セオリツは『解』をくれた。
ウズメは『許し』をくれた。
「……ありがとう」
言葉になり、その想いが閉ざされた空間へ解き放たれる。
その瞬間、世界に『認証』された気がした。
二十年前のあの絶望的な雨の中、必死に手を合わせた時に感じた『何かが繋がった』という身体的記憶が蘇る。
——この感覚は……俺の願いが神に受け入れられた瞬間の感触だ。
セオリツの手にする笹の鈴が、甲高く天を突き刺すように鳴り響いた。
彼女の衣装に流れていた光る幾何学記号は、目にも留まらぬ速度で走り抜け、光の帯となって彼女の身体を離れていく。
宙を舞うその光は、やがて擦り切れそうな夜空の裂け目へと、吸い込まれるように消えていった。
——俺は悟った。神はいつもそうだ。
俺たちの願いを、そのままの形で叶えてくれることなどない。
差し出した対価を受け取らず、気づかないうちに別の何かを奪い去り、その理由すら教えてはくれない。
神(宇宙)は人間と対等な取引などしない。
ただ、理不尽で不条理な結果だけを投げ与えてくる。
……分かっている。
今回も『解釈』という解けない謎を俺に突きつけ、高次元から見下ろして笑っているのだろう。
けれど、その答えを求めるために……。
人類は、自らを超える知性を生み出そうとしたのかもしれない。
まるで、神の澱から人間が生まれたように。
人間の澱から、超知能を生み出してしまったように。




