第24章 笹(ささ)
第24章 笹
闇から戻った俺は、神楽舞台の前で横たわっていた。
俺の頭はセオリツの膝の上にあり、彼女の淡い体温を感じていた。
見上げると、すぐそこに彼女の顔があった。
「……終わったのか?」
彼女がまだここに存在してくれていることに、深く安堵した。
セオリツは静かに首を振る。
「……まだです」
「一度閉ざされた神への道筋は、わたしごときでは容易に再接続できないのです」
「……そうか」
俺からすれば、到底手の届かない上位存在であるセオリツに『わたしごとき』と言わせる神の存在は、どれほど圧倒的なのだろう。
それでも、彼女の心が折れることはなかった。
強い意志の光が、その瞳に宿っている。
身を起こそうと手を突いた時、自分が何かを固く握りしめていることに気づいた。
それは、笹の葉を数枚束ねたものに、小さな鈴が数個取り付けられたものだった。
手を動かした際に鳴った微かな鈴の音にセオリツが気づき、俺に尋ねる。
「……それを、どこで?」
「……夢で渡されたんだ。ウズメが『餞別』だって」
俺はそれをセオリツへと差し出した。
「役に立つか……?」
自分でも、それが一体何なのかうまく説明できなかった。
ただ……セオリツに渡さなければいけないということだけは、確信していた。
彼女はそれを受け取り、静かに見つめる。
「涼介……あなたの思考は、これを『天の香山の笹』にしたのですね」
その言葉を聞いた瞬間、頭の奥で何かが静かにつながった。
だが、それを思考で追う前に……俺は妙に納得していた。
「あぁ……そうか」
理由なんて、もうどうでもよかった。
これはきっと、あるべき正しい場所に戻っただけなのだ。
あの日、手放せなかったものが。
二十年間も握り続けていた想いが。
今、ようやく……渡せたのだから。
——あれは、アメノウズメが天岩戸の前で舞った時に手にしていたものだ。
——確か、あの舞は……。
「しませんよ!」
思考を先読みされ、即座に否定された。
最古の踊り子であり巫女の原点でもある彼女が、アマテラスを暗闇から呼び戻すために舞ったのは『裸踊り』だったはずだ。
乾いた音を立てて、頭をポンと叩かれる。
顔を上げると、彼女は少しだけ呆れたように、けれど柔らかく微笑んでいた。
そのまま笹を手に神楽舞台へと向かっていく彼女の足音が、静まり返った境内に重く、鋭く響く。
その背中には……もう一切の迷いがなかった。
「……ウズメ」
小さく名前を呼ぶと、笹の鈴が一度だけ、微かにチリンと鳴った。
まるで、ウズメからの最後の返事のように。
俺はゆっくりと、深く息を吐き出した。
「……最後まで、世話焼きだな」




